「スリープ」
2024年7月5日(金)シネマート新宿にて。午後2時10分より鑑賞(スクリーン1/C-13)
~睡眠中の奇怪な出来事に悩まされる夫婦。シリアスにユーモアをまぶした韓国製スリラー
今日は東京都知事選挙の投票日。私は期日前投票で完了。誰に入れたかは言わずもがな。しかしまあ権力は腐敗しますなぁ。
投票日の前々日は凄まじい暑さで、皮膚科医院からまっすぐ帰る気にならず、シネマート新宿へ避難。観たのは「スリープ」。韓国製スリラー映画だ。
物語は3章立てで描かれる。出産を控えた会社員のスジン(チョン・ユミ)は、売れない俳優の夫ヒョンス(イ・ソンギュン)と幸せな結婚生活を送っていた。ところがある晩、突然、ヒョンスが睡眠中に起き上がり不可解なことをつぶやく。その後もヒョンスは睡眠中に異常な行動をとるようになり、スジンは恐怖にかられる。クリニックに通い治療を受けるものの、ヒョンスの異常行動は続く。スジンの母は巫女を頼るべきだと言うのだが……。
この映画の監督・脚本は新人のユ・ジェソン。あのポン・ジュノ監督の助監督を務めていたという。そう言われれば、なるほどポン・ジュノ作品に似たところが多々ある。
寝息の音から映画が始まる。冒頭はホラー映画風。寝ていたはずの夫のヒョンスが窓際に立ち「誰か入ってきた」とつぶやく。そしてまたすぐに眠る。妻のスジンが何事かと訝しがっていると、突然大きな音が聞こえる。これは心霊現象なのか?
しかし、結局のところ「誰か入ってきた」というのは、俳優であるヒョンスがセリフを寝言で言ったものだということになる。奇怪な音も正体がわかれば何ということもなかった。
だが、それでは終わらない。不可解な現象はまだ続いた。ヒョンスは睡眠中に顔をひっかいて血だらけになる。そのため役も降板になる。そればかりか、眠ったままのヒョンスが冷蔵庫の生肉をガツガツと食べ、さらに恐ろしい事態を招く。こうして、ところどころに強烈な場面を織り込むのは、韓国映画お得意のパターンだ。
ヒョンスとスジンはクリニックに出かけ診断を仰ぐ。その結果、どうやら夢遊病らしいという話になる。ヒョンスは治療を受ける。
このクリニックのシーンは何となくユーモラスだ。さらに、その後、登場するスジンの母や、のちに彼女が連れてくる巫女なども同じくユーモラス。この映画はシリアスとユーモアの境界線上で絶妙なさじ加減を見せる。このあたりもポン・ジュノ作品と共通するところだろう。
マンションの階下の住人もユーモラスだ。見た目変なおばさんで(それゆえ逆に恐ろしいが)「明け方の騒音が1週間続いている」と苦情を言うのだが、ヒョンスもスジンも身に覚えがない。しかし、このことが終盤のドラマの展開に重要な影響を与える。
中盤はスジンが出産した後の話が描かれる。彼女はヒョンスが睡眠中に自分の娘に何かするのではないかと危惧する。何しろ夢遊病なのだ。夢遊病患者が人を殺したなどという記事も目にして、ますます彼女の疑念が膨らむ。ここに至ってドラマは心理スリラーの色が濃くなってくる。
どんどん恐怖が募って眠れなくなってしまうスジン。はたして、この先はどんな展開が待っているのか。
なんとまあ、その後はオカルトチックな展開に突入するのだ。そこでは例の巫女が縦横無尽に暴れまわる。それによってなおさら心を乱されたスジンは、信じられない行動に出る。
ラストは予想もつかない大団円。む? ヒョンスが役者だということを考えれば、もしかしてこのラストも別な意味を持つ? などとあれこれ詮索させるのも面白いところ。
この夫婦の自宅の壁には「二人一緒なら何でも克服できる」というスローガンが掲げられている。それを信じるスジンは頑張ってヒョンスを立ち直らせようとするのだが、スジンが娘を出産すると状況は悪化する。幸せな家族を希求するスジンの夢が、次第に狂気へと変容していく。つまりこれは夫婦関係を巡る皮肉な運命の物語なのである。夫婦そろってこの映画を観た人は、どんな感想を持つのだろうか。
スジンを演じたチョン・ユミは「82年生まれ、キム・ジヨン」でブレイクした。童顔でいかにもかわいらしい奥さん風の彼女が、後半に行くにつれて一変するところが恐ろしい。
一方、ヒョンスを演じたイ・ソンギュンは「パラサイト 半地下の家族」での演技で知られるが、昨年惜しくも他界した。いかにも良い夫のヒョンスが睡眠中に豹変し、さらにスジンに翻弄されていく姿をうまく表現していた。
ホラー映画から心理スリラーへ。さらにオカルト的な要素も散りばめ、シリアスとユーモアを絶妙なさじ加減でミックスしたユ・ジェソン監督の新人らしからぬ手腕が光る。さすがポン・ジュノの助監督を務めていただけのことはある。
そういえば、本作では犬が受難にあうが、ポン・ジュノの「ほえる犬は噛まない」も犬が大変な目にあう映画だったなぁ。
◆「スリープ」(SLEEP)
(2023年 韓国)(上映時間1時間34分)
監督・脚本:ユ・ジェソン
出演: チョン・ユミ、イ・ソンギュン、キム・クムスン、キム・グクヒ、イ・ギョンジン、ユン・ギョンホ
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://klockworx.com/sleep/
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