映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「カード・カウンター」

「カード・カウンター」
2023年6月16日(金)シネマート新宿にて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン1/D-14)
ポール・シュレイダー監督らしいサスペンス・スリラー。オスカー・アイザックが好演

タクシードライバー」はロバート・デ・ニーロ主演の名作映画。監督はマーティン・スコセッシ、脚本はポール・シュレイダー。そのシュレイダーはやがて監督もするようになり、「アメリカン・ジゴロ」「白い刻印」「魂のゆくえ」などの作品を送り出している。

「カード・カウンター」はマーティン・スコセッシが製作総指揮を務め、ポール・シュレイダーが監督、脚本を担当している。役柄は違えど「タクシードライバー」のコンビ。そのエッセンスが、あちらこちらに感じられる映画である。

主人公はギャンブラーとして生計を立てるウィリアム・テルオスカー・アイザック)。冒頭のモノローグで、彼が元軍人で10年近く刑務所に入っていたことが明かされる。いったい何をしたのか。

そんなある日、彼は謎めいた青年カーク(タイ・シェリダン)と出会う。ギャンブルブローカーのラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)の誘いで、ポーカーの世界大会に出場することになったウィリアムは、カークを相棒に各地のカジノに赴く。

な~んて言うと、どこかで聞いたようなバディものの話だが、なにせスコセッシ+シュレイダーの映画だけにそう単純な話ではない。ウィリアムとカークには浅からぬ因縁があったのだ。

実は、カークはウィリアムと同じ戦場にいた兵士の息子で、ある復讐計画にウィリアムを誘うのだった。それはアブグレイブ収容所における捕虜虐待事件に絡むもの。しかも、ウィリアムが刑務所に入っていたのはそのためだったのである。

この映画で最も秀逸なのはウィリアム役のオスカー・アイザックの演技だろう。彼が演じるウィリアムは過去に犯した罪にさいなまれ続け、目立つことを避けてストイックな日常を送っていた。ギャンブラーとしての信条も「小さく賭けて小さく勝つ」。

そして、彼は宿泊先のモーテル(カジノのホテルには目立つから泊まらない)で、部屋中の鏡を外し、家具にはすべて持参の白い布を巻いて生活する。ある種病的な行動をとるのである。

そんな複雑な内面を持つウィリアムは、無口で冷徹で狂気を秘めた人物。それをアイザックは見事に演じ切っている。そのたたずまいだけで、何やら背筋ゾクゾクものの恐ろしさなのである。ある種、「タクシードライバー」のデ・ニーロに共通する雰囲気も感じられる。これまであまりアイザックの出演作は観てこなかったが、実に良い俳優である。

ウィリアムはカークの復讐計画を必死で止める。そして、ギャンブルで稼いだ金で借金を返させ、大学生に戻らせようとする。なぜそこまでするのか。かつての同僚で今は亡きカークの父親に対する思いとともに、贖罪の気持ちもあったのだろう。彼をまともな生活に戻すことで、自身の罪の意識も少しは軽くなると考えたのかもしれない。

彼の犯した罪が夢の中の出来事として再三登場する。それはすさまじい出来事だ。同じ人間がよくもまああんなことができると思うばかり。とはいえ、それは特殊作戦と呼ばれた米軍の組織的行動なのだ。そして、これは実際に起きた出来事なのである。

その一方で、暗い場面ばかりかと思いきや、ギャンブルの場面はそれなりの盛り上がりだ。カードゲームのことはよくわからないのだが(タイトルの「カード・カウンター」というのもゲームのコツらしい)、それでもウィリアムが勝ち抜いていく場面は、エンタメ的な醍醐味がある。そして、孤独なウィリアムとラ・リンダのラブロマンスもちょっぴり描かれる。

終盤は、ウィリアムがカークに強烈な圧力を加え、彼を母親のもとに帰らせようとする。この場面もアイザックの不敵な演技が冴えわたる。あんな感じで迫られたら誰でも反抗しようがないわけで、カークも帰ることを承諾する。だが……。

というわけで、自らの過去と向きあうことを決意したウィリアムが、皮肉な運命にさらされてドラマは終わる。そして、ラストは印象的な映像と音楽で締めくくられる。

ラ・リンダ役のティファニー・ハディッシュ、カーク役のタイ・シェリダンも好演。そして、物語の鍵を握るテルの元上司役でウィレム・デフォーが出演している。

いかにもシュレイダー監督らしい脚本。冒頭のモノローグからシュレイダー節が全開だ。演出的にも奇抜さはないものの、全編を包む危うさに満ちた雰囲気など、ベテランらしい手腕が見られる。

何よりもアブグレイブ収容所における捕虜虐待事件という世界中を騒がせた米軍の蛮行を、ドラマの背景に持ってくるあたりに監督の気骨を感じる。世界は今ウクライナにおけるロシアの蛮行ばかりが話題になるが、米軍だってイラクでひどいことをやったのだ。それを忘れるな、とでも言っているかのようである。

派手さはほとんどないし、特に驚くような仕掛けもないが、シュレイダー監督の過去作とも共通する雰囲気を持った骨太なサスペンス・スリラーである。

◆「カード・カウンター」(THE CARD COUNTER)
(2021年 アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン)(上映時間1時間52分)
監督・脚本:ポール・シュレイダー
出演:オスカー・アイザックティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォー
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ http://transformer.co.jp/m/cardcounter/

 


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