「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
2023年10月25日(水)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン3/E-15)
~スコセッシ監督が先住民搾取の歴史を告発しつつ重厚なドラマを展開
数年前まではこの時期、東京国際映画祭の関係者向け上映で1日3~4本の映画を観ていたっけ。日比谷に会場が移ったのを機に、ご招待もなくなって、いまやすっかり足が遠のいてしまった。
だが、映画祭に行かずとも素晴らしい映画が公開されている。「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」。あのマーティン・スコセッシ監督の最新作だ。ジャーナリストのデイビッド・グランが先住民連続殺人事件について描いたノンフィクション「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作に、スコセッシ監督と「フォレスト・ガンプ 一期一会」などの脚本家エリック・ロスが脚本を手がけた。
それにしても、スコセッシ監督の映画は長尺の作品が多いのだが、本作は何と3時間26分。いくらなんでも長すぎるだろう! と、観る前は思っていたのだが、実際に観たらそんな長さはまったく感じなかった。社会派映画の側面を持ちつつも、娯楽映画としての面白さもちゃんと担保しているのだ。
1920年代、オクラホマ州にあった先住民オセージ族の居留地。オセージ族は政府によって強制的にこの地に移住させられ、大変な苦労を強いられていた。だが、ある日、石油が発見され、それによって彼らは一夜にして莫大な富を得た。石油目当てに多くの白人が集まり、街は大いに賑わっていた。
というようなことを、映画の冒頭でコンパクトに要点を押さえつつ、様々な映像などを駆使してわかりやすく説明してくれる。
そして、ドラマがスタートする。地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼って、戦争帰還者のアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)がオクラホマへと移り住む。
ヘイルは「キング」と称し、地域の顔役としてオセージ族の信頼も得ていた。彼らの言葉を理解し、彼らの生活に様々な貢献をし、いかにも偏見などない素晴らしい人物として振る舞っていた。だが、その裏では彼らの富を横取りしようと策略を巡らし、恐ろしいことをしていたのだ。
何しろ演じるのがロバート・デ・ニーロですからねぇ。こういう二面性ある人物をサイコパスではなく、複雑極まる人間として造形している。どう見ても優しく親切な好々爺でありながら、チラチラと底知れぬ恐ろしさを見せつける演技が絶品。さすがである。
というわけで、このキングにかかればアーネストなどひとたまりもない。すっかり彼の掌中に収まってしまう。
アーネストはオセージ族の女性モリー(リリー・グラッドストーン)と出会い、やがて結婚する。この結婚は2人の愛情によるものだ。運転手をしていたアーネストが、モリーの送り迎えをするようになり、自然にその距離が縮まっていった。
だが、それはキングの策略にも合致するものだった。キングはモリーの一族の資産を横取りするため、次々に親族を殺害する。そして、彼に命じられるままにアーネストはそれに加担する。
アーネストを演じるディカプリオも素晴らしい演技だ。アーネストは心からモリーを愛している。その心に嘘はない。それでいて、仲間たちと犯罪をためらわず繰り返す。こちらも二面性ある人物で、愛情と非情の狭間をゆらゆらと漂う。そんな不可解な人物を怪演している。
そして、モリーを演じたリリー・グラッドストーンも、これまた素晴らしすぎる演技である。言葉数は少ないのだが、その表情、特に目の光で多くのことを物語る。アーネストへの愛、絶対の信頼、そして、次第に膨らむ疑念。それらを完璧に表現していた。
ドラマは連続殺人事件を巡り、ワシントンD.C.から特別捜査官のトム・ホワイトが派遣されて捜査に乗り出すところで転機を迎える。キングやアーネストの尻に火が付き始めるわけだが、事件の全貌がほぼわかっているのにサスペンスとしての面白さが失われることはない。どうやって、捜査官が彼らを追い詰めるのか。それに対してキングやアーネストがどう立ち向かうのか。スリリングなドラマが続いていく。
終盤、アーネストは大きな選択を迫られる。それをめぐって、留置場でキングと対決する場面がものすごい迫力だ。デ・ニーロVSディカプリオ。両者の演技合戦が静かな炎を燃え上がらせる。ゾクゾクするような場面だ。
その後のアーネストとモリーの対話も印象深い。アーネストの決定的な発言を受けて、モリーが見せる悲しそうな目が忘れ難い。ディカプリオVSグラッドストーンの対決も見応え十分。
最後に、事件の顛末を下世話なラジオドラマにして見せるあたりもよく考えられている。観客を楽しませることにも怠りがない。けっして、お説教臭いドラマにしたりはしない。
とはいえ、白人による先住民差別と搾取の構図を暴き、それを告発した点で社会派映画の視点は明確だ。スコセッシ監督の怒りがそこにはある。それはけっして過去の出来事ではなく、今に続く問題だ。
それを大上段からのメッセージではなく、娯楽映画の中で示すあたりもスコセッシ監督らしい。「ゴッドファーザー」をはじめ、スクリーン全体からスゴミを漂わせる映画は多いが、本作もその一作といえるだろう。スコセッシ監督の重厚かつ濃密な語り口が、こちらに迫ってくる。
稀に見る力作なのは間違いない。必見である!
◆「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(KILLERS OF THE FLOWER MOON)
(2023年 アメリカ)(上映時間3時間26分)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、タントゥー・カーディナル、カーラ・ジェイド・マイヤーズ、ジャネイ・コリンズ、ジリアン・ディオン、ウィリアム・ベルー、ルイス・キャンセルミ、タタンカ・ミーンズ、マイケル・アボット・Jr、パット・ヒーリー、スコット・シェパード、ジェイソン・イズベル、スタージル・シンプソン、ジョン・リスゴー、ブレンダン・フレイザー
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
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