映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「宇宙探索編集部」

「宇宙探索編集部」
2023年10月19日(木)シネマカリテにて。午後3時より鑑賞(スクリーン1/A-8)

~アホアホなコメディーが最後には感動のドラマに。宇宙オジサンの生き様に拍手!

UFOや宇宙人への興味は、昔から尽きないようだ。中国でも、1990年代に「飛碟探索」というUFO雑誌が人気を集めたという。それをモデルに制作されたのが「宇宙探索編集部」である。

主人公はUFO雑誌「宇宙探索」の編集長のタン(ヤン・ハオユー)。映画の冒頭は、若き日の彼が宇宙人やUFOについて語るインタビュー映像が流れる。希望に燃えて若々しさにあふれている。

続いて、現在のタンが映る。それは年を取り疲れはてて見る影もない姿。とても同一人物には見えない。「宇宙探索」は廃刊寸前で、編集部にも不穏な空気が流れている。

起死回生を図るべくスポンサー企業を見つけてくるが、彼らの前で何かアピールが必要だ。そこで、編集部の人々は嫌がるタンに無理やり宇宙服を着せる。だが、その宇宙服が脱げなくなり、タンは窒息寸前の大ピンチ。救急車を呼ぶわ、消防車を呼ぶわの大騒ぎになるのだった。

そんな時、中国西部の村で宇宙人が現れ、怪現象を起こしたという情報がタンのもとにもたらされる。タンは、さっそく現地に探索に向かう。一癖も二癖もある編集部員や仲間たちを連れて……。

この映画は、全編が手持ちカメラによるドキュメンタリー仕立ての作品になっている。いわゆるモキュメンタリ―というやつだ。それが臨場感を醸し出すと同時に、どこかブラックでシニカルな味わいももたらしている。

最初のうちは、笑いの要素が満載だ。前述した宇宙服のエピソードに加え、「テレビの砂嵐は宇宙からの通信だ」などと奇妙奇天烈なことを話す、タンのユニークな言動で笑いを取る。

さらに、「あいつにだまされた!」とタンに文句ばかり言うのに、なぜか彼についてくる編集部のおばさんが、いい味を出している。

その後、タンたちが旅に出てロードムービーになってからも、この2人に加え、大酒飲みの気象観測員の青年、「宇宙探索」の大ファンだという若い女の子などが同行して、ハチャメチャな旅を繰り広げる。

最初に出会ったのは、怪現象の動画を撮影したという男。彼はなぜか賽銭箱(?)を掲げ、宇宙人のお告げだから520元出せと言う。「あほらしい。やめておけ」という周囲の忠告も無視して、タンが520元を出すと、何やら珍妙な宇宙人の遺体らしきものを見せ、足の骨をやるという。彼らは、ここからその骨とともに旅を続けることになる。

というわけで、もう笑うしかない場面だが、さらに爆笑の珍道中は続く。

怪現象が起きたという村に行くと、村人たちの目撃談が相次ぎ、ロバがさらわれた、獅子の像の玉が盗まれたと大騒ぎ。

そして、そこに新たなキャラ登場! 頭に鍋をかぶった謎の青年だ。どうやら、時々気絶して転倒するので鍋をかぶって頭を守っているらしいのだが、タンは宇宙からの電波が来るに違いないと主張する。青年は村の放送の仕事をしていて、放送で自作の詩を披露する。

こうして奇妙な人物たちの奇妙な言動が笑いを巻き起こしていく。まさに「変人たちの大集会」である。

その後、鍋かぶりの青年も同行してさらに旅は続き、最後はタン一人になって奥地に分け入る。そして、そこでタンは不思議な現象に遭遇するのだ。

このドラマ、最初はただのアホアホなコメディーかと思ったら、そうでもなかった。旅を続けるうちに、次第にタンの背中に哀愁が漂い、さらにその姿にすがすがしささえ感じてしまうのだ。

はたから見ればバカみたいなことでも、当人にとっては真剣で、ひたすら自分の信じる道を突き進んできた。そんなタンの人生に拍手を送りたくなってくるのである。

ラストもなかなか含蓄がある。実はタンは妻と離婚して(そりゃそうなるよな)、妻が娘を引き取ったとのことだが、その娘が自殺していたのだ。その影を引きずりつつ、宇宙へのロマンを語るタンの姿に胸が熱くなった。

うーむ、当初の方向性とは全く違う感情を呼び覚ますとは。この監督なかなかの腕だわい。と思ったら、本作はコン・ダーシャン監督が北京電影学院の卒業制作として作ったとのこと。

え? 卒業制作? まじかよ。というわけで、映画祭で評判を呼び、本国中国で異例の一般公開が実現し、思わぬヒットを記録したという。またすごい監督が出てきたなぁ~。

卒業製作とはいえ、それなりの役者も揃えていて、タンを演じたのは「無言歌」のヤン・ハオユー。彼の含蓄ある演技も素晴らしい。

◆「宇宙探索編集部」(宇宙探索編輯部 JOURNEY TO THE WEST)
(2021年 中国)(上映時間1時間58分)
監督:コン・ダーシャン
出演:ヤン・ハオユー、アイ・リーヤー、ロイ・ワン、チミー・ジャン、ション・チェンチェン
*シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://moviola.jp/uchutansaku/

 


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