映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「異人たち」

「異人たち」
2024年4月25日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時55分(スクリーン8/D-5)

山田太一の原作を映画化。現世と来世の境界線上で孤独な男の心が癒されていく

昨年11月に亡くなった山田太一氏は、脚本家として知られているが小説も書いている。その中でも、第1回山本周五郎賞を受賞した「異人たちの夏」は、1988年に大林宣彦監督によって映画化されたこともあり、よく知られている。

その「異人たちの夏」をイギリスを舞台に移して再映画化したのが、アンドリュー・ヘイ監督の「異人たち」だ。ヘイ監督は、「さざなみ」「荒野にて」などの作品で知られている。

ロンドンのタワーマンションに暮らす40歳の脚本家アダム(アンドリュー・スコット)は、12歳になる前に両親を交通事故で亡くし、孤独な日々を送っていた。目下、彼は両親との思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいた。ある日、彼が両親と幼少期を過ごした郊外の家を訪ねたところ、30年前に他界した父(ジェイミー・ベル)と母(クレア・フォイ)が当時と変わらぬ姿のままで暮らしていた。それ以来、アダムは実家に足繁く通い、父と母と会話を交わすうちに心が癒されていく。一方、彼は、同じマンションの住人である青年ハリー(ポール・メスカル)と恋に落ちるのだが……。

基本的なドラマの構図は原作と同じだが、大きな違いもある。特に原作では妻子と別れた脚本家だった主人公の設定を、独身で同性愛者の脚本家にしているのが特徴。それによって、主人公の孤独がより深く印象付けられる効果を発揮している。

主人公のアダムは、孤独を抱え、突然目の前からいなくなった両親に対してわだかまりを抱えている。そんな彼の目の前に両親が死んだ時のまま現れる。姿かたちはもちろん、心の内までも。

アダムはまるで子供の頃に戻ったように振る舞う。両親もまたそんなアダムを素直に受け入れる。両親と会って話をするうちに、アダムの心は少しずつほぐれていく。

ただし、彼が同性愛者だと知った時の両親の衝撃は大きかった。そこには時代の違いもある。特に、素敵な女性との結婚を期待していた母は戸惑いを隠さない。しかし、アダムが当時からずっと孤独を抱えていたことを知った両親は、最終的には理解する。

その一方で、彼は同じタワーマンションの住人である青年ハリーと知り合う。彼はどことなくミステリアスな雰囲気を漂わせている。そして、積極的にアダムにアプローチする。彼もまた同性愛者だったのだ。最初アダムは戸惑うが、次第に彼を受け入れる。2人は情熱的な恋に落ちる。

というわけで、男性同士の濡れ場もある映画だが、いやらしさはあまりない。それというのも、映像が美しすぎるのだ。オープニングのロンドンの風景からして、そのまま絵画になりそうな美しさ。その後も、美しく情趣にあふれた映像が展開する。

全体を包むタッチは静謐だ。常に流れる不穏で幻惑的なBGMもあって、ホラー的な要素も感じられる。そして、随所で効果的に使われるフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「パワー・オブ・ラヴ」、ペット・ショップ・ボーイズの「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」などの1980年代のヒット曲の数々。

こうした中で繰り広げられるドラマは、やがて終盤に差し掛かる。現実のようであっても現実ではない両親の存在は、いつかアダムの前から消える。それまではすべて家の中でのやりとりだったが、最後に3人で外出する。そこでの3人の会話が胸に染みる。

その末に、両親が「仲良くやって」と願うように、ハリーと幸せな日々を送るかと思えたアダムだが、ラストには衝撃的な結末が待っていた。ひしと抱き合う2人の姿は、やがて宇宙の星となる。切なく、余韻が残るラストシーンだ。

このラストシーンは、両親の時代に比べればよくなったとは言うものの、依然として困難な立場にある同性愛者を象徴したものとみるのは、考えすぎだろうか。

主演のアンドリュー・スコットと共演のポール・メスカルの繊細な演技が光る。両親役のジェイミー・ベルクレア・フォイの奥行きある演技も素晴らしかった。

現世と来世の境界線上で展開される魅惑的なドラマ。同性愛が大きなテーマになっているとはいうものの、それを超えた普遍的なものを感じさせる。孤独や人とのつながりについて考えさせられた。

◆「異人たち」(ALL OF US STRANGERS)
(2023年 イギリス・アメリカ)(上映時間1時間45分)
監督・脚本:アンドリュー・ヘイ
出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベルクレア・フォイ
* TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers

 


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