映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「プリシラ」

プリシラ
2024年4月18日(木)シネ・リーブル池袋にて。午後2時30分より鑑賞(シアター2/D-5)

エルヴィス・プレスリーの元妻の孤独と自立への道

 

昨日、大学病院の眼科に行ったら、左目に異常があるというので、目に注射をされて4万8210円も取られてしまった。先日15万円のパソコンを買ったばかりだというのに、どうするんだ、ワシ? 映画なんか観てる場合じゃないだろう。

しかし、まあ、それはそれとして(本当は、それはそれじゃないけど)、今日取り上げるのはソフィア・コッポラ監督の「プリシラ」。エルヴィス・プレスリーと結婚したプリシラプレスリーの回想録を映画化した伝記映画だ。

米軍関係者である父親の赴任地の西ドイツで暮らしていた14歳の少女プリシラ(ケイリー・スピーニー)は、同じく兵役で西ドイツに駐留していたスーパースターのエルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)と出会い、恋に落ちる。数年後、兵役を終えて帰国していたエルヴィスはプリシラの両親を説得して、彼女をメンフィスの豪邸「グレイスランド」に呼び寄せ、一緒に暮らし始めるのだが……。

ロスト・イン・トランスレーション」「マリー・アントワネット」などソフィア・コッポラ監督の過去作同様に、全編がポップな音楽と色彩鮮やかで陰影のある映像に包まれた映画だ。美術や衣装も凝りに凝っている。まさにコッポラ監督ならではの世界観といえるだろう。

そこで描かれるのは、エルヴィス・プレスリーの元妻プリシラの物語。14歳でエルビスと出会った彼女はまだ子供。エルヴィスを見る目はハートがキラキラ。夢見るお年頃に憧れのスーパースターに会ったのだから、それも無理はない。

一方のエルヴィスはどうだったのかといえば、こっちもかなり積極的。エルヴィスとプリシラは、身長差もあり、見た目も大人と子供。それだけに、「エルヴィスってロリコンじゃね?」などと言いたくもなるが、まあとにかくプリシラを可愛がるのだ。

それでもまだ2人が西ドイツにいるときは、プリシラの両親が厳しくて、そこには一定の線が引かれていたわけだが、エルヴィスが兵役を終えてアメリカに戻ると、プリシラの恋心は一層燃え上がる。「会えない時間が愛を育てる」ってやつですなぁ~。

だから、エルヴィスから「グレイスランドに来ないか?」と誘われたら、これはもう止められない。両親を説き伏せて、エルヴィスのもとに走るのだ。そして、そこから学校に通うのである。そう。彼女はまだ高校生だったのだ。

プリシラにとって、エルヴィスのところに行くということは、両親の庇護のもとから旅立って、大人の世界に足を踏み入れるということでもあったのだろう。

最初のうちは、豪華なセレブ生活を楽しむプリシラ。その時の彼女は、エルヴィス色に染まることに疑問を持たなかった。エルヴィスは「自分が外から電話をした時に必ず家にいてほしい」と言う。おまけに、プリシラの髪の色や服装、化粧まで自分の好みにしないと不機嫌になる。ある意味、モラハラっぽい男なのだ。

それでもプリシラは、最初はエルヴィスの言うがままに振る舞い、自分を出すことはなかった。エルヴィスが共演女優と浮名を流しても、それを否定する彼の言葉を信じて、平静を装おうとした。

だが、次第にプリシラは孤独と疎外感を感じるようになる。エルヴィスは一時スランプに陥り、精神世界に入り込んだりするが、やがて歌手として復活し精力的に活動するようになる。その間にプリシラは子供を産むが(その子がマイケル・ジャクソンニコラス・ケイジの元妻の故リサ・マリー・プレスリー)、その後はエルヴィスから心が離れてしまう。

本作はプリシラを中心に組み立てられたドラマであり、エルヴィスもプリシラの視点を通して描かれる。エルヴィスのステージシーンや俳優として活躍する場面はほとんどない。その代わり、プリシラと2人でいる時の言動から、彼の弱さや孤独が浮き彫りになる。

それをプリシラに癒してもらおうとするわけだが、ティーンエイジャーの頃ならともかく、成長していくうちにプリシラの内面も成長し、そんなエルヴィスに違和感を持ち始める。結局、プリシラはエルヴィスの孤独を癒せないし、エルヴィスはプリシラの孤独を癒せなかったのだ。

そして、彼女はついに自立を決意する。そこで流れるのはドリー・パートンの「I Will Always Love You」。これがいいんだなぁ~。心に染みますよ。

この映画の欠点といえば、プリシラの決断が少し唐突な感じがするところだろうか。そのあたりはもっと丁寧に描いてもよかった気がするが、自伝がベースだから仕方ないのかもしれない。

というわけで、この物語は、ひとりの少女が成長して自立するまでを描いた物語なのだ。女性の成長というテーマは、コッポラ監督にとって一貫したテーマとも言える。女性ならずとも共感する人は多いだろう。

それにしても、プリシラ役のケイリー・スピーニーの演技がすごい。この人、実際は24歳なのに14歳のプリシラを演じて全く違和感がない。しかも、成長して大人になった彼女も全く自然に演じている。その繊細かつ驚異的な演技に対して、ベネチア国際映画祭で最優秀女優賞が贈られたのも納得だろう。

一方、エルヴィス役のジェイコブ・エロルディも外見はともかく、しゃべり方などはいかにもという感じ。こちらもエルヴィスという人間の弱さを巧みに表現していた。

◆「プリシラ」(PRISCILLA)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間53分)
監督・脚本・製作:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ、ダグマーラ・ドミンスク、アリ・コーエン、ティム・ポスト、オリヴィア・バレット、リン・グリフィン、ダニエル・バーン、ロドリゴ・フェルナンデス=ストール、ステファニー・ムーア、ルーク・ハンフリー
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/priscilla/

 


www.youtube.com

*にほんブログ村に参加しています。よろしかったらクリックを。

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

*はてなブログの映画グループに参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。