映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エルヴィス」

「エルヴィス」
2022年8月1日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時20分の回(スクリーン1/D-10)

バズ・ラーマンがゴージャスに描く。スーパースターVS悪徳(?)マネージャー

たまにはメジャーな映画を取り上げたほうが読者が増えるに違いない……。な~んていう計算があったわけではない。前から観たかったのだが、ずっと混雑していて行けなかったのだ。というわけで、今頃ですが「エルヴィス」です。

言うまでもなく稀代のロック・スター、エルヴィス・プレスリーの伝記映画だ。この手の伝記映画は多いが、そのほとんどがスターの光と影を描いたもの。本作もそうなのだが、なにせ監督が「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマンだ。当然ド派手でぶっ飛んだ演出が目につく。そして、もう一つの大きな特徴が中心人物に悪役を据えているところ。その人物こそ「悪徳マネージャー」のトム・パーカー大佐である。

貧しい家庭に生まれ、黒人音楽の中で育ったエルヴィス(オースティン・バトラー)。ブルースとゴスペルをベースにした革新的な音楽と、独特のパフォーマンスでライブハウスを熱狂させる。それに目をつけたトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)は彼のマネージャーとなり、エルヴィスは瞬く間にスターになる。だが、同時に保守的な人々の間でブラックカルチャーを取り入れた彼のパフォーマンスは非難される。

冒頭からバズ・ラーマン節が全開だ。特に序盤はやりすぎなぐらいぶっ飛んだ演出が目を引く。映像も凝りに凝っている。少年エルヴィスが黒人音楽に心酔する様子を、まるで熱病のように映し出すなど、あの手この手で場面を盛り上げるのだ。

そのエルヴィスが、腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特なパフォーマンスで人気を博したのに目をつけたのがトム・パーカー大佐だ。カントリー歌手のマネージャーをしていた彼は、エルヴィスに成功の可能性を感じて、まもなく彼のマネージャーに乗り換える。

だが、実はこのトム・パーカーなる人物。かなり怪しいのだ。「大佐」と自称するように軍歴はあるものの、何か良からぬことをして逃亡してきたらしい。しかも無国籍者だという。ワケありすぎる過去を持つ謎の人物なのである。

その代わり人を籠絡させるテクニックには抜群に長けている。エルヴィスのマネージャーに収まる際にも、彼とその家族をうまいこと丸め込んでしまう。

それでも成功を手にするまでは彼らの思惑は一致していた。問題は成功後である。エルヴィスは黒人音楽に影響を受けていることもあり、当時のアメリカでは保守派の人々から顰蹙を買っていた。おまけに、独特のパフォーマンスが下品だと非難を集めていた。

そんな中、故郷メンフィスでのライブで、エルヴィスは警察に監視され、逮捕される可能性も出てきた。パーカー大佐は、逮捕を恐れてエルヴィスらしいパフォーマンスを阻止しようとするが、エルヴィスは自分の心に素直に従っていつものパフォーマンスをする。

この対立がその後も続く。世論を恐れたパーカー大佐は、エルヴィスを2年間の兵役に送り込み、愛国者のイメージを植え付けようとする。その間には愛する母の死と妻プリシアとの出会いという出来事もある。

やがて帰国したプレスリーは映画スターになるが、そのうち飽きられて人気をなくす。その復活劇を仕掛けたのもパーカー大佐だ。彼はエルヴィスに燕尾服を着せ、かつてのパフォーマンスを封印した「ニュー・エルヴィス」を演じさせようとする。だが、エルヴィスはそれを敢然と拒否する。

というように、ビジネス優先で事を運ぼうとするパーカー大佐と、心のままに歌おうとするエルヴィスはその後も何度も対立する。だが、それでもエルヴィスはパーカー大佐との関係を切れないのである。そこにはいったいどんな心理があったのか。

晩年、ラスベガスのホテルと専属契約をしたエルヴィスは、パーカー大佐が自分を食い物にしていると感じ、ようやく決別の決意をする。だが、あの手この手でそれを阻止しようとするパーカー大佐の前では、もはやなすすべがなかった。エルヴィスは薬漬けになり、家族も失ってしまう。

ラーマン監督はキング牧師暗殺、ロバート・ケネディ暗殺などの時代の重要事件も盛り込みながら、エルヴィスとパーカー大佐との関係に迫っていく。特に終盤はぶっ飛んだ演出を封印して、2人の関係性に焦点を絞る。さすがに「ムーラン・ルージュ」を手がけているだけに、楽曲の使い方も巧みである。

ところで、パーカー大佐のことを「悪徳マネージャー」と書いたが、劇中では別に彼を断罪しているわけではない。むしろそこからは、ああいう生き方しかできなかった悲劇の人という側面も見える。エンドロールの前には、エルヴィスの死後の彼の運命を伝えて悲哀を漂わせる。

結局、エルヴィスは42歳で亡くなった。死の少し前のステージで歌った「アンチェインド・メロディ」が心に染みる。もしも彼がパーカー大佐と出会っていなかったら、こんなに若死にすることもなかったかもしれない。だが、成功を収められた保証もどこにもない。スーパースターとはつくづく因果な商売である。

エルヴィス役のオースティン・バトラーは、これまではこれといった印象がなかったが(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などに出演していたようだが)、今回の演技は素晴らしすぎる。もともと目のあたりがエルヴィスに似ているが、圧巻のステージ・パフォーマンスと歌唱を吹替えなしで熱演している。まるでエルヴィスが憑依したかのようである。

パーカー大佐役のトム・ハンクスは特殊メイクでまるで別人のよう。声を聞けばさすがに誰だかわかるが、そうでなければ気づかないほどだ。その胡散臭い演技はさすがである。

BB.キング、リトル・リチャードなど、実在の有名ミュージシュンが続々登場するのも(しかもみんな似ている)魅力。

◆「エルヴィス」(ELVIS)
(2022年 アメリカ)(上映時間2時間39分)
監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、ヘレン・トムソン、リチャード・ロクスバーグ、ルーク・ブレイシー、ナターシャ・バセット、デヴィッド・ウェンハム、ケルヴィン・ハリソン・Jr、ゼイヴィア・サミュエル、コディ・スミット=マクフィー、ヨラ、ションカ・デュクレ、アルトン・メイソン、ゲイリー・クラーク・Jr、デイカー・モンゴメリー
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/


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