映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「オットーという男」

「オットーという男」
2023年3月19日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時40分より鑑賞(スクリーン6/B-7)

~ヘンクツな老人が隣人一家との交流で変わっていく姿を絶妙のブレンド

 

「オットーという男」の予告編を観た時に、「はて? どこかで聞いたような話だな」と思ったのだが、何のことはないスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」のリメイクだったのか。とはいえ、さすがハリウッド。なかなか味わいある小品に仕立てている。

町の嫌われ者でいつも不機嫌なオットー(トム・ハンクス)。曲がったことが許せない彼は毎日近所をパトロールして、ゴミの出し方や駐車の仕方などルールを守らない人を説教していた。おまけに挨拶をされても仏頂面、野良猫には八つ当たりというなんとも面倒で近寄りがたい男だったのだ。

映画の冒頭、オットーがDIYショップ(?)でロープを買うシーンから、すでに彼の性格が表れている。ロープの寸法の計測方法で店員にクレームをつけ、自分の後ろにレジ待ちの行列ができても我関せず。たまらず、後ろの人が「その分俺が払う」と申し出ても、そんなことをされるいわれはないと無視するのだ。

この一件を見てもわかるように、彼は偏屈な嫌われ者だ。それをどちらかというと、良い人キャラの役が多かったトム・ハンクスが演じるから自然に笑ってしまう。眉間にしわを寄せ、周囲を睥睨するその表情だけでもう十分におかしいのである。

しかし、彼がこんな偏屈になったのには理由がある。半年前に最愛の妻に先立たれて、生きる理由も見いだせず、孤独にさいなまれていたのだ。それどころか、彼は自殺を考えていた。冒頭に購入したロープはそのためのものだった。

そんな中、向かいの家にメキシコ出身のマリソル(マリアナ・トレビーニョ)とその家族が引っ越してくる。とにかく陽気で人懐っこく、お節介なマリソルは、何かとオットーに近づいてくる。オットーはいつの間にかマリソルのペースに巻き込まれ、右往左往する。その姿が無条件に面白い。

それでも、彼は自殺を決行する。しかし、何度自殺を試みてもアクシデントが起こったり、マリソルが邪魔をして成功しない。

やがてオットーが自殺願望を抱く理由が、若き日の回想シーンを交えて明かされる。それは喜びも悲しみもギッシリ詰まった、妻とのかけがえのない日々だった。その思い出があればこそ、オットーの絶望がより深くなったのだ。

だが、そんなことには関係なく、マリソルは突然訪ねてきて手料理を押し付けてきたり、小さい娘たちの子守や苦手な運転を教えてくれるようにオットーに依頼する。そこに、妻が生きていた頃のことを知る近所の人々や、教師だった妻の教え子のトランスジェンダーの子供なども関わってくる。

オットーは戸惑いつつも、次第にそうした人々との触れ合いを通して変わっていく。「生きる力」をもらうのである。

近隣の人々とのふれあいで主人公が変わっていくというのは、よくある話だが、移民やトランスジェンダーSNSレポーターといったあたりをフューチャーしているところに、現代的な色彩を感じさせる。

監督は「ネバーランド」「プーと大人になった僕」などヒューマンドラマを得意とするマーク・フォースター。脚本は「ネバーランド」「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」などのデビッド・マギー。

俳優陣ではトム・ハンクスに加え、脇役陣がなかなか良い演技をしている。特にマリソル役のマリアナ・トレビーニョの演技が素晴らしい。ちなみに、回想シーンの若き日のオットーは、トム・ハンクスの実の息子のトルーマン・ハンクスが演じている。ついでに猫も名演技!

ハリウッド映画らしい単純なハッピーエンドを排したラストも含めて、かなり感傷的な映画である。とはいえ、オットーの偏屈ぶりに加え、マリソルや近所の人々とのやりとりで笑わせ、けっしてベタベタの感動物語にしていないのが本作の真骨頂。ユーモアとほろ苦さが絶妙のブレンドで配合された作品になっている。

人と人とのつながりの大切さが伝わるとともに、心が温まるドラマである。オリジナルの「幸せのひとりぼっち」は観ていたのでストーリーは知っていたが、それでも十分に楽しめた。

◆「オットーという男」(A MAN CALLED OTTO)
(2022年 アメリカ)(上映時間2時間6分)
監督:マーク・フォースター
出演:トム・ハンクスマリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、レイチェル・ケラー、トルーマン・ハンクス
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://www.otto-movie.jp/

 


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