映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「フェイブルマンズ」

「フェイブルマンズ」
2023年3月16日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時40分より鑑賞(スクリーン5/G-13)

~複雑怪奇な両親との関係を描くスピルバーグの自伝的映画

 

スピルバーグも人生を振り返る年になったのかぁ~。

というわけで、スティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的映画「フェイブルマンズ」だ。自身の幼少期から映画界への扉を開くところまでを描いている。

1952年、両親に連れられ初めて映画館を訪れたサミー・フェイブルマン少年は、大きな衝撃を受ける。母親のミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)は彼に8mmカメラをプレゼントし、それをきっかけにサミー(ガブリエル・ラベル)はカメラ撮影に夢中になっていく。彼の作る映像作品は次第に周囲を驚かせるまでになっていくが、まじめな科学者の父バート(ポール・ダノ)は、それを単なる趣味としか見なさなかった。そんな中、一家は父の仕事の関係で、アリゾナからカリフォルニアへと引っ越すことになるのだが……。

序盤は映画少年の成長譚の様相。主人公のサミーが最初に観た映画は「地上最大のショウ」。その列車脱線シーンに大きな衝撃を受け、列車の模型でそのシーンを再現しようとする。母親はそんな彼に8mmカメラを買い与える。それから彼はカメラ撮影に夢中になる。

高校生になる頃には、かなり本格的な映画撮影をして周囲を驚かせる。役者(といっても友達だが)にも演技指導をして自らカメラを回す。音は出ないが、音楽(レコード)をバックにしたその映像はプロ顔負けだった。

というわけで、サミー少年はもちろんスピルバーグがモデル。彼の映画少年としての成長を描くわけだが、実は本作はそれ以上に大きな要素がある。それは家族ドラマだ。サミー少年と両親との微妙な関係をあぶり出すのである。

母親のミッツィはピアニスト。といっても、結婚してからは本格的な活動はしていない。サミーを含めて4人の子供を持ち、育児と家事にほぼ専念している。芸術家肌の彼女は、サミー少年が映画に夢中になるのを全力で応援する。

一方、彼の父バートはエンジニア。妻のミッツィのことが大好きで、子供たちにも限りない愛情を注ぐ。ただし、妻と正反対に科学者肌の彼は、サミーが映画に熱中することをあまり快く思っていない。

となると、サミーと父の確執が描かれるかと思えばそう単純ではない。実は、この家庭にはもう1人の男性の存在が色濃く影を落とす。それはバートの部下ベニー(セス・ローゲン)である。彼はフェイブルマン家に入り浸り、家族のように過ごす。

そして、ある日、サミーは衝撃的な事実を知る。それは家族でのキャンプを彼が撮影したホームムービー。フェイブルマン家の家族に加え、バートも参加していた。その映像を後日編集していた彼は気づく。そこに母の知られざる秘密が映っていたのだ。映画好きのサミーが、ホームムービーの映像でその事実を知るとは、何と残酷なことだろう。

サミーは大きなショックを受け、母との関係がギクシャクする。カメラを回すのもその日からやめ、カメラも売却しようとする。

そんな中、エンジニアとしての才能を認められた父が、大会社から引き抜かれ、一家はアリゾナからカリフォルニアへと引っ越すことになる。だが、バートまで一緒に連れて行くことはできなかった。

そこからは青春映画の要素を呈する。実はフェイブルマン家はユダヤ教徒だった。それまで住んでいたところでは大した問題も起きなかったが、カリフォルニアではユダヤ教徒は少数派。そのためサミーは転校した高校でいじめられる。

そんな中、キリスト教徒の女の子と恋に落ちたり、再びカメラを回すことになったりと色々起きるのだが、そこでも両親の問題が彼を悩ませる。もともと正反対の性格だった父と母は、ベニーの存在もあって決定的な局面を迎えてしまう。

というように、映画少年の成長譚+両親との確執を描いた本作だが、、特に驚くような場面はないし、どこかで観たようなシーンが続く。スピルバーグの過去作に出てきたようなシーンも多い。

だが、それでも観応えは十分だった。撮影はスピルバーグ映画ではおなじみのヤヌス・カミンスキーが担当しているし、音楽はこちらもスピルバーグ映画でおなじみの超ベテラン、ジョン・ウィリアムズが担当しているとあって、相当にレベルが高い作品だ。スピルバーグの自伝的映画という以前に、普遍的な家族ドラマとしても見応えがある。

母親役のミシェル・ウィリアムズはさすがにうまい。特に起伏が激しくて、精神的に不安定な彼女の様子を巧みに表現している。父親役のポール・ダノの抑えた演技もなかなかのものだ。途中で出てくる祖母の弟役のジャド・ハーシュの渋い演技も目を引く。

まあ、しかし、最大のサプライズはラストに出てくるデヴィッド・リンチだろう。意外な人物に扮して悪態をつくシーンが笑える。しかも、それがスピルバーグ、ではなくサミー少年が映画の扉に手をかけるきっかけになったのだから面白い。

◆「フェイブルマンズ」(THE FABELMANS)
(2022年 アメリカ)(上映時間2時間31分)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ミシェル・ウィリアムズポール・ダノセス・ローゲン、ガブリエル・ラベル、ジーニー・バーリン、ジュリア・バターズ、ロビン・バートレット、キーリー・カーステン、ジャド・ハーシュ、デヴィッド・リンチ
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://fabelmans-film.jp/

 


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