「サン・セバスチャンへ、ようこそ」
2024年1月25日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時30分より鑑賞(スクリーン7/E-8)
~数々の映画のシーンが散りばめられたウディ・アレンの映画愛にあふれた作品
ご存知ウディ・アレン監督の2020年の作品「サン・セバスチャンへ、ようこそ」。スペインの映画祭を舞台にしたラブコメだ。
オープニングのオールドな雰囲気のクレジットから、早くもウディ・アレンの世界が全開。展開するのはいつも通りのラブコメだ。
ニューヨークで暮らす、かつて大学で映画を教えていたモート・リフキン(ウォーレス・ショーン)。今は小説を書くべくもがくものの、世界の文豪に匹敵する作品を意識して全く筆が進まない。
そんな中、妻で映画の広報をしているスー(ジーナ・ガーション)が、フランス人監督のフィリップ(ルイ・ガレル)と不倫していると疑う。そこで、スペイン北部バスク地方の街サン・セバスチャンで開催されるサン・セバスチャン映画祭に、スーに同行してやって来る。
現地で案の定、スーがフィリップと親しげにしているのを目にして、モートは気が気ではない。モートが心労のため地元の診療所を訪れると、そこには若く美しい女性医師のジョー(エレナ・アナヤ)がいた。モートはジョーに恋心を抱くのだが……。
モートがユダヤ人であることも含めて、アレン監督自身を投影させているのは言うまでもない。悩める主人公が恋愛模様のあれこれに巻き込まれ、人生の意味を求めて珍騒動を繰り広げる。そこにはシニカルなユーモアが仕掛けられ、観客をクスクスと笑わせる。アレン作品ではおなじみのパターンだ。
ただし、今回は、いつもは感じられる苦みや深刻さはあまりない。アレン作品の常連ウォーレス・ショーンがモートを演じていることもあるが、何よりも風光明媚なサン・セバスチャンという土地柄が影響しているような気がする。
そしてこの映画には、さらに大きな特徴がある。現地でモートンは街を歩いて様々な空想をしたり、夜中に夢を見る。その場面はモノクロ映像で描かれ、鮮やかな現実世界と区別される。
そこで描かれるのは数々の映画の名シーンのオマージュやパロディーなのだ。
●「市民ケーン」(オーソン・ウェルズ)
●「8 1/2」(フェデリコ・フェリーニ)
●「突然炎のごとく」(フランソワ・トリュフォー)
●「男と女」(クロード・ルルーシュ)
●「勝手にしやがれ」(ジャン=リュック・ゴダール)
●「仮面ペルソナ」(イングマール・ベルイマン)
●「野いちご」(イングマール・ベルイマン)
●「皆殺しの天使」(ルイス・ブニュエル)
●「第七の封印」(イングマール・ベルイマン)
以上9本。
私も全部はわからなかったので、映画サイト等の情報も拝借して挙げてみたのだが、これは正直すごいな。モートが映画に詳しいという設定ならではだろうが、もちろんアレン監督にとっても大きな影響を与えた作品なのだろう。
いずれも名監督の歴史に残る映画ばかりだ。アレン監督は若い頃に、こういう映画を観て自らの映画監督としての地位を築いてきたに違いない。そういう意味でとても興味深い映画である。
ちなみに、再現シーンは出てこないが日本の映画の名前も出てきます。
ラストがハッピーエンドとはいかないのもアレン監督らしい。いや、ある意味でこれはモートンにとってハッピーエンドかも。再出発できるのだから。ラストでインタビューに答える彼に、インタビュアーが何と言ったのかが気になる。
主演のウォーレス・ショーンは陽キャなのがいい味になっている。ラブコメにはピッタリだ。妻役のジーナ・ガーションの華やかさ、フィリップ役のルイ・ガレルのいかにも売り出し中の映画監督らしい佇まいもいい。クリストフ・ヴァルツは意外な役で登場。
映画監督も年を重ねると、自身の過去を振り返るような作品を撮ることがよくあるが(最近ではスピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」とか)、これもそういう作品なのかもしれない。いずれにしてもウディ・アレンの映画愛があふれた作品。
◆「サン・セバスチャンへ、ようこそ」(RIFKIN'S FESTIVAL)
(2020年 スペイン・アメリカ・イタリア)(上映時間1時間28分)
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ウォーレス・ショーン、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、エレナ・アナヤ、セルジ・ロペス、クリストフ・ワルツ
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
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