映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「哀れなるものたち」

「哀れなるものたち」
2024年1月28日(日)ユナイテッドシネマ・としまえんにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン2/D-6)

~現代に通じるテーマを持った強烈な刺激のフランケンシュタイン的世界

ヨルゴス・ランティモス監督の「ロブスター」は、独身者がパートナーを見つけなければ動物に変えられるというお話。ストーリーもぶっ飛んでいたが、その内容もかなりぶっ飛んでいた。刺激的で、毒々しく、ある意味、露悪的な映画だった。

「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」「女王陛下のお気に入り」に続くランティモス監督の新作「哀れなるものたち」を観て、その「ロブスター」を思い出した。何しろランティモス節が全開の映画なのだ。

スコットランドの作家アラスター・グレイの小説の映画化だ。脚本は「女王陛下のお気に入り」「クルエラ」のトニー・マクナマラが担当している。

オープニングタイトルからしてランティモスの美意識が全開(エンドタイトルも)。それに続いて描かれるのは、ゴシックホラー調のフランケンシュタイン的世界だ。

ビクトリア朝時代のロンドン。天才外科医バクスターウィレム・デフォー)は、自殺を試みた女性に、彼女の胎児の脳を移植して蘇生させる。ベラ(エマ・ストーン)と名付けられたその女性は、バクスターの屋敷に隔絶されたままだったが、やがて「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられ、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出る……。

冒頭はピアノを弾くベラ。だが、それは赤ん坊のようなデタラメな弾き方。続いて食事をするベラ。嫌いなものを平気で吐き出す。彼女は、肉体は大人でも頭脳は赤ん坊のままなのだ。

序盤はほぼモノクロ映像で描かれる。改造人間のベラが、創造主のバクスターによって屋敷の中に閉じ込められて過ごす。バクスター「ゴッド」と呼び、その庇護のもとにいたベラだが、その精神は急速に発達する。

ちなみに、フランケンシュタインは容貌も奇異な改造人間だったが、ベラは脳を移植されただけなので美しい。その代わりバクスターがあちこち改造されたらしく、フランケンシュタイン的な容貌だというのが面白い。

純粋無垢なベラが最初に目覚めたのは性的快楽。ナニが気持ちいいと知り、最初は1人で、やがてプレイボーイの弁護士ダンカンとエッチをする。そのダンカンとともに欧州を巡る旅に出たベラが、今度はカラー映像で描かれる。

旅の最初はリスボン。最初はダンカンとエッチしまくりだったベラだが、様々な体験をするうちに次第に彼と旅をすることに疑問を持つ。

続いてダンカンに強制的に連れてこられた船の上。そこでベラはさらに様々な体験をする。乗船客と出会い読書を覚え、さらに貧困にあえぐスラムの人々を見て衝撃を受ける。

そして今度はパリ。一文無しになったダンカンを尻目に、娼館で肉体を駆使して稼ぎ自立する。ここに至ってベラを支配していたダンカンは、彼女についていけずに心身がボロボロになる。

こんなふうにベラが様々な体験を重ねて成長していく様子を描く。赤ん坊の精神だった彼女はやがて自立し、社会構造を知る。その過程では性的な抑圧や男性の支配構造にもNOを突きつける。

映像が美しく鮮烈で、夢にでも出てきそうな映画だ。広角レンズを使うなど細部までこだわって、絵画的な映像を作り出している。スケールも大きく、美術へのこだわりもすごい。これぞランティモス映画といった感じだ。

皮肉で毒のあるユーモアや、グロテスクな描写でエロも全開(当然R18)。知らない人が観れば腰を抜かしそうだが、終盤でフランケンシュタイン的な存在だったバクスターに、人間的な感情を芽生えさせたり、波乱のドラマにふさわしくない穏やかなエンディングを持ってくるあたりも、いかにもランティモス監督らしい。

そんなドラマを通して伝わってくるのは、心や体、快楽は誰かに支配されるものではなく、自分のものなのだ、という強いメッセージ。純粋無垢だったベラが、たくましく成長する姿を通して、それを高らかにうたい上げる。

ベラを演じたエマ・ストーンは、ベラの成長をクッキリ刻み付ける演技が見事。何より、こんなクセモノ映画に出演した気概が素晴らしい。ウィレム・デフォーのいかにもの佇まい、マーク・ラファロのダメなプレイボーイぶりも出色。

破天荒な中にも現代に通じるテーマがあり、映画的妙味も数々ある。刺激は強いが観る価値は十分にある。

それにしても、第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金獅子賞を受賞したのをはじめ、第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞など11部門にノミネートされるのだからすごい。あまりの刺激の強さに審査員がやられてしまったのか!? 恐るべし、ヨルゴス・ランティモス

◆「哀れなるものたち」(POOR THINGS)
(2023年 イギリス)(上映時間1時間21分)
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーンマーク・ラファロウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル、クリストファー・アボットハンナ・シグラ、マーガレット・クアリー、ヴィッキー・ペッパーダイン、スージー・ベンバ、トム・スタートン、イェルスキン・フェンドリックス
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

 


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