「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」
2024年12月4日(水)シネ・リーブル池袋にて。午後4時50分から鑑賞(シアター2/D-4)
~1987年製作のウサギたちの旅を描いたアニメ。現代にも通じるテーマを持つ
アート・ガーファンクルの歌が好きだ。サイモン&ガーファンクル以降、どちらかというとポール・サイモンに注目が集まりがちだったが、アートの歌声はこの世のものとは思えないほど美しく心に染み入ってきた。
そんなアート・ガーファンクルに「ブライト・アイズ」という曲がある。これもまた美しいバラードだが、アニメに使用された曲だと聞いて、いつかそのアニメを観たいものだと昔から思っていた。
だが、実はそのアニメ「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」は、日本では1980年にすでに公開されていた。畑正憲監修の日本語吹き替え版のみの上映だったという。それがこのほど、製作45周年を記念してHDリマスター版、しかも字幕版で公開されるという。これは観に行かねばなるまい。
1973年にカーネギー賞とガーディアン賞を受賞した、イギリスの作家リチャード・アダムスによる児童文学のアニメーション映画化だ。
イギリス・ハンプシャー州のサンドルフォード繁殖地。そこに住むウサギたちのうちの1羽(ウサギはこう数える)、ファイバーは予知能力を持っていた。ある日、彼は災害が迫っていると知り、みんなに告げる。ファイバーの兄ヘイズルは、ウサギたちの長に避難を提案したものの、相手にされない。そこでヘイズルたちは、何羽かのウサギとともに理想郷を目指して脱出する……。
映画は神話的な場面で幕を開ける。そこでは大昔のウサギたちの物語が綴られる。このアニメがけっして子供だけではなく、大人にもアピールするものであることを印象付ける。
その後は、災害を察知して村を出たウサギたちの苦難に満ちた旅が描かれる。かなり昔のアニメとはいえ、時には精緻に、時には戯画化して、ウサギたちの姿を生き生きと映し出す。
川を渡り、野を駆け抜け、敵と戦うダイナミックな場面や、それとは対照的な巣穴の中の静かなシーンなど、どれも見事な映像だ。
キャラクターが立っているのも特徴。ウサギ一羽一羽は言うに及ばず、犬や猫、鳥(これが実にいいキャラをして笑わせてくれる)なども、きちんと描き分けられている。ヘイゼルの声を担当した名優ジョン・ハートなどキャストの力量もそれに貢献している。
彼らの敵は人間や他の動物だけではない。同じウサギでも様々なウサギがいて、場合によっては彼らの敵になる。そういう中で仲間が死んだり、死にかけたりするが、それでも知恵を絞って必死で生き抜いていく。
そして、このアニメで忘れてはならないのは、今の世の中を予言しているかのようなテーマを扱っていることだ。ファイバーが予知した災害とは、高級住宅地の開発による自然破壊。ウサギの巣穴がつぶされ、森林は伐採される。
また、旅の最後には独裁ウサギによる独裁国家と遭遇する。これも現在の社会を予言しているかのようだ。いや、むしろ普遍性あるテーマといえるのかもしれない。
いずれにしても、けっしてバラ色のおとぎ話の世界ではないのである。
クライマックスは独裁者との戦い。ヘイズルたちは、そこから逃げ出そうとするウサギたちを助けて知恵を絞り、何とか独裁者を打ち倒そうとする。そこでは例の鳥も大きな貢献をする。手に汗握る緊迫の場面である。
そして、最後は再び神話的なエピソードで締めくくる。
原作は未読だが、なかなかシビアな大人にも楽しめるアニメだった。そして、劇中で流れるアート・ガーファンクルの「ブライト・アイズ」はやはり素晴らしく美しい曲だった。
◆「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」(WATERSHIP DOWN)
(1978年 イギリス)(上映時間1時間33分)
監督・脚本・製作:マーティン・ローゼン
声の出演:ジョン・ハート、リチャード・ブライアーズ、マイケル・グレアム・コックス、ジョン・ベネット、ラルフ・リチャードソン、サイモン・カデル、テレンス・リグビイ、ロイ・キニア、リチャード・オキャラハン、デンホルム・エリオット、ゼロ・モステル、ハリー・アンドリュース、ナイジェル・ホーソーン、ハンナ・ゴードン、クリフトン・ジョーンズ、マイケル・ホーダーン、ジョス・アクランド、メアリー・マドックス
*シネ・リーブル池袋ほかにて公開中
ホームページ https://usagi-movie.jp/
*はてなブログの映画グループに参加しています。よろしかったらクリックを。
*にほんブログ村に参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。