「クライ・マッチョ」
2022年1月20日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時25分より鑑賞(スクリーン5/G-13)
~イーストウッドのたたずまいが人生を語る。孤独な老人と少年のロードムービー
いよいよこれが最後の監督作か。と毎回思わせられるクリント・イーストウッド監督の映画。しかし、そのたびにまた新作が出て驚かされる。
そんなイーストウッドが監督デビュー50周年を迎えた記念すべき40作目の監督作が「クライ・マッチョ」だ。主演もイーストウッドが務めている。
アメリカのテキサス州。落ちぶれた元ロデオスターのマイク(クリント・イーストウッド)は、ある日、恩人の元雇い主から、別れた妻のもとにいる13歳の息子のラフォ(エドゥアルド・ミネット)をメキシコから連れ戻してほしいと依頼される。マイクはメキシコに旅立つが、行ってみるとラフォは母親に愛想をつかし、闘鶏用のニワトリ“マッチョ”を相棒にストリートで生きていた。やがてマイクはラフォとともにアメリカに向かうが、母親の仲間やメキシコの警察が2人を追ってくる。
原作はN・リチャード・ナッシュの小説。舞台は1979年のメキシコ。老人と少年の心の交流というストーリー自体は、「グラン・トリノ」あたりを連想させるが、とりたてて珍しい話ではない。むしろありがちなロードムービーだ。
だが、イーストウッドが演じるとそれだけで魅力的で味わい深い映画になる。何しろその存在感が圧倒的なのだ。
彼が演じるマイクは、かつて数々の賞を獲得しロデオ界のスターとして一世を風靡したものの、落馬事故をきっかけに落ちぶれて家族も事故で失い、いまは孤独な老人だ。映画の冒頭では仕事も首になる。
そんな彼が、元雇い主から別れた妻のもとにいる息子を連れ戻すように依頼される。半ば誘拐のような訳あり仕事だったが、マイクはそれを渋々引き受ける。
一方、彼が連れ戻そうとするラフォという少年も孤独だ。実父は早々に彼のもとを去り、母親はパーティー三昧で始終違う男と遊んでいる。そこにラフォの居場所はなく、彼はストリートで暮らす。唯一の友達はニワトリのマッチョだった。
というわけで、孤独な老人と孤独な少年の旅が始まる。2人(と1羽)でアメリカを目指すが、息子に執着する母親は追っ手を放ち、メキシコ警察も怪しい2人を追う。マイクにとっては、ただ義理を返すためだけの旅なのだが、これが悲壮感ゼロ。実に楽天的なのだ。
何が起きても鷹揚に構え、飄々とピンチを切り抜ける。皮肉たっぷりの会話でラフォを煙に巻き、彼の反発を軽くいなす。老いた自分を飾ることもなく、自然体で接する。カッコいい男は91歳になってもカッコいいのだ。その超然たるたたずまいが、それだけで人生を語っているのである。
母親の放った追っ手に捕まり、乗っていた車を盗まれ、それでも何とか旅を続けるマイクたち。その挙句に、車が故障してある町に予想外に長く滞在することになる。これがドラマの転機だ。
その町で風変わりな食堂の女主人と知り合い、彼女の孫たちと交流する。さらに、暴れ馬の調教に才を発揮し、ラフォともども楽しく過ごす。
しかし、まあ元ロデオスターだから馬を馴らすのがうまいのは当然だが、マイクときたらドリトル先生のように動物全般に詳しいのだ。そのため人々が列をなして相談に来る。おまけに手話まで習得している。「長い人生で身につけたのさ」という言葉も、そのへんの役者がしゃべったら嘘くさいが、イーストウッドが話すと説得力がある。
マイクに息子を連れてくるように依頼した父親には、実は別の思惑もあって……というあたりのラストの展開もほぼ予想通りだが、それでもラフォに「本当の強さとは何か」を語って、彼の背中を押すマイクの姿が印象深い。
イーストウッドの他にもラフォ役のエドゥアルド・ミネット、食堂の女主人役のナタリア・トラヴェンも好演。ついでに雄鶏のマッチョも素晴らしい演技を披露している。終盤ではアクションも披露。アカデミー助演「鳥」賞でもあげたいところだ。
とはいえ、やっぱりイーストウッドの魅力がいかんなく発揮された映画だ。あの年齢で馬に乗ったり、ダンスをしたり、キスシーンを演じるなどまだまだ元気。この分なら、またまた次回作も期待できるかも?!
◆「クライ・マッチョ」(CRY MACHO)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間44分)
監督・製作:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、エドゥアルド・ミネット、ナタリア・トラヴェン、ドワイト・ヨーカム、フェルナンダ・ウレホラ、オラシオ・ガルシア=ロハス
*丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/crymacho-movie/