映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ぜんぶ、ボクのせい」

「ぜんぶ、ボクのせい」
2022年8月19日(金)新宿武蔵野館にて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン3/C-5)

~母の愛を求める孤独な少年と過去を持つホームレスとの交流

シナリオコンクールの審査員を務めることがあるのだが、応募作の中にはありがちなストーリーのものも多い。孤独な少年が風変わりな大人に出会って変わっていく……というのも、よくあるパターン。

松本優作監督の「ぜんぶ、ボクのせい」という映画は、まさにそのパターンだ。はっきり言って手垢のついた物語の感が拭えない。

児童養護施設で暮らす13歳の中学生・優太(白鳥晴都)は、施設にも学校にも居場所がなく、いつか母・梨花松本まりか)が迎えに来てくれることを心の支えに暮らしていた。そんなある日、偶然母の居場所を知った優太は、施設を抜け出し、母の住むアパートを訪ねる。しかし同居する男に依存して自堕落な生活を送る母は、優太を施設に戻そうとする。

絶望してあてもなく海辺を彷徨っていた優太は、軽トラで暮らすホームレスの男・坂本(オダギリジョー)と出会う。2人は行動を共にし、さらに裕福な家庭に生まれながら居場所がない少女・詩織(川島鈴遥)とも親しくなるのだが……。

先ほど手垢のついた物語といったが、それでもこの映画はなかなかよくできている。それは何といってもオダギリジョーの演技によるところが大きい。

彼が演じる坂本は、名古屋に行く途中で故障したという軽トラで暮らすホームレス。その生活はメチャクチャだ。優太の金を巻き上げたのを皮切りに、自転車を盗んでスクラップ屋に売り飛ばしたり、見知らぬ人から優太を使って金をゆすり取ったりする。

その一方で、海辺の風景を絵に描き、自らの生死感を語り、時々含蓄のある言葉を吐く。そして、何より彼は母親に虐待された過去を持つ。こうした多面性を持つ人間だからこそ、一緒に生活するうちに優太が心酔するわけだ。

こういう役はオダギリのハマリ役である。彼が演じることによって、坂本という人物がリアルに息づいてくるのだ。

松本まりかが演じる母親もいい。最初こそ突然再会した優太を優しく受け止めるものの、男に依存している彼女に選択肢はない。心にわだかまりを抱えたまま、結局は優太を突き放すのである。ああいう母親、ホントにいそうだもんなぁ。

前半は優太と坂本の交流の日々を生き生きと描く。そこで優太は少しずつ変わっていく。優太を演じる白鳥晴都はあまりしゃべらない役だけに、表情などでその心の変化を見せなければいけないが、それをうまくこなしている。特に目の光が印象的。最初は刺すような視線が次第に優しくなっていく。

中盤以降は、そこに詩織という少女が加わる。詩織を演じる川島鈴遥も存在感十分。キラキラした輝きと影を同時に表現。劇中で披露する歌(大瀧詠一の『夢で逢えたら』)もなかなかのものだ。優太が詩織に淡い恋心を抱くのも納得である。

ただし、詩織のキャラについてはイマイチ説得力がない感じもした。彼女は恵まれた家庭で暮らしながら、父の束縛が強いらしく、自分の居場所がないと感じている。幼い頃に亡くなった母の死への疑問もある。そのため悪い仲間とつきあったり、良からぬバイトをしている。

というのだが、優太や坂本に比べると詩織の影が薄いと思う。まあ、家庭に自分の居場所がないというのはわからんでもないが、だからといってああいう行動に出るのは理解し難い。心に闇を抱えているなら、それをもう少しわかるように見せて欲しかった。優太や坂本が母の育児放棄や虐待というわかりやすい問題を抱えているだけに。

この手のドラマは明るい結末や、そこまでは行かなくても微かな希望の光を灯す結末が多い。だが、実はこの映画の冒頭では暗い結末を予感させるエピソードが挿入されている。

案の定、ドラマは悲劇的な展開を迎える。安易な希望などない。「ぜんぶ、ボクのせい」というタイトルがここで大きな意味を持つ。エンディングにも大瀧詠一の『夢で逢えたら』が流れるのだが、ドラマの結末とその明るい曲調との落差が大きく、思わず言葉を失ってしまった。

もしかしたら松本監督は、あえて暗い結末を描き、その先の映画に描かれていない未来に希望の光を見出しているのかもしれない。絶望の向こうの微かな希望……だろうか。

というわけで気になるところはあるものの、ある少年の輝きと挫折を真摯に描く姿勢には好感が持てた。美しい海の風景や火を効果的に使うなど細部への配慮も怠りなく、ドラマの情趣を盛り上げている。

主役級以外に脇役も若葉竜也、仲野太賀、片岡礼子、木竜麻生らと充実。それぞれに持ち味を発揮しているので、そこにもぜひ注目を。

松本監督は1992年生まれの若い監督。秋葉原無差別殺人事件をテーマにした「Noise」が評判になったとのこと(未見だが)。今後に期待したい。

◆「ぜんぶ、ボクのせい」
(2022年 日本)(上映時間2時間1分)
監督・脚本:松本優作
出演:白鳥晴都、川島鈴遥松本まりか若葉竜也、仲野太賀、片岡礼子、木竜麻生、駿河太郎オダギリジョー
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://bitters.co.jp/bokunosei/


www.youtube.com

よろしかったらクリックしてね↓

にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村