映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「靴ひものロンド」

「靴ひものロンド」
2022年9月25日(日)新宿武蔵野館にて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン3/C-4)

~夫婦のもめごとが招く不可解な事件。その意外な犯人は……

久々の外国映画はイタリアとフランスの合作。ドメニコ・スタルノーネのベストセラー小説「靴ひも」をダニエーレ・ルケッティ監督が映画化した「靴ひものロンド」。個人的にはあまり知らないのだが、ルケッティ監督は「ワン・モア・ライフ!」「ローマ法王になる日まで」などの作品で知られ、イタリアでは有名な監督とのこと。

夫婦と家族のドラマである。1980年初頭のナポリ。アルド(ルイジ・ロ・カーショ)とヴァンダ(アルバ・ロルヴァケル)夫婦は、娘アンナと息子サンドロと家族4人で平穏な日々を送っていた。しかし、ある日、夫のアルドは自ら浮気を告白。やがてアルドはローマで浮気相手と暮らし始める。ヴァンダの精神状態は不安定となり、その行動はエスカレートしていく。月日は流れ、再び一緒に暮らしていたアルド(シルヴィオオルランド)とヴァンダ(ラウラ・モランテ)だが……。

著名な監督だけあって原作を巧みにまとめている。1時間40分の中に小説の全てのエッセンスが入るはずもないので、おそらく大胆な省略や飛躍も多いのだろうが、それが少しも不自然でないのだ。さすがである。

冒頭に描かれるのは、日本でも坂本九の歌でおなじみのフォークダンス「ジェンカ」で、楽しそうに踊る人々。その中にアルドとヴァンダの夫婦もいる。実に幸せそうだ。だが、これがすぐに暗転する。

その後一転して自宅のシーンになり、アルドは他の女と関係を持ったことをヴァンダに告白する。「その女のことを愛しているのか?」とヴァンダに問われるが、「そんなことはない」と答える。だが、その言葉が真実かどうかはわからない。ヴァンダは夫が出ていかなければ、自分たちが出て行くと詰め寄る。アルドは家を出る。

その後、ラジオパーソナリティーのアルドはローマに住み、同僚である愛人と暮らし始める。それでも2人の子供がいるため、アルドとヴァンダは微妙な関係を続ける。ヴァンダはアルドに戻って欲しいと思うが、アルドは応じない。2人は激しい口論を繰り返し、ヴァンダは次第に精神的に不安定になる。そして、ついに自殺未遂までしてしまうのだ。

それを見つめているのが、夫婦の子供、娘アンナと息子サンドロだ。2人はローマとナポリを行き来しながら夫婦の不仲を目撃する。徹底的に母に寄り添っているように見える2人だが、同時に冷めた目で見ていたことがあとになってわかる。

象徴的なのが、アルドと愛人が歩いているところをヴァンダが襲撃するシーンだ。夫はそれに反撃する。愛人は間に入って止めようとするものの、なすすべがない。その一部始終を無音で描く。これは、車の中からその様子を見つめるアンナとサンドロの視点に立ったものだろう。

このように本作は特定の誰かではなく、複数の違った視点で描かれるのが特徴。そこから登場人物のキャラが掘り下げられていく。アルドの優柔不断さ。エキセントリックなまでに感情に走るヴァンダ。最初は控えめだった愛人も次第に感情を露呈する。こうして、アルドとヴァンダは煮え切らないグズグズの夫婦関係を続けていくのである。

夫アルドがラジオで朗読する文章も効果的に使われる。特にフィッツジェラルドの『夜はやさし』という小説の一説の朗読が、なかなか意味深に聞こえてくる。

こうして、すったもんだで色々あった挙句、アルドとヴァンダは再び一緒に暮らすようになる。後半は老年期の2人を描く。役者も若い時の2人とは違う役者が演じる。2人は相変わらずギクシャクしつつも、とりあえず夏のヴァカンスに出かける。しかし、その間に家には何者かが入り込み、メチャクチャに荒らしていた。しかも、飼い猫が行方不明になっていたのである。

いったい誰がやったのか?夫婦ドラマ、家族ドラマにミステリーの要素が加わる。

ここで効果を発揮するのが、若き日の2人の出来事の振り返りだ。一部時制をバラしながら、過去にどんなことがあったのかを描く。アルドとヴァンダ、そして愛人のバトルを赤裸々に見せていく。

そして、ついに意外な真犯人が登場。それが誰かは伏せるが、なるほどなぁ、と思わせる結末だ。

げに怖ろしきは子供たち。いやいや、子供たちをそんなふうにしたのも夫婦のグダグダのせい。大人同士の醜い争いが、いかに子供に悪影響を与えるかを知らしめて、ドラマは終わるのである。

ちなみに、タイトルの「靴ひものロンド」とは、この事件の鍵を握る人物がかつて靴ひもの結び方を習ったことから付けられたもの。こんがらがった靴ひもは、そう簡単にはほどけないのである。

アルドとヴァンダを演じた俳優たちは、青年期、老年期とも実力派揃い。愛人役はなかなか色っぽいし、2人の子供の壮年期を演じた俳優たちも好演。

夫婦について色々と考えさせられる奥深い映画であった。見ていて身につまされる夫婦も多いのではないだろうか。まあ、一度も結婚したことはないし、子供もいないので偉そうなことは言えないのだが(笑)。

◆「靴ひものロンド」(LACCI)
(2020年 イタリア・フランス)(上映時間1時間40分)
監督:ダニエーレ・ルケッティ
出演:アルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、ラウラ・モランテ、シルヴィオオルランド、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、アドリアーノ・ジャンニーニ、リンダ・カリーディ、フランチェスカ・デ・サピオ
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://kutsuhimonorondo.jp/

 


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