映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「あまろっく」

「あまろっく」
2024年4月23日(火)新宿ピカデリーにて。午後1時55分より鑑賞(スクリーン8/
D-9)

~定番の人情喜劇だが、江口のりこ中条あやみ笑福亭鶴瓶のキャスティングが絶妙

「あまろっく」。何だかヘンテコなタイトルの映画だなぁ~。と思ったら、実はこれは通称「尼ロック」と呼ばれる「尼崎閘門(こうもん)」のこと。水門を開け閉めすることで、兵庫県尼崎市を水害から守ってくれているのだ。

映画は謎のシーンから始まる。ウェディングドレス姿の2人の女性が並んで登場する。なぜに2人???

続いて映るのは、小学生の近松優子(後野夏陽)が父の竜太郎(松尾諭)、母の愛子(中村ゆり)とともにスワンボートに乗って、尼ロックを見学している場面。彼女は学校の作文コンクールで尼ロックを取り上げるのだ。

というわけで、1994年からドラマが始まる。近松家では、鉄工所を経営する竜太郎が「俺は尼ロックや」を自称し、仕事の実務は人に任せて、ただひたすら能天気に過ごしていた。優等生の優子は、父のようにはなるまいと心に決めていた。

そして時間は飛んで2015年。成長した優子(江口のりこ)は京大を出て、東京の大手企業に就職し、エリート街道をひた走っていた。しかし、会社から成績優秀で表彰される一方で協調性には欠け、いつも周囲から孤立していた。まもなく、それが仇となりリストラの憂き目にあう。仕方なく優子は実家に戻る。

それから8年。39歳の優子は独身で定職にも就かず、ニートのような暮らしを送っていた。そんなある日、父の竜太郎(笑福亭鶴瓶)が、突然、再婚を宣言する。再婚相手として連れてきたのは、なんと20歳の早希(中条あやみ)だった……。

この映画は典型的な人情喜劇である。テーマはズバリ、家族の絆。バラバラだった家族が、様々な現実に立ち向かう中でひとつになっていく姿を描く。

そこには目新しさや驚きはない。脚本にも演出にも特に突出したところはないし、この手のドラマの定番の範囲内でドラマが進んでいく。

しかし、それでもこの映画は面白い。何より主要な登場人物3人のキャラが抜群に立っているし、キャスティングが絶妙なのだ。これが本作の最大の魅力になっている。

まず、父の竜太郎は「人生に起こることはなんでも楽しまな」が口癖で、ひたすら能天気な人物。リストラされて帰ってきた優子を、「祝リストラ」の横断幕と赤飯で笑顔で迎えるのだ。それを演じるのは笑福亭鶴瓶。これはもうどこから見てもハマリ役でしょう。何があってもあの笑顔でやり過ごすのだから。抜群の安定感だ。

一方、娘の優子はいつも不機嫌。めったに笑うことはない。おまけに突然、自分より年下の母が登場したのだから戸惑いは大きい。優子を演じる江口のりこは、その仏頂面がこのドラマ全体の屋台骨を支えている。やさぐれた役をやらせたら右に出る者はいないだけに、こちらもハマリ役だ。

そして、竜太郎の再婚相手の早希。ひたすら平凡な家族団らんを夢見る。年の離れた結婚につきものの打算とは無縁。純粋でまっすぐに生きる彼女を演じた中条あやみも、なかなかの演技なのだ。

ドラマの中盤までは、39歳独身女子の優子と、65歳の父・竜太郎、そしてその再婚相手となった20歳の美女・早希が繰り広げるドタバタな同居生活が描かれる。3人のすれ違いと衝突が笑いを生み出す。

ところが、中盤、ある出来事が起こり、そこからは優子と早希のドラマになる。鶴瓶が消えてしまうのだ。

正直「これは苦しいだろうなぁ」と思ったのだが、なんのなんの。江口と中条のやり取りが予想以上で、ちっとも面白さが失速しないのである。

後半は、かみ合わない共同生活の中、早希が独身の優子を見かねて持ち込んだ縁談がドラマの大きな柱になる。同時に、早希が家族団らんを熱望するに至った悲しい過去も描かれる。さらに、阪神淡路大震災のエピソードを絡めて、竜太郎が「人生に起こることはなんでも楽しまな」を信条にした背景が描かれる。

優子の縁談をめぐる話は進展し、早希にはある大きな変化が起きる。その中で葛藤を抱えた優子は、悩んだ末に大きな決断をする。というのが終盤の展開。そこには笑いだけではなく、優子と早希のシスターフッド的な要素もある。

この終盤はずんずんと感動が押し寄せてくる。しかも押しつけがましくないから、自然に泣けてくる寸法だ。私もつい不覚にも涙してしまった。

ラストには1年後の彼女たちが描かれ、まさしく大団円を迎える。そして、それが冒頭の場面につながるのである。

定番の人情喜劇だが、文字通り笑って、泣いて、感動できるドラマだ。こういう映画も悪くない。それもこれも、このキャストだからこそ。江口のりこ中条あやみ笑福亭鶴瓶の演技を堪能した。

ちなみに、鉄工所の職人役で渋い演技を見せていた佐川満男さんは、4月12日に逝去し、これが遺作となりました。合掌。

◆「あまろっく」
(2024年 日本)(上映時間1時間59分)
監督・原案・企画: 中村和宏
出演: 江口のりこ中条あやみ松尾諭中村ゆり中林大樹駿河太郎、紅壱子、久保田磨希浜村淳、後野夏陽、朝田淳弥高畑淳子佐川満男笑福亭鶴瓶
*新宿ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://happinet-phantom.com/amalock/

 


www.youtube.com


www.youtube.com

*にほんブログ村に参加しています。よろしかったらクリックを。

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

*はてなブログの映画グループに参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。