映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「波紋」

「波紋」
2023年5月26日(金)池袋HUMAXシネマズにて。午後12時30分より鑑賞(シネマ4/G-9)

~社会問題にブラックな笑いも盛り込んだ女性の自己解放のドラマ

かつては「かもめ食堂「めがね」など癒やし系映画の監督のように思われていた(私が思っていただけか?)荻上直子監督。ここのところの充実ぶりはハンパではない。「川っペリムコリッタ」に続く新作「波紋」も、実に面白い映画だ。

主人公の女性、須藤依子の人間ドラマであると同時に、クスクス笑えるブラックコメディーでもある。

冒頭はその依子(筒井真理子)が朝起きるシーン。隣には夫の修(光石研)がイビキをかいて眠っている。だが、なぜか夫婦は頭と足が逆。つまり、修の頭の位置に依子の足があり、依子の頭の位置に修の足があるのだ。これはイビキがうるさいためだろうか。それとも何か他に理由があるのだろうか。いずれにしても、この夫婦、何か変だ。

おりしも、テレビでは大震災で原発が爆発したニュースが流れている。スーパーには水を買い求める人々が押し寄せる。依子は放射能で汚染されているからと、家族に水道水を飲まないように命じる。だが、寝たきりの義父の食事の調理には水道水を使う。ここで早くもブラックな笑いが炸裂する。

そして、突然修が消える……。

それから10年後、依子は夫の失踪以来、「緑命会」という新興宗教を頼りに、祈りと勉強会に励みながら心穏やかな日々を過ごしていた。家にはそこで購入した水があり、大きな水晶玉を供えた神棚があった。おまけに、庭は枯山水に作り替えられていた。

ここにも笑いの種が転がっている。依子が頼る新興宗教ときたら、何とも珍妙な団体なのだ。特にみんなで踊る踊りがどこか変。とはいえ、依子をはじめ信者たちは大まじめだ。それが何とも滑稽である。同時に枯山水をきれいに整える依子に、きれい好きで何事もキッチリしないと済まない彼女の性格が見て取れる。

そんな中、失踪した修が突然帰ってくる。ガンになったから、最後ぐらいは依子のもとで過ごしたいというのだ。自分の父の介護を押し付けていなくなった修に、依子は怒り心頭だ。だが、依子はその感情を押し隠す。仏頂面で淡々と修に接する。しかし、その端々に怒りの感情が見て取れる。隠れて夫にいたずらしたりもする。

修は高額な新薬を治療に使うために金が必要だった。その金を依子に出してもらおうとする。依子は迷うが「夫を許しなさい」という緑命会のリーダーの言葉に従い、金を出してやることにする。夫がその新薬を点滴している時に、薬が1滴落ちるごとに「40万、45万、50万……」とつぶやく依子が笑える。

それ以外にも、パート先のスーパーで理不尽な客に罵倒されるなど、自分ではどうしようもない苦難が次々と依子に降りかかる。それとともに依子に黒い感情が湧き上がってくる。パート先の同僚も、「ダンナを殺そうか」などと物騒なことを言う。

さらに、九州で就職していた息子の拓哉(磯村勇斗)が、障害のある恋人(津田絵理奈)を結婚相手として連れ帰ったことから、依子の心は大きく乱れる。

このように突然襲い掛かった困難に日常が大きく狂わされ、心がどんどん乱れていく依子の姿が描かれる。

感心するのは、依子を夫に逃げられた被害者として描かない視点だ。彼女はきちんとした性格で、不満ながらも夫の面倒を見るし、息子を思うあまりその恋人に悪意をさらけだす。時には底意地の悪さをさらけ出すし、自己中心的な行動もとる。その他の登場人物も含めて、欠点だらけの生身の人間が総登場なのだ。

だからこそ、このドラマがリアルに響くのである。依子という、どこにでもいそうな女性の揺れ動く心理が手に取るように伝わってくる。彼女のいら立ちが観客にダイレクトに伝わる。随所に散りばめられたブラックユーモアにクスクス笑いながら、依子の生きづらさについ共感してしまう観客も多いに違いない。

タイトル通りに波紋をバックにした映像で家族の言い争いを描いたり、依子が水晶玉で夫を殴り殺す妄想シーンを見せたり、荻上監督の演出は自由奔放、大胆不敵。

新興宗教、震災、放射能汚染、障害者差別などなど、様々な社会問題に向き合っているのも本作の特徴。前作「川っペリムコリッタ」でもそうだったが、荻上監督はあくまでもエンターティメント映画の枠を守りつつ、こうした社会問題にも積極的に言及している。

まあ、木野花演じるパートの同僚の生き様まで描くあたり、少し盛り込み過ぎかなという感じはしないでもないが。

ラストシーンが痛快だ。喪服の依子が天気雨の中でフラメンコを美しく、力強く踊る。ここに至ってようやく彼女は、自らを解放することができたのだろう。新たな一歩を記した依子のその表情よ!

筒井真理子が絶品の演技。今さらながらだが、本当に素晴らしい俳優だ。特に運命のいたずらに翻弄される女性を演じさせたら一級品。

その他の俳優陣も、ホームレス役でチョコっと出てくるムロツヨシをはじめ日本映画には欠かせない役者ばかり。充実のキャストだ。

いや、しかし、なかなかすごい映画だったな。時間があったらもう1回観てこようっと。

◆「波紋」
(2022年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:荻上直子
出演:筒井真理子光石研磯村勇斗安藤玉恵江口のりこ平岩紙ムロツヨシ津田絵理奈花王おさむ柄本明木野花キムラ緑子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://hamon-movie.com/

 


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