「BAD LANDS バッド・ランズ」
2023年10月1日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時35分より鑑賞(スクリーン1/B-5)
~ワルが大活躍のピカレスク映画。充実の娯楽作だが大阪弁が聞き取りにくいのが難点
ピカレスクは「悪者」「悪党」「ならず者」の意味。有名なのはピカレスク小説だが、映画にもピカレスク映画がある。
悪党の姉と弟が大活躍する「BAD LANDS バッド・ランズ」は、さしずめそのピカレスク映画だろう。直木賞作家・黒川博行の小説「勁草」を「クライマーズ・ハイ」「ラスト・サムライ」「ヘルドッグス」「関ヶ原」「燃えよ剣」などのベテラン・原田眞人監督が映画化した。
舞台は大阪。特殊詐欺グループの一員として、高城(生瀬勝久)の下で働くネリ(安藤サクラ)は、刑務所帰りで血のつながらない弟ジョー(山田涼介)を使ってくれるように頼む。だが、その直後にジョーが暴走し、取り返しのつかない事態を引き起こす。2人は大金を手にするが命を狙われ、海外への逃亡を企てる……。
いや、まあ、悪党大活躍の映画ですよ。登場人物の大半は悪人。それがせめぎ合い、さらにそこに警察が絡んでくる。これほど本格的なピカレスク映画は、そうそうあるものではないでしょう。
特に目立つのが序盤の特殊詐欺(オレオレ詐欺)の犯行場面。裏の顔を持つNPO法人理事長の高城の指示で、ネリが受け子の差配をする。ターゲットを受け子とともに追い、その行動を観察する。そして、いざGOサインとなるはずが、その直前に警察が張り込んでいることを察知し、ネリは犯行を中止する。
いかにも原田監督らしいスピード感あふれる場面だ。手持ちカメラを効果的に使い、短いカット割りで見せる。抜群の緊迫感で、ここから早くもスクリーンに引き込まれてしまった。
その後も、多くの人物(ほとんどワル)が次々に登場し、ドラマを転がしていく。時にアクションも散りばめながら、緊張感にあふれたよどみのないドラマを展開していく。
ドラマ自体の構図は完全な娯楽作。ワルは典型的なワルらしく振る舞い、刑事もどこかの刑事ドラマで観たようなたたずまい。ネリを狙う元雇い人(兼愛人)のビジネス界の大物も典型的なIT長者。ドラマの展開もわかりやすい。
その一方で、社会問題にも焦点を当てる。ネリの住む大阪の西成区は底辺層の人々が居住する町。彼らの姿を通して現代の格差社会をあぶり出す。特殊詐欺の犯行の様子やそこに引き込まれる人の姿からも、現代社会の闇が見て取れる。ワルは社会の格差を利用して、不正を働くのである。
ネリとジョーに過去の不幸を背負わせ、悪漢ながら同情すべき余地を残したのも納得の描き方。2人がそれぞれに秘密を抱え、それゆえ離れがたい絆を生んでいることを示している点も、ドラマ的には実に効果的だ。
とまあ、なかなか充実した娯楽作なのだが、大阪弁が聞き取りにくいのが難点。ネリや高城の大阪弁も、時々意味がわからなくて難儀したのだが(特に早口になると)、ジョーや子分の大阪弁に至っては何言ってんだかさっぱりわかりませ~ん、という感じ。大阪弁とは縁遠い私は字幕(もちろん標準語の)が欲しいぐらいであった。
それに加えて、あまりにも大量の人々が出てくるから、ネリやジョーなど一部の人物を除いては、あまり深くその人物像が描けていないのも弱点か。けっこう出番の多い人でも、上っ面しか描けていない感じがした。役者の熱演でかなりの部分はカバーできてはいるのだが。
その俳優陣だが、いずれも素晴らしい演技だった。安藤サクラは、ここまで悪い役をやったのは珍しいのでは? 生き生きとワルを演じていた。ただ悪いだけではなく、繊細な感情表現をしているところもさすがという感じ。山田涼介も悪い上にボンクラな弟を熱演。ただし、自分を「サイコパス」と言ったのに、ちっともそう見えないのが玉に瑕。
脇役陣でもボスを演じた生瀬勝久、大阪府警で特殊詐欺の刑事役の吉原光夫、特殊詐欺合同特別捜査班班長役の江口のりこなどが個性的な演技。特にネリたちを助ける元ヤクザを演じた宇崎竜童がいい味を出していた。それに加えて天童よしみの怪演も見もの。
色々と欠点はあるが、娯楽作品としては充実した作品だと思う。俳優たちのぶち切れた演技を見ているだけでも楽しい映画だ。
◆「BAD LANDS バッド・ランズ」
(2023年 日本)(上映時間2時間23分)
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
出演:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、吉原光夫、大場泰正、淵上泰史、縄田カノン、前田航基、鴨鈴女、山村憲之介、田原靖子、山田蟲男、伊藤公一、福重友、齋賀正和、杉林健生、永島知洋、サリngROCK、天童よしみ、江口のりこ、宇崎竜童
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://bad-lands-movie.jp/
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