映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン」

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン」
2023年11月19日(日)新宿シネマカリテにて。午後3時より鑑賞(スクリーン1/A-10)

~ひたすら自由を求めて逃亡するモナ・リザ。チョン・ジョンソの魅力が炸裂!

最近、アジア系の俳優がハリウッドで活躍するケースが目につく。「モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン」は、イ・チャンドン監督「バーニング 劇場版」で注目を集め、その後Netflix配信の「ザ・コール」「ペーパー・ハウス・コリア 統一通貨を奪え」「バレリーナ」などの作品に出演しているチョン・ジョンソのハリウッドデビュー作だ。

映画の冒頭、スタンダードナンバーの「モナリザ」が流れる。それはこのドラマの主人公の名前だ。

月が赤く輝く夜。森の中の精神科病院モナ・リザ(チョン・ジョンソ)が拘束服を着せられて、床に座り込んでいる。彼女は12年間この施設に隔離されていた。

まもなく女性職員がやって来て、乱暴に彼女の爪を切る。モナ・リザは怒りに震えて彼女を見つめる。次の瞬間、職員はハサミを自らの太ももに突き立てて、悲鳴を上げる。モナ・リザは、目を見ただけで他人の行動を操ることができる特殊能力に目覚めたのだ。

病院から逃走したモナ・リザニューオーリンズにたどり着く。そこで、シングルマザーのポールダンサー、ボニー・ベル(ケイト・ハドソン)と知り合ったことから、彼女の運命は大きく変わる……。

この映画のアナ・リリ・アミリプール監督は、長編監督デビュー作「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」で脚光を浴びたとのこと。私は未見なのだが、「次世代のタランティーノ」とも呼ばれているらしい。

確かに独自の世界観が際立つ。サイケデリックな映像と刺激的な音楽をバックに、強烈なパワーで見るものをスクリーンに引き込む。なかなか個性的な監督だ。特に映像の美しさは出色。随所に挟まれる月の映像も効果的だ。

ドラマは、精神科病院を逃げ出してきたモナ・リザの逃走劇である。モナ・リザは長い間世間と隔絶した世界に置かれていた。当然外界のすべてに対して警戒する。だから、病院を逃げ出した当初の彼女はひたすら攻撃的で凶暴だ。自分の逃走を阻むものには容赦しない。巡査が一度彼女を追い詰めるが、拳銃を自分の足に発砲し重傷を負ってしまう。もちろん、それはモナ・リザがやらせたことだ。

モナ・リザという名前とは裏腹に彼女は微笑んだりはしない。ほとんど無表情で恐怖感や怒りを抱え逃走を続ける。ニューオーリンズの街で謎の男と出会い、彼の着ていたTシャツを奪う(それまではずっと拘束服のまま)。

さらに、シングルマザーのポールダンサー、ボニー・ベルの窮地を救ったことから、彼女の家に寝泊まりすることになる。

モナ・リザがボニーの働くストリップバーで、ストリップを興味津々で眺め、あれこれと質問をするところが面白い。彼女にとって、見るもの聞くものすべてが初めて経験することで、全く知識がないのだ。

ボニーは、モナ・リザの特殊能力を使用して他人の金を奪う。善悪の区別がつかないモナ・リザは無表情で彼女に従う。

そんな中、ボニーの家には彼女の息子チャーリー(エヴァン・ウィッテン)がいた。彼との交流がモナ・リザを少しずつ変えていく。初めて彼女が見せた笑顔が印象的だ。

彼女を病院に連れ戻そうとする警察から必死に逃げるモナ・リザ。スリリングで予測不能なドラマが続く。絶対にワルだと思った男が実はいいやつだったり、絶対に良い人だと思ったボニーがそうでもなかった、というように観客の予想を裏切る展開が続いていく。

逃げ出した最初の頃は、無造作に人を傷つけていたモナ・リザだが、ドラマが進むにつれて少しずつ変わっていく。チャーリーとの温かな交流をはじめ、様々な人との触れ合いが彼女を変えていく。彼女の表情は明らかに最初の頃とは違ってくる。

ただし、ひたすら自由を渇望する彼女の姿には変わりがない。それは、同じく自由を求めたり、自分の居場所を求める人たちの心を揺さぶるのではないか。けっして、正義のヒロインというわけではないが(むしろ最初の頃はダークなヒロインといった感じ)、それでも彼女の逃走につい感情移入してしまう。

ラスト近く、飛行機の中で見せるモナ・リザの笑顔が印象的だ。この先の彼女はどうなるのだろう。余韻を残すドラマだった。

モナ・リザを演じたチョン・ジョンソは、無表情の中に様々な感情を秘めた素晴らしい演技だった。特に無垢さと狂暴性を同居させた演技が絶品。彼女の魅力が十二分に発揮された映画だった。今後も色々なところで活躍しそうだ。

共演のケイト・ハドソンも、複雑な感情を併せ持つ女性を巧みに表現。その演技力の高さを見せつけた。

◆「モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン」(MONA LISA AND THE BLOOD MOON)
(2022年 アメリカ)(上映時間1時間46分)
監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、エド・スクラインエヴァン・ウィッテン、クレイグ・ロビンソン
*新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
ホームページ https://www.monalisa-movie.jp/

 


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