「首」
2023年11月24日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン5/F-14)
~北野武流「本能寺の変」は「アウトレイジ戦国版」。みんなワルでクセモノだらけ
「世界のキタノ」こと北野武監督の新作映画「首」。2017年の「アウトレイジ 最終章」以来の監督作だ。
描くのは本能寺の変。天下統一を目指す織田信長(加瀬亮)。だが、家臣の荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし、追い詰められて逃走する。信長は羽柴秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)ら家臣を集めると、自らの跡目相続をエサにして村重の捜索を命じる。やがて村重は捕らえられ光秀に引き渡されるが、光秀はひそかに村重をかくまう。秀吉は徳川家康(小林薫)を懐柔しつつ、信長が跡目を譲る気がないことを光秀に伝えて決起を促す……。
本能寺の変を描いた映画やドラマはこれまでもたくさんあった。そんな中で、北野流の本能寺の変はどう描かれたのか。まるで「アウトレイジ戦国版」といった趣だ。登場人物のほぼ全員がワルなのである。
まず織田信長だが、その言動はほとんど狂人である。家臣を恫喝し、暴力を振るい、まさに絵に描いたような最低最悪の暴君。荒木村重に対して、刀に刺した饅頭をほお張らせ、口中を血だらけにさせて喜ぶ。「戦国無双」のカッコいい信長の姿などどこにもないのだ。
家臣たちも信長ほどではないものの、人でなしには変わりがない。羽柴秀吉はあれこれ策をめぐらして天下取りを狙い、邪魔者は情け容赦なく消す。人に対する思いやりのかけらもない。
徳川家康はというと、これがまあとんでもない狸オヤジなのだ。常に替え玉を立てて、自分は安全な場所にいる。敵に自分の本心をさらけ出さないように、徹底して相手を煙に巻く。
それでは本能寺の変を起こす明智光秀はどうかといえば、横暴な主君の信長に振り回されて疲弊し、右往左往する弱い男に見える。だが、その実はこちらも天下を狙ってありとあらゆることをする男だ。荒木村重をかくまったのは、実は彼と恋愛関係にあったから。それが信長との三角関係に発展しそうなこともあって、最後は村重をあっさりと捨て去る。
その他にも、秀吉の弟の秀長(大森南朋)や軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)、元忍の芸人・曽呂利新左衛門(木村祐一)、武士に憧れる農民茂助(中村獅童)など様々な人物が出てくるが、彼らもひっくるめて全員ワル。いみじくも劇中で曽呂利新左衛門が言うように「みんなアホ」なのである。
こういう強烈なキャラたちが権謀術数の限りを尽くす。騙し、騙され、裏切り、裏切られのドラマが続く。その果てに、信長や光秀は情けない死を遂げる。徹頭徹尾、歴史のヒーロー像をぶち壊す。
もちろん史実を踏まえてはいるが、よく考えたらつじつまの合わないこともたくさんある。武将たちの年齢構成もメチャクチャだ。正統派の歴史ファンが見たら腰を抜かしそうだが、固いことを抜きにして見れば文句なしに面白い。北野節が炸裂し、最後の最後まで飽きさせない。
ユーモラスな場面が多いのも北野映画の特徴。例えば、柴田理恵演じるオババが、若い子を引き連れてやって来て家康に好みの女性を選ばせる。しかし、家康は後ろの女がいいという。「後ろ?」。オババが後ろを振り返ると誰もいない。なんとオババが指名されたのだ(実はそのオババがクセモノなのだが)。
家康が戦場でとっかえひっかえ影武者を立てるシーンもまるでコントだ。新しい影武者が出るたびに敵に討たれる。「はい、次」という感じで、次の影武者が立つ。しかし、とうとう一人も影武者がいなくなって、本物の家康が「仕方ない。俺が出るか」。
いやいや、笑ってばかりではない。合戦シーンはものすごい迫力だ。刀での斬り合いも、鉄砲の撃ち合いも、何もかもが桁外れ。
ただし、ボンボン首が飛ぶので気の弱い人はご注意を。何しろオープニングからして、川を首なし死体が流れてくるシーンなのだ。
こうした型破りの戦国絵巻を演じるのは、いずれも有名俳優ばかり。北野武の名前で集めてきたのだろうが、彼らの演技合戦もこの映画の見どころだ。特に信長を演じた加瀬亮の凄まじい演技は特筆もの。あまりの狂気に背筋が寒くなる。
北野武監督らしさが十分に発揮された時代劇で、エンターティメントとしての魅力はタップリだ。まあ、北野監督に違うものを求める人もいるのだろうが、固いこと抜きに楽しめる映画なのは間違いない。
◆「首」
(2023年 日本)(上映時間2時間11分)
監督・脚本・編集:北野武
出演:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、浅野忠信、大森南朋、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、寛一郎、副島淳、小林薫、岸部一徳
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
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