映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「まなみ100%」

「まなみ100%」
2023年9月30日(土)池袋HUMAXシネマズにて。午後3時30分より鑑賞(シネマ2/F-9)

~片思いの女性にフラれ続けた男。瑞々しい青春ドラマとして捨てがたい味わい

取るに足らないありきたりの話も、描きようによっては魅力的な映画になる。少し前に取り上げた「ほつれる」などはその好例だろう。

今回取り上げる「まなみ100%」も、話自体は特筆すべきものは何もない。片思いの女性に10年間フラれ続け、相手が別の男と結婚してしまう。それだけの話だ。だが、そんな陳腐にも思える話が、描き方によって別の色合いを持ち始める。

主人公はボク(青木柚)。2010年、高校生のボクは、入部した体操部で一緒になったまなみ(中村守里)に一目ぼれする。それ以来、会うたびごとに思いを伝え、18歳になってからは「結婚しよう」と口にするが、まなみは相手にしてくれない。高校を卒業してからもボクは時折まなみと再会し、そのたびに「結婚しよう」と言うが、フラれてばかりいる。そして、2019年、まなみは別の男と結婚することになる……。

映画の冒頭は、ボクの浮気が発覚し、彼女に家を追い出されてしまうシーン。それを友人2人が見物している。彼らは高校時代の同級生で、今日はまなみの結婚式の日なのだ。

そこから話はさかのぼる。ボクとまなみが出会った高校時代から、現在に至るまでが時系列を追って描かれる。

高校時代にボクはまなみと知り合い、友達づきあいをするようになる。その様子を淡々と描く。出会った季節の美しい桜の木、2人で観に行った花火など、印象的なアイテムも効果的に使われる。

それと並行して、町クンと熊野クンという2人の友人との交流、体操部のマドンナの瀬尾先輩(伊藤万理華)やサトシ先輩とのエピソードも散りばめられる。瀬尾先輩とサトシ先輩には、つきあっているという噂があったが真相はやぶの中。熊野クンは大胆にも瀬尾先輩に告白するがあっさり玉砕する。

まさしくキラキラした青春の日々だ。ただし、主人公のボクには感情移入し難い。冒頭の現在の行状でもわかるように、ボクはいい加減でだらしない奴なのだ。まなみと知り合った頃にも、ちゃんと彼女がいたのだが、何度も約束を忘れてついに愛想を尽かされる。「私のこと好きじゃないでしょ?」。その言葉はまなみからも言われる。

おまけに、彼は何も考えていないように見える。悩みなどないかのようだ。だからムチャクチャに明るい。それが女性たちを引き付ける理由かもしれないが、友達ならともかくそれ以上に深くかかわると厄介だ。まなみはそれを知っていたのだろう。

ボクを見ていて、最初は腹が立って仕方なかった。何だ? このいい加減な奴。しかし、次第に見方が変わってきた。

何も考えていないように見えるボクだが、学校で理不尽な反省を求められて、ブチ切れる場面がある。そこで自分の髪を切って、反省を示すというのが面白いのだが、彼とて単純な人間ではないことがわかる。彼はその後もいい加減でありながら、それなりに自身の思いを通そうとする。

まなみや瀬尾先輩も同様だ。彼女たちも典型的なヒロインのような完全無欠の存在には描かない。悩みや苦しみも抱えていることが、その言動の端々からうかがえる。こうして主要キャラを奥行きのある人間として描いているのも、本作の魅力である。

この映画の監督は「変わらないで。百日草 」(2017年)や「満月の夜には思い出して」(2018年)で注目された新鋭の川北ゆめき。彼の実体験を基にしたドラマということだが、脚本をいまおかしんじが担当したことが効いている。映画監督としても「れいこいるか」「神田川のふたり」「海辺の恋人」など多数の作品を送り出してきたいまおかだが、脚本家としても「苦役列車」「華魂」などの作品で知られている。

自伝にしては被写体と適度な距離を保っている川北監督だが、それを可能にしたのもいまおかの脚本があればこそだろう。

高校卒業後、ボクは予備校生活を経て大学に入学する。そこで映画研究会に入り、映画漬けの日々を送る。女優志望のくろけいちゃんという女の子とも親しくなる。だが、映画研究会への熱の入れ方を巡ってケンカになる。ボクは映画以外のこと(授業やバイトなど)を小バカにしたような態度を取る。それにくろけいちゃんは怒り、2人は別れる。このあたりに、大人になれないボクの姿が現れている。

高校卒業後は、まなみの出番はそんなに多いわけではない。ボクのウダウダした日々が中心的に描かれ、そこに時折彼女が登場するだけだ。それでもボクの彼女への執着は強い。相変わらず「結婚しよう」を繰り返し、拒絶される。友達関係以上に進むことは絶対に許してもらえない。

普通ならとっくに諦めるはずだが、ボクがそうしないのは、それが自らの青春に決別することになると考えているからではないか。たとえいい加減でデタラメでも、ボクにとって高校時代はかけがえのない青春の日々である。それを今も引きずっている。その象徴がまなみなのだ。だから、彼女にサヨナラする踏ん切りがつかない。

そして、現在、僕はまなみの結婚式でカメラマン役を務める。はたして、彼は踏ん切りをつけて青春に別れを告げられるのだろうか。

エンディングに映る桜の木がひたすら美しい。ボクが青春を思い出の中に閉じ込めて、新たな人生を歩み出した瞬間にも思えた。

主人公がいい加減でデタラメな奴だけに好き嫌いは別れそうだが、瑞々しい青春物語として捨てがたい味わいを持つ作品なのは確かだと思う。個人的にはけっこう感情を揺さぶられた。

ボクを演じた青木柚もいい演技をしているが、この映画で素晴らしいのは中村守里、宮崎優らの女性陣。特に伊藤万理華の存在感には相変わらず圧倒される。

◆「まなみ100%」
(2023年 日本)(上映時間1時間41分)
監督:川北ゆめき
出演:青木柚、中村守里伊藤万理華、宮崎優、新谷姫加、菊地姫奈、濱正悟、オラキオ、下川恭平、藤枝喜輝、諏訪珠理、日下玉巳、野島健矢、高橋雄祐、詩野
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://www.manami100-movie.com/

 


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