映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「女優は泣かない」

「女優は泣かない」
2023年12月1日(金)池袋HUMAXシネマズにて。午後3時20分より鑑賞(シネマ2/E-9)

~がけっぷち女優とダメダメなディレクターの再起物語。ありがちな話なのにジンワリくる

伊藤万理華は不思議な俳優だ。童顔で年齢不詳という感じだが、どんな役をやってもサマになる。彼女の出演作にはハズレがない。「サマーフィルムにのって」「もっと超越した所へ。」「そばかす」「まなみ100%」など、いずれも面白い映画だった。だから、「女優は泣かない」も伊藤万理華に惹かれて観ることにした。

映画は熊本が舞台だ。空港でいきなり「くまモン」が映る。スキャンダルで落ち目の女優、梨枝(蓮佛美沙子)が故郷の熊本に到着したのだ。彼女は密着ドキュメンタリー撮影のために帰郷した。

空港に待っていたのは若いディレクターの咲(伊藤万理華)。なんと彼女1人が今回のドキュメンタリーのスタッフだという。咲はドラマ志望で、この仕事がうまくいけば上司がドラマ部に推薦してくれることになっていた。

撮影が始まると、咲は上司の無理難題に従いつつ、何とか評価される番組を作ろうと必死になる。一方、梨枝は家族と確執があり、なるべく目立たないように撮影したいと思っている。2人の思惑はすれ違い、たびたび衝突する……。

この映画の監督・脚本は、CMディレクターでテレビドラマも数多く手がけている有働佳史監督。とりたてて目新しいことはないし、どちらかというとありがちでベタな話だ。先の展開も読めてしまう。それでもこの映画には捨てがたい味わいがある。

ドラマの中心は、崖っぷちの女優・李枝が再起のきっかけをつかむ物語だ。虚栄心や虚飾に彩られた彼女が、若手ディレクターの咲との出会いで次第に変わっていく。

ただし、最初のうち2人の仲は最悪だ。撮影中ずっとケンカばかりしている。李枝は、本当はこんな仕事などしたくない。しかし、スキャンダル明けで、事務所の社長の強い勧めとあって、仕方なく故郷の熊本にやってきた。だから、ずっと不機嫌で文句ばかりだ。

それに対して咲は、同期に先を越されて焦っている。そのためドキュメンタリーにもかかわらず「演出」だと言い、やらせ映像まで撮影する。それでも思うように撮影は進まない。こちらも文句ばかり言う。というわけで、当然のように2人の激しいバトルが展開する。

ただし、このバトルがなかなか笑えるのだ。それというのも、ぶつかり合う2人の間に面白いキャラクターを配しているから。梨枝の幼なじみでタクシー運転手の拓郎(上川周作)。彼は空気を読めず、しかも李枝に気がある。その言動はとぼけた雰囲気に満ちていて、自然に笑いの種を振りまいていく。おかげでクスクス笑いながら、李枝と咲のバトルを観ていられるのである。

その合間には、李枝と家族とのドラマも描かれる。李枝は、父(升毅)の反対を振り切って家出同然で東京へ出て、姉(三倉茉奈)の結婚式もすっぽかした。だから、家族と顔を合わせたくない。父は今はがんで入院中だが、その病院に見舞に行くこともできなかった。

李枝と咲はケンカしながら様々なことを体験し、やがてお互いに共通の立場にあることに気づく。それはもちろん女優復帰とドラマ部への異動という野望だ。厳しい現実に直面しながらも、2人の間には同志のような連帯感が生まれていく。

一方、李枝の家族とのドラマにも変化が訪れる。李枝が帰郷していることは、小さな町で噂となり家族の耳に入ってしまう。李枝と姉は激しく対立する。だが、李枝が父の本当の思いを知ったことから、状況は大きく変わる。

終盤。「自分は演技が下手なのはわかっている。でも、私には女優しかない」という李枝の言葉が心に染みる。それは表現者としての決意と覚悟のこもった言葉だ。その言葉は咲も動かす。なぜなら彼女もまた表現者なのだから。

そして、ラスト近くには感動のシーンが用意されている。病院での李枝と父との最後のやりとりである。ここは涙なくしては見られないシーン。わかっているのにジンワリ来る。「ベタだなぁ~」と思いつつ涙腺を刺激されてしまった。

この映画の成功の大きな要因は、キャスティングにもある。伊藤万理華はやはり良い演技を見せている。セリフ中心のドラマだが、その合間には繊細な感情表現が見て取れ、彼女の演技力の高さがうかがえる。ちなみに、劇中で何度も出てくるカメラ映像も、彼女が撮影したもののようだ。

そして、主演の蓮佛美沙子も素晴らしい演技だ。女優が女優を演じるというのはけっこう難しいものだが、年齢的に等身大の役柄だったこともあり、李枝の心の惑いを的確に表現していた。演技がけっしてヘタではない彼女が、「演技がヘタ」な李枝を演じるというのも面白い。伊藤とのバトルもパンチが効いている。

2人の間に入った上川周作もいい味を出している。李枝の姉役の三倉茉奈も存在感がある。彼女を観たのは久々だったが、すっかりお母さん役が似合うようになったなぁ~。昔、茉奈佳奈のCDを買ったり、コンサートに行っていた身としては感慨深いものがあるゾ。

とても味わいのある映画だ。笑いと感動がバランスよく盛り込まれていて、誰でも楽しめる作品になっている。わかっていても、ジーンとなる。今回も伊藤万理華の出演作にハズレはなかった。

◆「女優は泣かない」
(2023年 日本)(上映時間1時間57分)
監督・脚本・編集:有働佳史
出演:蓮佛美沙子伊藤万理華上川周作三倉茉奈吉田仁人、青木ラブ、幸田尚子、福山翔大、緋田康人、浜野謙太、宮崎美子升毅
ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋HUMAXシネマズほかにて公開中
ホームページ http://www.joyuwanakanai.com/

 


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