映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「月の満ち欠け」

「月の満ち欠け」
2022年12月7日(水)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時50分の回(スクリーン7/D-6)

~ぶっ飛んだ設定にもかかわらずストレートに感動させてしまう廣木隆一監督の手腕

また廣木かよ!

というわけで、「あちらにいる鬼」「母性」に続くこの秋冬3本目の廣木隆一監督作品「月の満ち欠け」です。2017年に第157回直木賞を受賞した佐藤正午による同名小説の映画化。

冒頭に登場するのは青森県八戸市の小山内堅(大泉洋)という男性。まもなく彼は上京して、緑坂ゆい(伊藤沙莉)という女性と会う。ゆいは、娘の瑠璃(菊池日菜子)の高校時代の同級生だった。

そこから時代はさかのぼり、1980年。小山内は梢(柴咲コウ)という女性と結婚する。このとき、世間ではジョン・レノンが殺害され、彼にゆかりの曲がたくさん流れていた。小山内は梢と愛し合い、瑠璃が生まれる。3人は幸せな日々を送る。

しかし、ある日、幼い梢が高熱を出し、回復はしたものの奇妙な行動を取るようになる。それでも3人は仲良く暮らしていたが、瑠璃が高校生の時に梢の運転する車に乗っていて事故に遭い、2人とも亡くなってしまう。小山内は悲嘆にくれ、故郷の八戸に戻る。

そんな中、哲彦と名乗る男(目黒蓮)が訪ねてくる。彼は、事故の日に瑠璃が自分に会いに来ようとしていたと告げる。瑠璃は面識のないはずの哲彦になぜ会おうとしていたのか。哲彦は、瑠璃が自分がかつて愛した同じ名の“瑠璃”(有村架純)という女性の生まれ変わりではないかと告げる。にわかには信じがたい告白に怒る小山内だったが……。

要するに生まれ変わりをめぐるラブストーリーだ。タイトル通りに月が満ち欠けするように、人間も消えたり現れたりするということだろう。相当にぶっ飛んだ設定である。

最初にはっきり言っておくと、私は生まれ変わりなど信じていない。だが、この映画に関しては、それでも引き込まれて感動してしまった。そのぐらい廣木監督の手腕が鮮やかなのだ。

まずは、おそらくかなり入り組んだ複雑であろう原作(未読)を、巧みにさばいた手腕に感服(脚本は橋本裕志)。時代を超えて、小山内、哲彦、梢、2人の瑠璃、ゆいなどが展開するドラマを、きっちりと描き分けている。

その上で、中盤の恋愛ドラマの描写が巧みだ。年上の瑠璃に惹かれる哲彦。しかも、彼女は不幸な結婚生活を送っていた。などと言うと、陳腐な不倫ドラマを思い描くが、舞台となる東京・高田馬場の風景を織り込みながら、哀切漂う恋愛&青春ドラマに仕上げている。おお、早稲田松竹が!私のような昭和世代には、懐かしく、そして心をわしづかみにされるのだ。高田馬場で恋したことなんかないけれど。

もう1つのラブストーリーも抜かりがない。もちろん小山内と梢のラブストーリーだ。こちらは終盤のビデオ映像が秀逸だ。生前の梢と瑠璃を映したビデオだが、そこでの梢の発言が涙なくしては聞けないのだ。それを見ている小山内はもちろん涙にむせぶのだが、スクリーンのこちら側にいる私も思わずウルウルしてしまった。

劇中で何度も流れるジョン・レノンの「Woman」。瑠璃が大好きで口ずさんでいたオノ・ヨーコの「Remember Love」など、楽曲の使い方もツボを心得ている。いやでも感情を刺激する。

役者も素晴らしい。特に廣木映画では女性の俳優が際立つが、今回の柴咲コウ有村架純、菊池日菜子も輝いている。柴咲コウの晴れやかな美しさ、有村架純の影のある美しさ、いずれも甲乙つけがたい。伊藤沙莉は、いまだに高校生役が違和感ないな。

男性俳優も十分に存在感がある。大泉洋は、いまさら言うまでもなくうまい役者だが、今回は違う年代をきちんと演じ分けている。そして目黒蓮である。初めて見たが、なかなか良い役者だな。自然体なのにとても印象に残る演技だった。そして、田中圭の最低の夫っぷりも出色だ。ああはなりたくないものである。誰しもがそう思うはず。

まあ、なにせ設定がかなり特殊なので、そこで引いてしまう人もいるだろう。特に終盤の子役の演技はほとんどホラー映画でしょ。いくら特殊な設定でも、あれだけ生まれ変わりのダメ押しをされると興ざめ。

最後の梢の生まれ変わりの話も、強引過ぎて思わず笑ってしまった。原作もそうなっているのだろうが。

とはいえ、そんな特殊な設定を忘れさせるラブストーリーの巧みさには感服。こんな突飛な設定も、廣木監督の手にかかると現実感を持ってしまうのだから恐ろしい。

◆「月の満ち欠け」
(2022年 日本)(上映時間2時間8分)
監督:廣木隆一
出演:大泉洋有村架純目黒蓮伊藤沙莉田中圭柴咲コウ、菊池日菜子、小山紗愛、阿部久令亜、尾杉麻友、寛一郎波岡一喜安藤玉恵丘みつ子
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://movies.shochiku.co.jp/tsuki-michikake/

 


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