映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ハウス・オブ・グッチ」

「ハウス・オブ・グッチ」
2022年1月22日(土)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時20分より鑑賞(スクリーン5/C-9)

~高級ブランドの創業者一族の愛と欲望の実録ドラマ。レディー・ガガらが怪演

高級ファッションブランド「GUCCI(グッチ)」。その創業者一族の波乱の運命を描いた実録ドラマが「ハウス・オブ・グッチ」だ。サラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション小説をリドリー・スコット監督が映画化した。

物語の始まりは1978年のイタリア・ミラノ。父親が経営する運送会社で経理を手伝うパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、友人に誘われたパーティで「グッチ」創業者の孫、マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)と出会い、積極的にアプローチする。マウリツィオの父、ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)は「財産目的に違いない」と反対するが、2人は身分の差を超えて結婚。その後、マウリツィオが会社の経営に関わるようになると、パトリツィアは支配権を握ろうと画策し、会社の実権を持つマウリツィオの叔父アルド(アル・パチーノ)やその息子パオロ(ジャレッド・レト)と対立していく……。

実話だというのがにわかに信じられないほどの壮絶なドラマだ。愛と憎悪、欲望にまみれ、しまいには何と殺人事件まで起きてしまうのである。不謹慎を承知で言えば、これほど面白いドラマはないだろう。「家政婦は見た!」のような気分で、華麗なる一族の顛末にじっくりと見入ってしまった。

何といってもスゴイのが玉の輿に乗ったパトリツィアだ。弁護士志望の若き青年マウリツィオと出会った彼女は、遮二無二彼にアプローチする。彼を尾行して図書館にまで出かけるのだ。本人は本など読まないのに。

マウリツィオの父、ロドルフォの反対を無視して2人は結婚する。といっても当時のマウリツィオはグッチの経営と直接関わりはない。パトリツィアは父親に頼み込んで、マウリツィオを父の会社で雇ってもらう。ここまでならよくある話だ。

だが、グッチの経営の実権を握るマウリツィオの叔父アルドは、息子のパオロがバカ息子なのを知っていて(本人は天才デザイナーを気取っているが)、甥のマウリツィオを溺愛する。その妻のパトリツィアにも優しくする。

さあ、こうなればパトリツィアの野心が全開になる。彼女はその気でない夫の尻を叩いて、グッチの経営に関わらせるのである。それに応えて、マウリツィオも次第に権力を手にしていく。

ひたすら高みを目指すパトリツィアの本領が発揮されるのが、叔父アルドと彼の息子パオロの追放劇だ。もともと不仲だった2人の関係を利用して、パトリツィアはある策略を巡らす。そして、初めはアルドを、続いてパオロをも追放してしまうのだ。

リドリー・スコット監督は随所に70~80年代のヒット曲を散りばめて、力技で物語を進めていく。なにせベースになった話が面白いから、下手な小細工など不要だ。パトリツィアをことさらに悪役に仕立てることもしない。彼女の心理が余すところ描かれるわけではないが、そのことがかえって彼女をミステリアスな存在に見せる。それでも彼女の言動からは人間の本質が見て取れる。

それにしても同族経営とは大変なものだ。経営の論理以外に、情が絡むからややこしくなる。マウリツィオと父・ロドルフォ、アルドと息子のパオロ、2組の親子は反発しつつも、完全に切れることはない。実の親子だから当然だろう。嫌悪感と肉親の情が相まっている。しかし、そのことが不協和音となり、会社の存続を危うくする。

脱税事件に著作権侵害、さらには遺産相続をめぐる疑惑などが飛び出し、ドラマますます迷走し始める。首尾よく頂点にまで上り詰めたはずのパトリツィアも、足元をすくわれる。マウリツィオの浮気が発覚したことで肝心の夫婦関係が破綻し、それが代行殺人事件へと発展していくのである。

パトリツィアのつまずきが、夫の浮気という人間臭い理由にあるのが面白い。いや、それは彼女にとってかけがえのない「グッチ夫人」という称号に直結する問題なのだ。だからけっして譲れないのである。ちなみに、ラストに描かれる裁判シーンでパトリツィアは、裁判長に「グッチ夫人」と呼ぶように要求する。

本作はいうまでもなく一族の興廃のドラマだ。ある意味、「ゴッドファーザー」のようなマフィアものとも共通する魅力がある。

同時に、このドラマは「グッチ」というブランドの激変の歴史でもある。現在、「グッチ」の経営陣に創業者一族の名前はない。それは本作の終盤にも登場するように、勝者になったはずのマウリツィオが予想外の裏切りに遭い、追放されてしまったからだ。結局、グッチ一族に勝利者は誰も存在しなかったのである。

このドラマを濃密でゴージャスにしているのは、役者陣の演技も大きい。特にレディー・ガガの怪演には目を見張らされた。欲望丸出しでのし上がっていくだけでなく、夫に裏切られた悲嘆など様々な側面をうまく表現していた。イタリア訛りの英語も習得し、完全に本人になり切っている。

「最後の決闘裁判」に続くリドリー・スコット作品となるアダム・ドライヴァーに加え、アル・パチーノジェレミー・アイアンズなどのクセモノ役者たちも、キャラの濃いグッチ一族を熱演している。

特に、パオロ役のジャレッド・レトはまるで別人のよう。自分を天才デザイナーと勘違いしている悲しいボンクラ息子を見事に演じ切っていた。

グッチなど身につけたことのない当方も、最初から最後まで興味深く観てしまったのである。

◆「ハウス・オブ・グッチ」(HOUSE OF GUCCI
(2021年 アメリカ)(上映時間2時間39分)
監督:リドリー・スコット
出演:レディー・ガガアダム・ドライヴァーアル・パチーノジャレッド・レトジェレミー・アイアンズ、ジャック・ヒューストン、サルマ・ハエックカミーユ・コッタン
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://house-of-gucci.jp/

 


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