「地獄でも大丈夫」
2024年11月27日(水)ユーロスペースにて。午後2時25分より鑑賞(ユーロスペース1/C-8)
~2人の女子高生の復讐の旅。社会問題を盛り込んだ青春ドラマ
韓国の映画界に一時の勢いはないという話を聞いた。だが、そうだとしても新しい監督が次々に出てくる。けっして韓国映画界の未来は暗くないのではないか。改めてそう思わされた映画が、イム・オジョンが長編初監督と脚本を手がけた「地獄でも大丈夫」である。
ちなみに、オジョン監督は、ポン・ジュノ監督などを輩出した韓国の名門映画学校・韓国映画アカデミー(KAFA)の出身で、2020年の「今年の顔」に選出されたという。
2人の女子高生のガールズ・バディ・ムービーだ。学校でいじめられていた女子高生のナミ(オ・ウリ)とソヌ(パン・ヒョリン)は、修学旅行に行かずに自殺を図るが断念。いじめの中心人物だったチェリン(チョン・イジュ)がソウルで幸せに暮らしていると知り、死ぬ前に復讐することを決意する。だが、ソウルへ向かった2人の前に現れたチェリンは、新興宗教との出会いにより人が変わったような善人になり、「楽園」行きを夢見ていた……。
いじめを一つのテーマにしている映画だが、全体のタッチはけっして暗くない。むしろコミカルな味わいもある。特にブラックな笑いがあちこちで炸裂する。
冒頭近くの自殺の場面からしてそうだ。ソヌが持ってきた犬の首輪と鎖で、ナミが首つり自殺を図る。しかし、自殺を決行する前に誤って踏み台から足を滑らせ、首つり状態になってしまう。そこでナミは必死で助けを求めるが、ソヌは助けていいものかどうか一瞬迷う。何ともブラックなユーモアにあふれた場面だ。
序盤は2人の青春の冒険譚をビビッドに描く。2人はそれぞれ妹や親の金をくすねて復讐のためにソウルへ向かう。それを生き生きと映し出す。
2人の性格が真反対なのも効果的。やたらに威勢が良くて積極的なナミ(でも、いざという時には頼りない)。臆病そうで「Oki Oki」(OK OK)が口癖のソヌ(実はけっこう芯が強く執念深い)。そんな2人が様々なドタバタ劇を繰り広げる。バディ・ムービーのお約束の展開とはいえ、なかなか面白い。
中盤、ソウルに着いた2人はチェリンを発見する。だが、彼女は新興宗教の施設で暮らしていて、すっかり改心して善人になったという。はたして、その改心は本当なのか?それがその後のドラマの鍵になる。
2人は戸惑うが、改心は嘘に違いない思い復讐を決行しようとする。ナイフでチェリンの顔を傷つけようというのだ。「殺してしまえばチェリンが楽になってしまうから」というのがその理由だが、このあたりも何となく間が抜けている。おまけに、いざ決行しようと思うと邪魔が入ったり、気後れしたりしてなかなかできないのである。
そうこうするうちに2人は新興宗教の施設に泊まることになる。チェリンのいる新興宗教は、何やら怪しげなものだった。若い男が組織を率いていたが、その大元には教祖らしき人物がいて、南太平洋に「楽園」があるという。
若い信者たちは、色々と善行を施すとポイントが増え、それによって「楽園」に行ける仕組みになっていた。チェリンが、ナミとソヌに謝罪したのもそれに関係しているらしい。さらに、そのポイントを巡って学校と同様のカーストがあり、みんなから蔑まれている若い信者がいることを2人は知る。
そこに至って、これまで行動を共にしてきたナミとソヌに亀裂が入る。ナミはチェリンの改心を信じ、ソヌはそれを信じない。そこで露呈したのは、同じ「いじめ」の被害者でも、それぞれに立場の違いがあるということだ。
ビルの屋上に立ち自殺を試みようとしているかに見えたソヌを、高所恐怖症のナミが必死で止める場面が印象深い。名画には名場面がつきものだが、本作にも名場面がいくつもある。
さて、ここまでのドラマは比較的予想の範囲内というところだが、そこから先は驚きの展開が待っている。新興宗教内部のどろどろした権力争いをバックに、ナミとソヌが危機一髪の場面迎えるクライム・サスペンスのようなドラマに突入するのだ。
正直、これは予想外だった。しかし、エンターティメントとしてみると、実によく考えられた展開。そして、そこでは燃え盛る炎の上に打ちあがる花火の鮮烈な映像が登場する。これまた名場面の一つだろう。
それを通して2人の絆は強まり、さりげない感動を呼ぶエンディングへとつながる。ラストシーンでの「地獄でも大丈夫だよ」という言葉が、なんともカッコよくて、この映画のエンディングにふさわしい。最後は青春映画としての落とし前をきっちりつけ、2人の成長をスクリーンに刻み付けたのだ。
主演の2人、ナミ役のオ・ウリ、ソヌ役のパン・ヒョリンに加え、チェリン役のチョン・イジュはオーディションで選ばれたそうだが、いずれも存在感のある演技を見せていた。
学校でのいじめやカルト宗教といった社会問題を織り込みながら、青春ドラマ+ガールズ・バディ・ムービーを生き生きと描いて見せたイム・オジョン監督の今後に注目だ。
◆「地獄でも大丈夫」(HAIL TO HELL)
(2022年 韓国)(上映時間1時間49分)
監督・脚本:イム・オジョン
出演:オ・ウリ、パン・ヒョリン、チョン・イジュ、パク・ソンフン
*ユーロスペースほかにて公開中
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