「Playground 校庭」
2025年3月12日(水)新宿シネマカリテにて。午後3時より鑑賞(スクリーン1/A-6)
~学校内の世界を一人の少女に徹底的に焦点を当てて描く

ベルギーの映画監督といったら、文句なしに思い浮かぶのがダルデンヌ兄弟だ。「ロゼッタ」「息子のまなざし」「ある子供」「サンドラの週末」「トリとロキタ」など数々の作品を送り出しているカンヌ国際映画祭の常連だ。
そのダルデンヌ兄弟が高く評価したのが、ベルギーの新鋭ローラ・ワンデル監督。長編デビュー作「Playground 校庭」は、2021年の第74回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞している。小学校の中だけを舞台にしたドラマだ。
小学校に入学した7歳の少女ノラ(マヤ・ヴァンデルベック)。内気な性格でなかなか友だちができず、不安と焦りを募らせる。そんな中、3つ年上の兄アベル(ギュンター・デュレ)がいじめられている現場を目撃する。大好きな兄を助けたいと思うノラだが、アベルからは「誰にも言うな」と口止めされる。それでもいじめが続いたため、ついにノラは父親に相談するのだが……。
この映画の最大の特徴は、徹底的にノラに焦点を当て、彼女の表情を余すところなくスクリーンに刻み付けていること。カメラは常にローアングルでノラをとらえ、それ以外はあまり映さない。「他を見せてよ」と思うような場面でも彼女を追う。おかげで、観ているこちらは彼女の心情をリアルに感じることになる。没入感たっぷりの映画なのだ。
小学校に入学した最初のシーン。ノラは悲痛な表情で兄にしがみつき、一度は学校に向かったものの、今度は父親にしがみついてなかなか離れようとしない。その不安と恐怖に満ちた表情がスクリーンに映し出される。それを観て「ああ、そういえば自分もああだったかも……」と、はるか昔の自分の入学時を思い出してしまうのだった。
いったん教室に入っても、暗い表情で、名前を聞かれても声が出ない。ランチタイムに兄の傍に向かうものの、席の移動はルール違反だと止められる。教室にも、体育館やプール、校庭にも彼女の居場所はなかった。ノラの表情をクローズアップした映像に加え、学校内の雑踏音が彼女の孤独を浮き彫りにする。
友達もできず、孤独な学校生活を送るノラ。だが、時間が経つにつれて学校に慣れてきて、2人の友達もできる。そこでのノラの明るい表情がまぶしい。本当に楽しそうだ。ようやく彼女の学校生活に光がさす。
その一方で、彼女は兄が体の大きな生徒たちにいじめられているのを目撃する。あまりのショックに凍り付くノラ。ノラは兄を助けたいと思うが、兄は「誰にも言うな」と命じる。誰かに言えば、それが引き金になってさらにいじめが加速するのを恐れているのだ。
それでもいじめはエスカレートする。ノラは思い余って父にそのことを告げる。父は激怒して学校に抗議する。先生たちは加害者の生徒たちに謝らせ、事態の解決を図る。だが、兄が予想したように、それでもいじめはやまず、さらに深刻な事態が起きる。
そんな中で、ノラはやられっぱなしの兄の気持ちが理解できず、苛立ちを募らせていく。さらに、父に告げ口したことから兄に拒絶され、寂しさと苦しみを募らせていく。いたいけな彼女のつらそうな表情は、観ているだけで苦しくなる。
ノラはせっかく仲良くなった友人たちとも仲違いする。いじめられた兄を「臭い」と言い、妹であるノラも敬遠するようになったのだ。子供たちは家事に専念するノラの父に対しても、「失業者」「国からお金をもらおうとしている」などと噂する。
こうした状況下、ノラはあることからブチ切れてしまう。それを優しくなだめるのが担任の先生だ。この先生は、いつもノラに寄り添い、彼女のことを気にかけてくれていた。だが、まもなくこの担任は学校を去り、その代わりに厳格な担任が赴任する。
ノラは兄を完全に遠ざけてしまう。兄の妹だとみられて、友達から嫌われるのが嫌だったのだ。「兄ではない」とまで言い切る。その心情が切ない。
ドラマの終盤、ノラは兄の信じられない行動を目撃する。衝撃的な光景だった。それによってノラは大いに心を痛める。
このあたりの詳細は伏せるが、最後は感動的という言葉では言い表せない、様々な感情を呼び起こすラストシーンだった。
72分という短い映画だが、ノラの心情をリアルに受け止めて、一喜一憂しながらスクリーンを見つめて身じろぎもできなかった。そして考えてみれば、このドラマに登場するいじめ、暴力、差別、口さがない噂などは大人の世界の縮図だ。そのまま大人の社会にも通じる話である。おそらくローラ・ワンデル監督は、それを視野に入れてこの映画を作ったのではないか。
ノラ役のマヤ・ヴァンデルベックの演技もすごい。100人を越える候補者から選ばれたというだけに、あまりにも切実な演技に心を揺さぶられた。子供ながらに、その目が多くの感情を物語る。
ノラに焦点が当てられているため、あまり映らないとは言うものの兄役のギュンター・デュレ、父親役のカリム・ルクルー(「またヴィンセントは襲われる」の主役)、担任役のローラ・ファーリンデンも存在感を発揮している。
ダルデンヌ兄弟が評価したというだけあって、どこか作風も似ている。ローラ・ワンデル監督の次回作が楽しみだ。
◆「Playground 校庭」(UN MONDE/PLAYGROUND)
(2021年 ベルギー)(上映時間1時間12分)
監督・脚本:ローラ・ワンデル
出演:マヤ・ヴァンデルベック、ギュンター・デュレ、カリム・ルクルー、ローラ・ファーリンデン、エルザ・ラフォルジュ、レナ・ジラール・ヴォス、シモン・コドリー、テオ・マールテン
*新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほかにて公開中
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