映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「CLOSE/クロース」

「CLOSE/クロース」
2023年7月17日(月・祝)グランドシネマサンシャイン池袋にて。午後1時15分より鑑賞(スクリーン10/D-12)

~2人の幼なじみの少年の友情と葛藤と悲劇。思春期の心理を繊細に

暑い。だるい。やってられない。それでも時間があるから映画館に行くのだ。

この日観たのは「CLOSE/クロース」。トランスジェンダーの主人公がバレリーナを目指す姿を描いた「Girl ガール」(残念ながら私はまだ観ていないのだが)で、カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞したルーカス・ドン監督の新作だ。この作品も第75回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した。

どんな映画かというと13歳の2人の少年の友情と葛藤と悲劇を描いたドラマだ。

13歳のレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)とレオ(エデン・ダンブリン)は、幼なじみで兄弟のように仲が良かった。家族ぐるみの付き合いで、互いの家を行き来し、一緒に眠ることもたびたびだった。だが、中学校に入学すると、2人の仲が良すぎるのを見たクラスメイトが、「2人は付き合っているのか?」と聞いてくる。それをきっかけに、周囲の目が気になり、レオはレミと距離を置くようになる……。

映画の序盤はレオとレミの親密さを描く。何やら敵が来襲してきたという設定で、全力で花畑を駆け抜け、そして一緒に眠る。オーボエのうまいレミの演奏を聴き、レオは「自分がマネージャーをやるから2人で一儲けしよう」などと軽口を叩く。

そんな2人の日常が生き生きと描かれる。カメラは、レオとレミに接近してアップの映像を多用し、2人の内面をみずみずしく描写する。詳しい説明などは一切ない映画だが、観ているだけで2人の仲の良さが伝わってくる。

2人も、2人の家族も、レオとレミが仲が良いのは当然のことだと思っている。だが、新たに入学した中学校では、その親密さに疑問を持つ生徒がいた。そこでその生徒は「2人はカップルなのか?付き合っているのか?」と聞く。レオは即座に全否定する。レミは戸惑う。

2人に聞いた生徒は、素直に疑問を感じて口に出しただけのように思える。多少差別的なニュアンスはあったにせよ、悪意に満ちた発言ではない感じがする。大人だったら軽くいなして、それで終わりかもしれない。

だが、思春期のレオにとっては衝撃だった。それまで思ってもみなかった関係を疑われたのだ。これ以降、彼はレミを避けるようになる。と言っても明確に突き放すわけではない。少しずつ態度が変わるのだ。

典型的なのが、2人が自転車に乗って並走する場面だ。それまでは明るい陽光の中、楽しそうな表情の2人が軽口を交わしながら自転車を漕いでいた。しかし、学校での出来事の後は、硬い表情のまま目も合わせずに自転車を漕ぐ。2人の関係性の変化を象徴する場面である。

その後、レオは「男女」などとからかわれたこともあり、無理に男っぽい世界に入り込む。アイスホッケーチームに加入し、練習に励むようになる。レミが練習を見に来るが、まともに口をきくこともしない。

そして、ある時、2人の間に決定的な出来事が起きる。それがきっかけで大きな悲劇が起きる。いや、明確に何が起きたのかは説明されない。しかし、様々な状況から、それが取り返しのつかない悲劇であることがわかるのだ。それによってレオは、とてつもなく大きな罪悪感と喪失感を抱え込むことになるのである。

序盤から被写体に寄っていたカメラは、この事件以降、徹底的にレオに密着する。彼の揺れ動く内心をセリフ以外のところで、「これでもか!」とあぶり出す。常に泣き崩れるわけではない。日常を淡々と過ごそうとする。それでも、その狭間から、どこにも持って行きようのない心理がチラリチラリと覗くのである。

それはあまりにも痛々しい。観ていてつらくなるほどだ。それでも、レオがそれまで胸の奥にしまっていた事実を告白することで、事態は大きく動き出す。そして、彼の再生を印象付けてドラマは終わる。ラストショットのレオの力強い瞳が心に残る。静かな感動が味わえる場面だ。

レオの心理をあぶり出したカメラワークも見事だが、2人の少年を演じたエデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ヴァールの演技が素晴らしい。それを引き出したドン監督の演出力も出色だ。目立たないが、2人の少年の家族を演じた役者たちの演技も見逃せない。

子供の使い方がうまいと言えば是枝裕和監督を思い起こすが、是枝監督の「怪物」と共通する要素も持った映画だ。同性愛的な要素もあるが、それにとどまらず思春期ゆえの繊細さが起こした出来事を描いた作品といえる。

かつて自分が思春期だった頃に、想いをはせる人も多いだろう。自身の思春期の頃に、疎遠になった友だちを思い浮かべる人もいるかもしれない。そういう意味で誰もが心を動かされる映画である。

◆「CLOSE クロース」(CLOSE)
(2022年 ベルギー・オランダ・フランス)(上映時間1時間44分)
監督:ルーカス・ドン
出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ヴァール、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール、イゴール・ファン・デッセル、ケヴィン・ヤンセン
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ https://closemovie.jp/

 


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