映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「プアン 友だちと呼ばせて」

「プアン/友だちと呼ばせて」
2022年8月8日(月)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン6/C-8)

~美しくスタイリッシュな映像で描くロード・ムービー。終盤の展開に驚愕

そろりそろりと感染しないように用心しながら映画館へ。池袋は平日でもかなりの人出だなぁ。

この日観たのは「プアン 友だちと呼ばせて」。前作の緊迫の犯罪&青春ドラマ「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2017年)で注目されたタイのバズ・プーンピリヤ監督の新作だ。ただし、「バッド・ジーニアス」とはだいぶ毛色が違う作品なので、そこのところはご注意を。

親友同士のロード・ムービーである。ニューヨークでバーを経営するボス(トー・タナポップ)のもとに、タイで暮らす親友ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話がかかってくる。ウードは白血病で余命宣告を受けており、タイに来て彼の最後の頼みを聞いて欲しいという。バンコクに駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元カノたちを訪ねる旅の運転手。カーステレオのカセットテープから流れる思い出の曲とともに、2人の青春時代の甘い記憶が甦ってくるのだが……。

実はこの映画、プロデューサーをあのウォン・カーウァイが務めている。撮影現場には訪れなかったものの、脚本段階からしっかりと関わったという。そのせいか、この映画はウォン・カーウァイの色が前面に出ている。

鮮やかな色遣いのスタイリッシュな映像、ポップなタッチ、テンポの良い展開など、まるで観ているうちに「恋する惑星」をはじめとするウォン・カーウァイの作品群を思い出してしまった。そういえば最近カーウァイ監督の映画を観てないなぁ~。

撮影監督は当然、カーウァイ作品でおなじみのクリストファー・ドイル……かと思いきや、「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」に続きパクラオ・ジランクーンクムが担当しているという。うーむ、かなりの人が勘違いしてしまうのではないだろうか。それほどドイルのタッチに似た美しい映像だ。

前半はウードが「返したいもの」を手に、3人の元カノをタイ各地に訪ねる。車の運転手はボスだ。ウードは自分が余命わずかなことを隠している。3人の元カノの反応はそれぞれである。

1人目のダンス教師のアリスは、最初は嫌がるものの次第に打ち解けて和解する。2人目の俳優ヌーナーはウードを拒絶し、その怒りをばねに良い演技をする。3人目のルンは素敵な再会を果たすものの、それは実はウードの夢で……というように、3つのエピソードとも個性的に構成されている。ウードと女性たちのニューヨークでの過去の出来事も描かれるなど、いろいろと細かな工夫をして飽きさせないのだ。そこはかとないユーモアも漂っている。

ちなみに、ヌーナーが撮影している映画で、銃声とともにハトが飛び立つのはジョン・ウー監督へのオマージュなのだろうか。

それにしても、かつてのニューヨーク滞在中に3人も元カノがいるなんて、ウードは相当なプレイボーイ。一方、ボスも負けず劣らずプレイボーイで、「余命わずか」というウェットさとは無縁の旅。それでもそこには、ときおり哀愁の影が差す。

こうして2人のプレイボーイによる元カノ探訪の旅は終わる。え?こんなに早く終わって、残りの時間はどうするの?と思ったら、いやいや後半は予想もつかない意外な展開が待っていたのである。

そこで描かれるのは今度はボスのドラマ。お金持ちの後妻に収まることにした姉との確執(実は本当の姉ではない)、義父の息子との対立などを過去と現在を行き来しつつ描く。

さらに、その後ボスにも元カノがいて、そのプリムという女性とのエピソードも描かれる。2人はニューヨークに渡って一緒に暮らす。

そして、その後ウードが驚愕の事実を告白するのである。

ネタバレになるのでこれ以上詳しくは書かないが、そのウードの告白によって、ボスの過去ばかりか未来も大きく変わるのだ。

ラストはファンタジーも交えながら、ボスの新しい旅立ちを示す。それはウードの願ったことだった。ボスは大切なものを取り戻す。まさに、宣伝文句通りに「クライマックスからもう一つの物語りが始まる」というわけだ。そして、ウードとの友情をスクリーン刻み付けてドラマは終わる。

音楽もこの映画の魅力の一つだ。ウードの死んだ父親がDJで、その番組を録音したカセットを持参しているという設定から、エルトン・ジョンフランク・シナトラキャット・スティーブンスザ・ローリング・ストーンズ(「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」が心に染みる)などの楽曲が効果的に使われる。

エンディングに流れるタイのシンガーソングライターSTAMPと、プリム役のヴィオーレット・ウォーティアが歌う「Nobody Knows」も素敵な曲だ。

効果的な使われ方をしているといえば、カクテルも同様だ。ボスがバーテンダーで、ボスの元カノもバーテンダーということで、美味しそうなカクテルが登場する。特に印象的なのは、ウードの3人の元カノに合わせてボスが作った3つのカクテルと、若き日のボスの思い出のカクテル。

出演しているのはタイの俳優たち。主演のトー・タナポップ、アイス・ナッタラットはイケメンで好感度の高そうな俳優。そして、元カノを演じた俳優たちそれぞれに個性があり、とても魅力的だった。「バッド・ジーニアス」で注目を集めたオークベープ・チュティモンも、元カノの1人として出演している。

劇中、首をひねるところもなかったわけではないが、観終わって素直に感動してしまった。ノスタルジーと切なさにあふれた映画で、後味も良い。ウォン・カーウォイとバズ・プーンピリヤ監督、かなり強力なタッグである。

◆「プアン/友だちと呼ばせて」(ONE FOR THE ROAD)
(2021年 タイ)(上映時間2時間9分)
監督:バズ・プーンピリヤ
出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、ヌン・シラパン、ヴィオーレット・ウォーティア、オークベープ・チュティモン、ラータ・ポーガム
新宿武蔵野館、池袋HUMAXシネマズほかにて公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/puan/


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