映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ただ悪より救いたまえ」

「ただ悪より救いたまえ」
2021年12月26日(日)グランドシネマサンシャインにて。午後12時30分より鑑賞(スクリーン1/D-4)

~殺し屋2人の情け容赦ないバトル。エグいけれど文句なしに面白い!

前回の「雨とあなたの物語」に続いて韓国映画をピックアップ。しかし、そのタッチはまったく違う。あちらは穏やかなほんわり系映画。それに対して、こちらは情け容赦ない暴力シーンを含むドキドキハラハラ感満載のノワール・アクション映画だ。

スゴ腕の暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)は引退を決意し、最後の仕事として日本のヤクザ・コレエダを殺害する。ようやく平穏な日々が訪れると思った矢先、かつての恋人がタイのバンコクで殺害され、存在も知らなかった自分の娘が行方不明になったと知る。インナムはバンコクへ飛び娘の行方を追う。一方、インナムが殺害したコレエダの弟レイ(イ・ジョンジェ)が、兄の復讐を果たそうとインナムを狙ってバンコクに向かう。

目的のために手段を選ばないスゴ腕の殺し屋2人のバトルがドラマの中心だ。片方のインナムはどうやら元は国家機関の秘密工作員らしく、冷酷非情に邪魔者を殺し任務を遂行する。もう一方のレイは、兄の仇をとるという名目はあるものの、はっきり言って快楽殺人犯に近い。目の前の人物を闇雲に殺しまくる。しかも、残虐な手段で。

インナムを演じるファン・ジョンミンは、韓国映画ではおなじみの顔。「国際市場で逢いましょう」「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」「哭声 コクソン」など気のいいお兄ちゃんの役から、政府の工作員まで幅広い役柄をこなす。本作では寡黙な殺し屋を説得力充分に演じる。セリフは極端に少ないが、その心情はしっかりと伝わる演技だ。

そしてレイを演じるイ・ジョンジェは、「新しき世界」以来7年ぶりのファン・ジョンミンとの共演。ほとんどサイコパスに近い殺人鬼をケレンたっぷりに演じている。白装束に派手なメガネなどインナムとは対照的なそのたたずまいが、底知れぬ狂気を感じさせる。

この2人が無法地帯のバンコクの裏社会で暴れまくる。情報を引き出すために人を痛めつけ、待ち構えるワルを片っ端からなぎ倒す。2人の殺し屋が直接対決する場面は2度だけだが、それ以外も含めて全編がバイオレンス場面の連続だ。その迫力ときたら超ド級。刃物を使った格闘から、素手での格闘、銃撃戦に爆破シーン、そしてカーアクションと何でもござれだ。

インナムの元恋人が殺され、娘が誘拐された理由は金と人身売買のためだ。その背景にはタイのギャングの存在がある。特に子供の臓器を狙った人身売買はタイ社会の深い闇を感じさせる。それに対してインナムは必死に娘を探し出し、敵と対峙する。そこには彼の悔恨の情がある。元恋人と離れて彼女を見殺しにし、娘についてはその存在さえ知らなかったのだ。

そんな登場人物の心の揺れ動きを最低限押さえつつも、基本となるストーリーは直線的だ。インナムはひたすら娘の命を救おうとする。一方のレイはインナムに復讐することしか頭にない。すべてはそこに集約される。

とはいえ、ドラマのメリハリはついている。特に脇役の配し方が巧みだ。その中でも中盤以降、インナムの娘探しを助ける韓国人ニューハーフのユイ(パク・ジョンミン)がいい味を出している。金のために嫌々ガイドを引き受ける彼の存在が、ドラマにコミカルな味わいを与える。しかも、終盤では重要な役どころを演じる。ユイを演じるパク・ジョンミンの芸達者ぶりも見逃せない。

ちなみに、その他の脇役もなかなかの顔ぶれだ。インナムの元恋人役は「金子文子と朴烈(パクヨル)」のチェ・ヒソだし、日本のシーンでは豊原功補や白竜も出演している。

後半はインナムが娘を追い、そのインナムの命をレイが狙い、さらにギャングがそれを追いかけ、警察までもが絡んでくる(警察はギャングと癒着している)。ドキドキハラハラ感は後半になっても少しも失速しない。

監督は「チェイサー」「哀しき獣」などの脚本を手掛け、本作が長編2作目のホン・ウォンチャン。

映像も魅力的だ。アクション場面のキレの良さはもちろん、ザラついた感じの画面がいかにもノワール風で殺伐とした雰囲気を醸し出す。撮影監督は「パラサイト 半地下の家族」のホン・ギョンピョが務めている。

終盤にはインナムと娘が心を通わせる場面もある。心に傷を負った娘は言葉を発しないのだが、そんな娘に対してインナムが真摯に語りかける。寡黙な彼の言葉は娘の心にどう響いたのだろうか。

だが、やはり穏やかな結末は本作には似合わない。クライマックスは、インナムとレイの最終決戦だ。その結末がどうなるのかは伏せるが、壮絶なバトルが展開する。

そしてラストシーンのユイと娘の姿が、激しいこのドラマに何とも言えない余韻を残す。

まあ、とにかく凄まじいアクション映画だ。バイオレンス場面が多いので好き嫌いは分かれるだろうが、文句なしに面白い。観応えは十分。個人的には、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェのバトルだけでも観る価値があると思う。

 

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◆「ただ悪より救いたまえ」(DELIVER US FROM EVIL)
(2020年 韓国)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:ホン・ウォンチャン
出演:ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェパク・ジョンミン、パク・ソイー、チェ・ヒソ、白竜、豊原功補
*シネマート新宿、グランドシネマサンシャインほかにて公開中
ホームページ https://tadaaku.com/

 


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