映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「女は冷たい嘘をつく」

「女は冷たい嘘をつく」
2020年7月23日(木)GYAO!にて無料鑑賞

~2人の母の思いが絡みつくスリリングなサスペンス

またぞろ新型コロナの感染者が増えて、東京では4連休中は不要不急の外出は避けろとの要請。だからというわけでもないのだが、この日はかなりの雨降りということもあり、映画館には行かずに動画配信にて映画を鑑賞。

鑑賞した作品は「女は冷たい嘘をつく」(MISSING)(2016年 韓国)。2017年10月28日からシネマート新宿、シネマート心斎橋にて開催の特集企画「のむコレ」で、日本公開されたとのこと。何やらありがちなチープな邦題のせいもあり、あまり期待しないで観たのだが、これがなかなかよくできたサスペンスだった。

主人公はシングルマザーのジソン(オム・ジウォン)。1歳の娘ダウンの親権をめぐって元夫と調停中の彼女は、仕事で多忙な日々を送り、住込みの中国人ベビーシッターの女性ハンメ(コン・ヒョジン)に娘の世話を任せていた。そんなある日、ハンメとダウンがこつ然と姿を消してしまう。警察や家族に相談しても信じてもらえず、自作自演ではないかと疑われてしまったジソンは、たった1人でダウンの行方を追うのだが……。

約1週間の時系列に沿って、事件の発生から解決までがスリリングに描かれる。イ・オニ監督とホン・ウンミによる脚本が秀逸だ。ヒロインがなかなか警察に届けずに、たった一人で娘を捜すというのは一見無理筋なのだが、そこに親権をめぐる調停という要素を持ち込むことによって不自然さを消している。

しかも、途中で誘拐事件の様相を提示して、タイミングよく警察を介入させる(とはいえ、例によって警察は頼りなく、あくまでもヒロインによる捜索が中心になるのだが)。

謎めいた雰囲気の作り方も巧みだ。過去の出来事を適宜織り交ぜながら、中国人ベビーシッター、ハンメの過去を追っていく。彼女が勤務していたいかがわしい店やブローカーの男、ハンメの叔母を自称する女なども効果的に使い、いったい何が真実なのかを闇の中に放り込む。イ・オニ監督による演出、映像もそれに大きく貢献している。

やがてハンメの名前も年齢も全てが嘘だったことが判明する。そして彼女の意外な過去が見えてくる。そこには、韓国の地方における外国人妻が置かれた過酷な現状が関わってくる。また、韓国社会における貧富の格差や臓器売買なども、ドラマの背景として描かれる。

さらに、シングルマザーのジソンは毎晩遅くに家に帰り、家でも仕事をするなど、その忙しさはハンパではない。上司は彼女が子育て中なのを承知しているのに、全く配慮を見せることがない。ジソンは経済状況もかなり厳しいらしい。

イ・オニ監督が女性だからというわけでもないだろうが、こうして韓国社会で過酷な状況に置かれた女性たちが描かれているのが、本作の一つの特徴といえるだろう。

とはいえ、基本はスリリングなサスペンスだ。はたしてハンメはどこに行ったのか。ダウンは生きているのか。その謎をめぐってドラマは二転三転する。

終盤は2人の「母」による対決へと至る。まったく状況の違う2人が、まさに運命のいたずらというべきことからクロスし、今回の事件へとつながったことがわかる。その事実が何とも皮肉で切ない。

クライマックスは船上での緊迫のシーン。この手のサスペンスにつきもののシーンとはいえ、2人の「母」の渾身の演技によって目が離せない。

シングルマザー役を演じるのは「ソウォン 願い」などのオム・ジウォン。子供を奪われ錯乱し憔悴する姿、そして子供を取り戻すために驀進する鬼気迫る姿が印象的な演技だった。

一方、ベビーシッターのハンメ役は「エターナル」でイ・ビョンホンの妻役を演じたコン・ヒョジン。こちらも悲しい運命に翻弄され、何かにつかれたように犯罪に走る姿を好演している。

その後の美しく哀しい水中シーンや、病院での感動的な後日談など、最後の最後まで見せ場たっぷりの映画だった。まあ、正直なところ超話題作というわけでもなく、日本ではイベントで細々と上映された作品にもかかわらず、このクオリティーと面白さ。だから、観ちゃうんだよなぁ。韓国映画

GYAO!では8月22日まで無料で観られるようなので、よろしかったらどうぞ。

◆「女は冷たい嘘をつく」(MISSING)
(2016年 韓国)(上映時間1時間38分)
監督:イ・オニ
出演:オム・ジウォン、コン・ヒョジン、キム・ヒウォン、パク・ヘジュン、キム・ソニョン
Amazonプライムビデオほかにて配信中
ホームページ(のむコレ) http://www.cinemart.co.jp/nomu-colle/


娘はどこに…!映画『女は冷たい嘘をつく』予告編