映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「人質 韓国トップスター誘拐事件」

「人質 韓国トップスター誘拐事件」
2022年9月12日(月)シネマート新宿にて。午後2時20分より鑑賞(スクリーン1/C-12)

~実在のスター俳優が誘拐されるユニークでシリアスなサスペンス

ファン・ジョンミンは韓国のスター俳優だ。「国際市場で逢いましょう」「ベテラン」「哭声/コクソン」「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」「ただ悪より救いたまえ」「新しき世界」など、出演作を挙げたらきりがない。

そのファン・ジョンミンが自らの役を演じたサスペンスが「人質 韓国トップスター誘拐事件」だ。俳優が本人役で出演する映画は珍しくないが、どちらかといえばネタ一発のお笑い系の映画が多い。それに比べて本作はシリアスなサスペンス。しかも、韓国映画らしくあの手この手で観る者を飽きさせない。

記者会見から帰宅の途についた国民的スター俳優ファン・ジョンミン(ファン・ジョンミン)。路地でチンピラらしき男たちに絡まれる。だが、その直後に、彼らはジョンミンを誘拐する。彼らはすでに猟奇殺人事件を起こしている極悪非道な集団だった。彼らの要求に従い、身代金の支払いを約束したジョンミンだったが、無事に解放される保証はない。しかも同じ部屋には、ジョンミンよりも前に拉致されていた女性ソヨン(イ・ユミ)が監禁されていた。絶望的な状況の中、懸命に脱出の道を探るジョンミンだったが……。

前半はパイプ椅子に縛り付けられたジョンミンが、犯人グループにいたぶられる姿が描かれる。何しろリーダーのチェ・ギワン(演じるのはミュージカル俳優のキム・ジェボム)が恐ろしい。いかにも冷酷なサイコで人を殺すことなど何とも思っていない男だ。その配下の者たちともども、ジョンミンを殴りつけ銃で脅す。

おまけに、前の事件で拉致されていた女性も監禁されているから、不用意に動けば彼女の命を危険にさらしてしまう。そういう絶望的な状況下で、ジョンミンがいかに脱出するかが前半の見どころ。

それと並行して描かれるのが身代金を手に入れるため、ジョンミンの家に行きカードを探すギワンの姿。そして、彼らを追う警察の捜査の様相も描かれる。

ギワンは、「午後10時までに戻らなかったら殺してしまえ!」と部下に命じている。つまり、脱出にはタイムリミットがあるのだ。この設定もドラマをいっそうスリリングにする。

犯人側にも誤算がある。ギワンはカード探しに手間取り、その過程でまたしても人を殺す。そうする間に警察の捜査の手が身近に迫ってくる。

中盤、ジョンミンは脱出に成功する。持ち前の演技力を駆使して、ソヨンとともに逃走する。そこからは森の中での壮絶な追走劇が展開する。

かたや犯人のギワンは、街の中で警察とド派手なカーチェイスを展開する。さらに爆破シーンなどもある。

終盤、再びジョンミンとソヨンは捕まる。だが、そこで犯人側の内部で内紛が起きる。それが凄まじい盛り上がりのクライマックスにつながっていく。それはジョンミンとジワンの1対1の肉体のバトルだ。

とにかく全編に渡ってスリリングなサスペンスである。絶体絶命のあわやの場面もたびたび登場する。二転三転する展開で、どうなるかまったく予想がつかない。

主人公のジョンミンは演技力を駆使して敵と対峙する。敵も彼が俳優であることを知っている。はたして彼の言動は演技なのか、それとも違うのか。観ているうちに観客は混乱してくる。そういう面白さもある映画だ。

犯人側のキャラもよく描かれている。その中にジョンミンのファンのちょっと間抜けな男がいる。この男がいろいろとジョンミンの出演作の話をする。ジョンミンも自身のキャリアについて面白おかしく語る場面があるなど、遊び心も満載の映画だ。

そして印象的なのが、ジョンミンがけっしてスーパーヒーローに描かれていないところ。ファン・ジョンミンといえば、アクションからシリアスなドラマまで様々な役を演じる俳優。そんな持ち味ゆえか、この映画のジョンミンは殴られ、蹴られ、銃を突きつけられ、何度も死にそうになる。

最後の最後にカッコいい姿が拝めるかと思えば、最後のバトルは生き残りをかけた必死の戦い。カッコいいというよりは、執念を感じさせるバトルである。それもまたこの映画の持ち味になっている。

ラストの後日談も面白い。事件から2年後に映画スタジオを訪れた彼の前に現れたのは……。そのときの凍り付いたジョンミンの表情が忘れられない。そして、エンディングに流れるのがイギー・ポップの「The Passenger」。これを流すセンスの良さもたまらない。

というわけで、エンタメ映画としてお楽しみの要素をギュウギュウ詰めにしたレベルの高いサスペンスだ。実在の俳優を主人公にしたことで、色々と遊び心も発揮されているが、ファン・ジョンミンのことを知らない人が観ても楽しめるだろう。

◆「人質 韓国トップスター誘拐事件」(HOSTAGE: MISSING CELEBRITY)
(2021年 韓国)(上映時間1時間34分)
監督・脚本:ピル・カムソン    
出演:ファン・ジョンミン、イ・ユミ、リュ・ギョンス、キム・ジェボム、チョン・ジェウォン、イ・ギュウォン、イ・ホジョン
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://hitoziti-movie.com/


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