映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ルート29」

「ルート29」
2024年11月9日(土)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後3時25分より鑑賞(スクリーン9/D-11)

~孤独な女性と風変わりな女の子の超個性的なロードムービー

 

森井勇佑監督の長編デビュー作「こちらあみ子」は、少し風変わりな少女を描いたドラマで鮮烈な映画だった。その映画で主人公を演じて強烈な個性を放っていた大沢一菜が、再び主演を務めたのが「ルート29」。綾瀬はるかとのダブル主演で、監督は同じく森井勇佑。中尾太一の詩集「ルート29、解放」にインスピレーションを受けて作られたロードムービーだ。

他者と必要以上に関りを持とうとしない孤独な女性のり子(綾瀬はるか)は、鳥取の街で清掃員として働いていた。ある日、彼女は仕事で訪れた病院の入院患者・理映子(市川実日子)から「姫路にいる娘のハルを連れてきてほしい」と頼まれる。のり子は姫路へ行き、ハルを見つける。彼女は風変わりな女の子で、トンボ眼鏡をしているのり子に「トンボ」というあだ名をつける。のり子とハルは国道29号線を進み鳥取へ向かうのだが……。

変わった映画だ。まず映画の入り口から変わっている。修学旅行生がたむろする中、教師が自由行動についての注意事項を伝える。さっそく集団から外れて行動する数人の生徒。「これは青春映画か?」と思ったら、そのわきを主人公ののり子らしき女性が通っていく。

そののり子が、「ハルを連れてきてほしい」と頼まれる経緯も変わっている。人づきあいが苦手で、「仕事上患者さんと接触するな」とも指示されているハルのもとに、患者の理映子が近寄ってきて「タバコはあるか」と尋ねる。その口調には抑揚がない。いわばセリフの棒読みのような口調なのだ。

のり子が、姫路にハルを探しに行く経緯も変わっている。彼女は突然、何かに突き動かされたかのように仕事を放棄して、仕事先の車を盗んで出かける。その心中は観客が想像するしかない。この映画に説明らしきものはほとんどない。

そしてハルとの出会いも奇妙なもの。ハルらしき女の子を見かけたのり子は彼女を追いかける。すると山に入ったハルは、ホームレスのような奇怪な男と交流する。ハルは「こちらあみ子」のあみ子と同様に、一般的な常識から外れた異端児なのだ。

ここからはのり子とハルの旅となるが、そこで2人が心を通わせるのは定番の展開。しかし、その道中はファンタジー調でぶっ飛んだ逸話が満載だ。

のり子とハルは国道29号線を鳥取に向かって進む。車で行けば3時間程度の距離だ。ところがのっけから思わぬ事態に遭遇する。寂れたレストランに入った2人は、そこで2匹の大型犬を連れた赤い服の女(伊佐山ひろ子が怪演!)から、「いなくなった3匹目の犬を探してほしい」と頼まれる。それに応じて2人が犬を探している隙に、なんと彼女に車を盗まれてしまう。ここからは徒歩の旅になる。

こんなふうに謎だらけの人物が謎だらけの行動をして、2人の旅を混乱させる。横転した車の中にいた老人(大西力)が2人の旅に加わったり(その去り方も奇妙すぎ!)、人間を避けて旅をしているという親子(高良健吾、原田琥之佑)に出会ったり。

「よくもこんなことを思いつくものだ」と言いたくなる奇妙奇天烈なエピソードばかり。ある種のファンタジータッチの展開で、ドラマは現実と虚構のはざまを行き来する。そこにはコミカルな味わいも感じられる。

旅の最後に出会うのは、のり子の姉・亜矢子(河井青葉)。教師をしている彼女は、その悩みをのり子に打ち明ける。のり子には何でも相談できるという。それはのり子が自分に興味がないからだという。それでも彼女はのり子が好きだと告げる。のり子も姉のことが好きだと言う。

こんな様々な経験を経て、のり子とハルは少しずつ心を通わせていく。空っぽだったのり子の心が様々な思いで満たされていく。

ハルが姿を消した時、のり子は彼女の姿を求めて走り回る。人とのかかわりを避けてきた彼女が、ハルを探して必死になる。

ラストシーンは、ファンタジー調のこの映画で最もファンタジー色の強いシーンだろう。ハルがあるものを目撃する。そして離れた場所にいるのり子が、ある音を耳にする。それこそが2人の魂が共振した瞬間ではないのか。孤独な女性と風変わりな女の子による旅は、確実に2人の心に変化をもたらして終わりを迎えたのである。

綾瀬はるかは無表情で無口(本当にセリフが少ない)な役を好演。感情の変化を繊細に表現する演技が絶品だ。こういう役もできるのねぇ~。

一方、大沢一菜は「あみ子」から少し成長したものの、風変わりな異端児ぶりは健在。得難い個性の持ち主で今後も楽しみだ。

超個性的なクセモノ映画。それでも伝わってくるものは優しくて温かい。ただし、素直な感動を期待すると裏切られるかもしれないので、そのあたりはご注意を。

◆「ルート29」
(2024年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:森井勇佑
出演:綾瀬はるか、大沢一菜、伊佐山ひろ子高良健吾、原田琥之佑、大西力、松浦伸也、河井青葉、渡辺美佐子市川実日子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://route29-movie.com/

 


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