映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「青春18×2 君へと続く道」

青春18×2 君へと続く道」
2024年5月7日(火)グランドシネマサンシャイン池袋にて。午後1時15分より鑑賞(スクリーン2/e-8)

~18年前の思い出を胸に日本を旅する台湾人男性。旅の先に見たものは……

 

2019年の「新聞記者」で日本アカデミー賞を受賞した藤井道人監督。それを見て社会派の監督だと思った人もいるようだが、そういうわけではない。「全員、片想い」「青の帰り道」「デイアンドナイト」「ヤクザと家族 The Family」「余命10年」「ヴィレッジ」「最後まで行く」といった過去作を見れば、いかにジャンルを超えた幅広い作品を送り出しているかがわかる。

青春18×2 君へと続く道」は、藤井監督にとって初の日台合作映画。脚本も担当している。その内容は青春ラブストーリーだ。青春ドラマとしては過去にも「青の帰り道」という秀作を撮っているし、ラブストーリーも「余命10年」などで定評があるから、この映画もそれなりの水準にあることは観る前からわかっていた。

冒頭で描かれるのはシビアな会議の場面。この段階では細かな説明はないが、この物語の主人公ジミー(シュー・グァンハン)が、友人とともに立ち上げ成長させた会社を放逐されたらしい。

失意のジミーは、最後の仕事として日本に出張する。そこで彼は旅に出る。かつて淡い恋心を抱いていた日本人女性のアミ(清原果耶)の故郷を目指して……。

というわけで、ジミーの現在進行形の旅のドラマと、18年前の高校生の頃のドラマが交互に描かれる。

18年前のドラマでは、大学入学までの間、故郷の台南のカラオケ店でアルバイトしていたジミーの目の前に、台湾を旅するバックパッカーで4歳年上のアミが現れる。アミは財布をなくし、カラオケ店で働かせてもらいたいという。こうして同じバイト仲間になった2人は、楽しい毎日を送るようになる。

そんな日々を明るくユーモラスにテンポよく描き出す。神戸出身の日本人のカラオケ店長や他のバイト仲間なども効果的に配され、生き生きとした彼らの毎日が綴られる。

そうした中でジミーは次第にアミに惹かれていく。夜道を疾走する2人乗りのバイク、台南の夜景、岩井俊二の映画「Love Letter」などが巧みに使われ、2人の交流を情感たっぷりに描いていく。同時に、アミの陰の部分も映し出し(彼氏の存在?)、ジミーの心をかき乱す。

一方、現在進行形のドラマでは、ジミーが影響を受けた「スラムダンク」の舞台である鎌倉を皮切りに、長野、新潟と旅をしていく。そこでは、同じ台南出身の蕎麦屋の店長、一人旅を楽しむ青年、ネットカフェのアルバイト店員などと交流を重ねていく。

旅に関する至言も飛び出す。細かな表現は忘れたが、「何かを変えるためではなく、過去の生き方を確かめるための旅もある」というような発言がある。

現在進行形の旅で起きることは、18年前の過去の出来事ともしばしばリンクする。その典型的な例が、新潟で出会ったランタンフェスティバルだ。18年前に、帰国が決まったアミとジミーは最後にランタンフェスティバルに出かけ、そこで願いを込めてランタンを空に放ったのだ。時代を超えた2つのランタンが空に舞う。その幻想的な映像が情感を高める。

こうして観客のノスタルジーを刺激し、「あの時違う選択をしていたら……」というほろ苦い思いを抱かせるわけだが、そのツボの押さえ方が絶妙だ。あまりにもベタになりすぎず、かといって薄味すぎず、味付けの仕方が心憎いほど巧みなのだ。

そして、現在進行形のドラマは、いよいよアミの故郷である福島県只見町へ。はたしてジミーはアミに再会できるのか?

そこでクライマックスが訪れるわけだが、これがまあ涙なしには見られない感動の場面なのだ。観客の涙腺を思いっきり刺激して容赦がない。

ここに至って、実はこの旅がアミとの再会を目的としたものではなかったことがわかる。そして、序盤に出てきた旅に関する至言がここで大きな意味を持つ。ジミーの本当の旅の目的を私たちは知ることになるのである。

主演のシュー・グァンハンは過去と現在を巧みに演じ分けた。清原果耶の存在感も出色だ。最近は、どんな役を演じても様になる。何だか長澤まさみに雰囲気が似てきたと感じるのは私だけ?

道枝駿佑黒木華松重豊黒木瞳らの脇役もいい。特に黒木華は、完全に役に同化した演技で、最初は彼女と気づかなかったほどだ。

観る前から想像していた通りに、とてもよくできた青春ラブストーリーだ。私の場合、終盤の展開も含めて、ある程度予測がついていたのだが、それでも素直に感動してしまった。日台合作映画でも、藤井監督の演出力の高さは不変だった。

◆「青春18×2 君へと続く道」
(2024年 日本・台湾)(上映時間2時間3分)
監督:藤井道人
出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑黒木華松重豊黒木瞳
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://happinet-phantom.com/seishun18x2/

 

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