「アイミタガイ」
2024年11月1日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋にて。午後1時25分より鑑賞(シアター11/e-10)
~様々な人たちの思いが受け継がれて、すべてがつながっていく奇跡のようなドラマ
2020年に急死した佐々部清監督。「陽はまた昇る」「半落ち」「チルソクの夏」「夕凪の街 桜の国」「ツレがうつになりまして。」などたくさんの作品を残している。個人的にけっこう好きな監督だったな。
その佐々部監督の名前を新作の脚本に見つけてしまった。中條ていの連作短編集を映画化した群像劇「アイミタガイ」である。
どうやら佐々部監督は生前、この映画の企画を温めていたらしい。「台風家族」などの監督の市井昌秀が脚本の骨組みも作っていたという。それを「世界でいちばん長い写真」「彼女が好きなものは」の草野翔吾監督がメガホンを取って完成させた。脚本にはこの3人の名前がクレジットされている。
映画の序盤。ウェディングプランナーの梓(黒木華)とカメラマンの叶海(藤間爽子)との友情が描かれる。2人は強く結びついているらしく、大切なことは何でも相談していた。叶海は近く海外に出かける予定で、梓と別れた直後には父親と会う。
一方、梓には恋人の澄人(中村蒼)がいた。2人はとても良い関係にあるが、梓にはまったく結婚願望がなかった。その原因は両親の離婚にあった。
というわけで、よくある若者の友情&恋愛ドラマ風に始まったこの映画。ところが、次には海外に出かけた叶海が、事故死したことを示唆するシーンが映る。ほんのさりげない映像で……。
そこからは友を失った梓を中心に、様々な人物に焦点を当てたドラマが始まる。
最初に焦点が当てられるのは、叶海の両親(田口トモロヲ、西田尚美)だ。娘を亡くして失意の2人のもとに、児童養護施設から娘宛てのカードが届く。いったいこれは何なのか?
同時に、叶海の母はいまだに叶海のスマホを解約できずにいた。そこには新たにメッセージが届いていた。どうやら相手は叶海の死を知りつつも、それを受け止めきれずに今も相談事をメールしてきているようだった。
女子中学生のエピソードも登場する。彼女はカメラを手にしている。そして、彼女はいじめられていたもう一人の女子中学生と出会う。どうやら、これは中学時代の梓と叶海らしかった。
こんなふうに、様々な人物による様々なエピソードが綴られる。梓の叔母(安藤玉恵)や彼女がヘルパーとして世話をする気難しい老女こみち(草笛光子)も、重要な登場人物だ。
そして、それらの人物とその人間模様が、まるでパズルのようにすべてつながっていくのである。
普通なら「そんな都合の良いことあるわけがない」と思うのだろうが、そう思わせないところがこの映画の真骨頂。
そして、悪人は一人も登場せず善人ばかりなのもこの映画の特徴。これも下手をすると嘘臭さの原因となるが、そうなっていないところがミソ。劇中で叶海の父親も吐露するが、「そういう物語があってもいい」と思わせられるのだ。
押しつけがましさは微塵もなく、むしろ淡々としたタッチで描かれる。ユーモアもある。それゆえ、逆に感動が大きくなる。途中からは何度も泣かされた。
特に、こみちが梓の依頼で金婚式のピアノ演奏をするシーン。そのメロディーに、叶海の両親が児童養護施設を訪ねた時のシーンがかぶる。ここは感涙必至の場面だ。
さらに、その後、叶海の両親と梓が偶然出会うシーンも、涙なしには観ることができなかった。
こうやってたくさんの人々がつながっていく。そこにはタイトルの「アイミタガイ」が深く関係している。アイミタガイ=相身互い。劇中で梓の祖母(風吹ジュン)が優しく教えるその言葉が、この映画の根底には流れている。
ラストは心地よい空気の中、梓と澄人の恋の行方が描かれる。そこもまた感動的な場面。本当に心が温かくなる映画だ。
俳優陣もみんな素晴らしい。主演の黒木華はそこにいるだけでスクリーンに見入ってしまう。中村蒼、藤間爽子、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子らも見事な演技だった。
佐々部監督をはじめ、多くの人の思いが受け継がれて完成した本作。そこに、この映画の素晴らしさの源泉があるのではないだろうか。温かで穏やかで奇跡のような物語に何度も泣かされた。
エンディングに流れる黒木華の歌もこの映画にぴったり合っている。
◆「アイミタガイ」
(2024年 日本)(上映時間1時間45分)
監督:草野翔吾
出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄、松本利夫、升毅、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://aimitagai.jp/
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