映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ゴンドラ」

「ゴンドラ」
2024年11月11日(月)新宿シネマカリテにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン2/A-5)

~セリフなしですべてを物語る。コミカルでキュートなラブストーリー

 

ドラマにはセリフがつきものだが、セリフのない映画もある。ドイツとジョージアの合作映画「ゴンドラ」にはセリフがない。別に無声映画というわけではなく、普通に音は聞こえるし、笑い声などの人間の声も聞こえる。だが、登場人物によるセリフは存在しないのだ。

この映画はコロナの時期に撮影されたが、セリフなしになったのはそのせいばかりではないようだ。監督・脚本を担当したドイツのファイト・ヘルマー監督(「ツバル TUVALU」「ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を」)は、過去にもセリフなしの映画を撮っている。

ドラマの舞台となるのは、ジョージアの小さな村に実在する古いゴンドラだ。2台のゴンドラが山の谷間を行き来する。

映画の冒頭はそのゴンドラで棺を運ぶシーン。それに付き添う老女。しばらくして、イヴァ(マチルド・イルマン)という娘が現れる。どうやら彼女は父の死をきっかけに村に帰って来たらしい。

「らしい」と書いたのは、明確にそのあたりの説明がないからだ。なにせセリフがないので、自分で想像するしかない。そういう意味で、想像力を試される映画でもある。

イヴァは残された生家に住みながら、ゴンドラの乗務員として働き始める。彼女を指導するのはもう1台のゴンドラの乗務員で先輩のニノ(ニニ・ソセリア)。2人はゴンドラがすれ違うたびに心の距離を縮めていく……。

2人の女性のラブストーリーだ。セリフがないから、当然、登場人物の表情や動き、そして音などで感情を表現する。それの描写がまあ絶品なのだ。マチルド・イルマン、ニニ・ソセリアという2人の俳優の演技も素晴らしい。

特に目を引くのが、2台のゴンドラがすれ違う時の、イヴァとニノの目線の変化。何度か繰り返すうちに、次第に2人の心が近づいていくのがわかる。

2人が考え出したユニークな仕掛けも面白い。自らの手でゴンドラを装飾して、船や飛行機、宇宙船などに見立てるのだ。何ともユーモラスで愛らしい光景だ。それを見ているだけで思わずニンマリしてしまう。それにともなって2人の距離もどんどん縮まる。

それ以外にも、長い柄のついた網でゴンドラから身を乗り出してリンゴ(?)を取ったり、ゴンドラが乗り場に着くたびにお互いがチェスの駒を動かし合うなど、いろいろな仕掛けが用意されている。

終盤では、イヴァとニノが車いすの男を奇想天外な方法で空中散歩させるシーンもある。ゴンドラとその周辺しか出てこない映画なのに、あの時手この手で観客を飽きさせない。

ゴンドラを取り巻く大自然の風景も美しい。その中を2台のゴンドラが行き来する。乗客がたくさんいるわけではないが、時には牛を運んだり、幼い子供たちの社交場になったりもする。その様子を独特のタッチで描写する。

恋に積極的なのはニノのほうだ。夜のゴンドラでは、ちょっとエロチックなポーズをしてイヴァを誘惑する。イヴァもそれに応じて2人の仲は急接近するが、あることから2人はケンカしてしまう。

そのケンカもまたゴンドラで行われる。ゴンドラをミリタリー風に改造して、銃撃戦を展開するのだ。と言っても使うのは水鉄砲の銃なのだが。

そこで割と早く両者が仲直りしてしまうのが、ちょっともったいないところ。もっとバトルをエスカレートさせれば、今の世相を反映させて、さらに面白くなったかもしれない。

とにもかくにも、両者の仲直り&最接近で効果的に使われるのは音楽だ。バイオリンと管楽器による祝祭的な演奏が繰り広げられる。そこには村人たちも巻き込まれる。最初はイヴァに冷たく当たっていた村人も、ここでは2人の演奏に加わる。

さて、恋の話とくれば邪魔者がいるのが定番のパターン。この映画では、ニノに気がある駅長がその任務を果たす。何かと2人を意地悪をする駅長。だが、最後には痛いしっぺ返しに遭う。

最後はこの手の映画の定番パターンだし、何ということはないラブストーリーなのだが、ゴンドラという場所とセリフなしの設定が秀逸で、ハッピーな心持ちになれる映画だ。シンブルだが実にキュートな一作!

◆「ゴンドラ」(GONDOLA)
(2023年 ドイツ・ジョージア)(上映時間1時間25分)
監督・脚本・製作:ファイト・ヘルマー
出演:ニニ・ソセリア、マチルド・イルマン、ズカ・パプアシヴィリ
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://moviola.jp/gondola/

 


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