映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「動物界」

「動物界」
2024年11月16日(土)シネ・リーブル池袋にて。午後2時50分より鑑賞(シアター2/C-4)

~モンスター映画の異色作。父と子のドラマに加えて現代的テーマも包含

 

土日の池袋ルミネはかなりの混雑ぶりだ。特に8階のレストランフロアには、私なんぞ入ったこともないおしゃれな飲食店がたくさんあって、入店待ちの人でごった返している。

その人波を抜けて同じフロアにあるシネ・リーブル池袋へ。この日観たのは「動物界」。フランスで大ヒットしたSFスリラーだ。

映画の冒頭、料理人のフランソワ(ロマン・デュリス)と高校生の息子エミール(ポール・キルシェ)が車の中でケンカをしている。その挙句にエミールは車を降りてしまう。後を追うフランソワ。その時、停車していた車から奇怪なものが飛び出してくる。鳥の姿をした人間だ。2人は慌てて車に戻る。

というわけで、この映画の舞台となる近未来では、謎の突然変異によって人間の身体が様々な動物に変異していくという奇病が発生していたのだ。彼らは「新生物」と呼ばれていた。フランスでは政府が新生物を隔離していた。フランソワの妻ラナも発病して隔離され、2人は面会に出かけるところだったのだ。

南仏に新生物のための新しい施設ができ、ラナもそこに移送されることになる。フランソワとエミールも南仏に移り住む。ところが嵐の中で移送中のバスが沼に落ち、ラナが行方不明になってしまう。フランソワはエミールとともに、自ら彼女の捜索に乗り出す。そんな中、エミールの体にも動物化の兆候が現れ始める……。

いわゆるモンスター映画である。鳥人間だの、タコ人間だの、人間が動物化した新生物がたくさん登場する。それを特殊メイクやCGなどデジタルとアナログを組み合わせて表現する。キワモノ的な感じもしないではないが、独特のタッチで観客にインパクトを与える。しかも、そのモンスターが野に放たれて市民の日常空間に出現するのだ。

ただし、彼らが襲い来る恐怖だけを強調するわけではない。ドラマの中心になるのは父と子の絆と葛藤の物語である。必死でラナを捜すフランソワだが、エミールは父ほど乗り気ではない。動物に姿を変えつつある母にどう接していいのかわからなかったのだ。2人はことあるごとにぶつかる。

人間が動物化する原因は不明だ。コロナのように感染によるものなのか。あるいは自己の体内に起因するものなのか。理由はわからないものの、ある日突然発病する。それだけに恐ろしさが際立つ。

その恐怖にさらされるのがエミールだ。彼に新生物の兆候が現れ始める。鋭い鍵爪が生えてきて、背骨は隆起し、毛が生えてくる。エミールは焦り、混乱し、錯乱する。だが、彼はその変異を学校はもちろん、父親にも内緒にし、普段通りの生活を送ろうとする。

その一方で、エミールは森で鳥人間と知り合い、彼と交流を持つようになる。まだ変異が不完全で飛べない彼を、何とか飛べるようにしようと協力する。そうするうちに彼の心に少しずつ変化が訪れる。

このドラマには現代社会の世相も垣間見える。異物を排除しようとする人々は新生物との共存を拒否し、彼らを危険視して場合によっては命を奪おうとする。どうやら新生物には動物が本来持つ以上の暴力性はないようだが、それでも彼らは新生物を敵視する。見た目の異様さもそれを煽る。このあたり、移民、人種差別、ルッキズムなどの今の世の中の問題と通じるところがあるように思えるのだ。

とはいえ、一面的な描き方はしていない。エミールの学校には共存を説く者もいるし、フランソワの働くレストランにも自身の家族が発病し新生物に同情的な従業員がいる。しかも、そうしたことはあくまでも父と子のドラマの背景として描くのに押しとどめ、前面に出しているわけではない。

これが長編2作目のトマ・カイエ監督は、よくあるモンスター映画とは違い、ドラマに現実味を加えることに成功している。モンスター映画とはいえ絵空事とは思えない。コロナの蔓延した世相もその現実味を浮き立たせる。

カメラワークも変幻自在だ。その場その場に応じて様々なテクニックを駆使する。特に南仏の森林や湿地帯などのロケーションをうまく生かし、ダイナミックな映像を生み出している。

クライマックスは祭りの夜。エミールが発病したことに気づいた高校生が彼を挑発したことから、エミールは追われる身となる。

そして、そのはてに訪れるのは父と息子の車での疾走だ。追っ手を振り切り森の中に入る。そこでフランソワがとった行動は……。何とも痛快なラストである。

フランソワ役のロマン・デュリスの人間味あふれる演技も印象深いが、エミール役のポール・キルシェの演技が絶品。自分が獣化した時の混乱ぶりに加え、その後の心情の変化をリアルに演じていた。

父と子の人間ドラマに加え、現代的なテーマを包含するユニークなモンスター映画である。

◆「動物界」(LE REGNE ANIMAL/ THE ANIMAL KINGDOM
(2023年 フランス)(上映時間2時間8分)
監督:トマ・カイエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス、トム・メルシエ、ビリー・ブラン
*新宿ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://animal-kingdom.jp/

 


www.youtube.com

 

*はてなブログの映画グループに参加しています。よろしかったらクリックを。

 

*にほんブログ村に参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。

にほんブログ村 映画ブログへ  にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村