映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「私は確信する」

「私は確信する」
2021年2月14日(日)新宿武蔵野館にて。午後2時45分より鑑賞(スクリーン1/C-6)

~被告の無罪を証明するため猪突猛進する女性と敏腕弁護士

名作「十二人の怒れる男」の例を挙げるまでもなく、法廷劇は面白い。状況が二転三転する展開に加え、判決で白黒が決まるカタルシスもある。それを再確認させられたのが、「私は確信する」というフランス映画だ。大きな注目を集めた実在の未解決事件をめぐる裁判を基にした法廷サスペンスである。

2000年2月、フランス南西部のトゥールーズで3人の子どもを持つ女性スザンヌ・ヴィギエが忽然と姿を消した。やがて、大学教授の夫ジャックが殺人の容疑で逮捕される。確たる証拠がない中で第一審では無罪が言い渡されるが、検察は控訴し、第二審が始まろうとしていた。そんな中、シングルマザーのノラ(マリナ・フォイス)は、ジャックの無実を証明するために、敏腕弁護士のデュポン=モレッティオリヴィエ・グルメ)に弁護を依頼する。自らも助手として通話記録を調べ始めるノラだったが……。

この事件は難事件だ。明確な動機がなく、証拠もなく、スザンヌの遺体さえ見つからなかった。そのため、ジャックは証拠不十分で釈放されたにもかかわらず、事件から10年後に裁判にかけられる異例の展開をたどった。

おまけにジャックはヒッチコック映画のファンで、学生に「完全犯罪は可能だ」と話していたという。この映画の中でも、裁判長がジャックに「この事件と似ているヒッチコックの作品は?」と尋ね、ジャックが「バルカン超特急」「間違えられた男」を例に挙げるシーンがある。

そんな裁判劇の主役の一人がノラという女性だ。息子の家庭教師がジャックの娘だった縁で、ノラは頼まれもしないのに敏腕弁護士のデュポン=モレッティのところに押しかけて強引に弁護を依頼する。そして、彼の頼みにより250時間にも及ぶ通話記録を丹念に分析するのだ。

その通話記録の音声で色々な事実が明らかになる。ベビーシッターの証言が虚偽だったり、複数のダニエルと名乗る男が登場したり、失踪したスザンヌの恋人が怪しい行動を取っていたり……。そこがこのドラマの魅力の一つである。

とはいえ、とにかく次々に新たな事実が出てくるので、よほど神経を集中させていないと訳がわからなくなりそうだ。しかも、それらの事実が高速で展開するので、なおさらである。そのスピードについて行けない人もいそうだ。

その一方で、ノラの人間ドラマも描かれる。彼女は実は一審で陪審員だったのだ。その事実を隠していたために、モレッティ弁護士を怒らせ、アシスタントを首になってしまう。それでも彼女は猪突猛進して、独自に調査を続ける。挙句に、仕事に穴をあけて本職のシェフの仕事を首になり、息子をないがしろにして嫌われてしまう。

いったいなぜ彼女はそれほど裁判に入れ込むのか。それは単なる正義感からなのか。それとも……。こうしたノラのドラマもこの映画の大きな魅力だ。

そしてドラマのもう一人の主役が切れ者モレッティ弁護士である。彼の法廷戦術は一癖も、二癖もある予測不可能なものだ。協力者であるノラが見つけ出した新証拠をネタに、法廷を予想もしない方向に導く。

裁判の行方は二転三転する。被告のジャックにとって有利な展開になったかと思えば、次の瞬間にいきなり不利な状況に転じる。そのスリリングな展開も見応えがある。

そんな中で、スザンヌの恋人が真犯人だと確信したノラは、その証拠を集めようと奔走する。だが、モレッティ弁護士はそれを諫める。今この法廷でやるべきことは、真犯人を突き止めることではなく、ジャックの無罪を勝ち取ることなのだと。

この展開にこの映画の重要なポイントがあると思う。ジャックは疑わしいというだけで、逮捕され、裁判にかけられた。ノラがやろうとしていることも同じである。スザンヌの恋人が疑わしいというだけで、犯人にしようとしているのだ。確たる証拠もなしに犯人を作り出す怖ろしさこそが、この映画の訴えるメッセージではないのか。

やがて裁判のハイライトが訪れる。モレッティ弁護士の最終弁論だ。その演説は力強く、説得力に満ちている。演じるのは名優のオリヴィエ・グルメ。まるで一人芝居のような迫力の演技を披露する。

裁判の行方がどうなったかは書かないが、白黒は一応決着する。ただし、モヤモヤは残る。本当の事実がどうだったのかは、誰もわからないからである。

観終わって、人を裁くことの難しさをあらためて思い知らされた。「推定無罪」という当たり前の原則さえ危うい司法制度の問題点を、鋭く突きつけた映画といえるだろう。それはフランスに限らず、世界中に共通する課題である。

 

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◆「私は確信する」(UNE INTIME CONVICTION)
(2018年 フランス・ベルギー)(上映時間1時間50分)
監督・脚本:アントワーヌ・ランボー
出演:マリナ・フォイス、オリヴィエ・グルメ、ローラン・リュカ、ジャン・ベンギーギ、フランソワ・フェネール、フィリップ・ドルモワ、フィリップ・ウシャン、インディア・エール、アルマンド・ブーランジェ、スティーヴ・ティアンチュー、フランソワ・カロン
*ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
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