映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「シカゴ7裁判」

「シカゴ7裁判」
2021年1月27日(水)池袋HUMAXシネマズにて。午後12時より鑑賞(シネマ3/E-12)

~豪華キャストで見せる法廷劇は、今に通じる人権と言論の戦い

コロナ禍で新作の公開が滞りがちだが、その思わぬ副産物で見逃しかけた作品が意外な映画館で公開されたりする。池袋HUMAXシネマズの上映作品を見ていたら、昨年10月にNetflixで配信され、一部の劇場で公開もされた「シカゴ7裁判」があるではないか。Netflixには加入していないし、劇場でも観ていなかったので、さっそく足を運んだのである。

1968年、シカゴで大統領候補を決める民主党全国大会が開かれた。会場近くでは、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集結した。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に過激化していき、警察との間で激しい衝突へと発展する。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)、トム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)ら7人の男「シカゴ・セブン」は、暴動を煽った罪で起訴されてしまう。

当時はベトナム戦争が泥沼化していた時期。増兵に次ぐ増兵で、兵士を徴兵するのに誕生日の書かれた球をくじ引きする姿が衝撃的だ。そんな中で、民主党の大統領候補選びに影響を及ぼそうと、様々な人々がベトナム戦争反対のデモをする。それが警察との衝突に発展する。

そして起訴された7人。彼らを被告とした法廷ドラマを中心に、裁判の舞台裏や暴動当日の様子などを描いている。

本作は実録ドラマではあるが、エンターティメントとしての面白さにあふれている。何しろ登場人物が強烈だ。7人の被告は、同じ被告でもそれぞれに個性的。考え方も急進的なものから穏健なものまで様々なら、服装や態度まで全く違う。共通項はベトナム戦争反対だけ。したがって、裁判の進め方でも大モメにモメる。

それを御するクンスラー弁護士も型破りだ。ベテランだけに、したたかかつ狡猾に裁判を進めようとする。しかし、個性的な被告たちは一筋縄ではいかない。そのためケンカ腰でやり合う場面が何度もある。

そして極めつけがジュリアス・ホフマン判事だ。まるで偏見の塊のような人物で、次々と検察に有利な判断を下す。被告にはまともな反論も許さず、法廷侮辱罪を連発する。タヌキおやじそのものである。

前半でその犠牲になるのが、ボビー・シールという黒人被告だ。ブラック・パンサー党のリーダーの彼は、7人の被告と一緒に起訴されていたが、代理人が不在にもかかわらず裁判を進められるなど差別的な扱いを繰り返し受ける。その挙句に、判事から拘束を命じられてしまうのだ。あまりのことに、彼の審理は検事からの提案で無効になってしまう。

こうしてボビー・シールが法廷を去ってからは、7人の裁判が集中的に描かれる。証人はすべて警察や行政の人間で、検察に有利な証言をする。デモ当時は仲間のようにすり寄ってきた人物も、実は警察やFBIの人間だったりしたのだ。

おかげで被告たちは追い込まれる。絶体絶命の裁判。だが、やがて光が見える。実は起訴された7人は捜査の結果、罪には問えないと結論付けられていた。それがどうして起訴されたのかというと、そこにはミッチェル司法長官の思惑がある。ラムゼイ・クラーク前司法長官が嫌いなミッチェルは、前任者の意向を無視して、無理やり起訴に持ち込んだのだ。いわば無理筋の起訴というわけ。

そのことを知ったクンスラー弁護士は、クラーク前司法長官を証人として呼ぶことを画策する。一発逆転のチャンスである。司法省の反対を押し切ってクラークは自ら証人になる。ところが、ここでもホフマン判事が邪魔をする。彼はクラークの証言を「なかったこと」にしてしまうのだ。

もはや手の打ちようがない被告たち。終盤には穏健派のトムが証言しようとする。だが、そのトムが暴動の途中で、警察の暴挙に頭に血が上って過激なことを言っていたことがわかる。そこでのクンスラー弁護士とトムのやりとりが迫力満点だ。終盤の1つのハイライトといっていいだろう。結局、証言はトムではなくアビーが行うことになる。

そして迎えた判決の日。ホフマン判事は穏健なトムに対して、自分の望み通りの証言をすれば罪を軽くすると言う。だが、トムはそこで被告の1人が記録していたベトナム戦争の犠牲者の名前を一人ひとり読み上げる。法廷に拍手の嵐が巻き起こる。ほとんどの人が犠牲者に敬意を表して立ち上がり、検事までもが立ち上がる。文句なしの感動の場面だ。

この映画の脚本は、「ソーシャル・ネットワーク」「マネーボール」「スティーブ・ジョブズ」などの脚本で知られ、「モリーズ・ゲーム」で監督業にも進出したアーロン・ソーキンが2007年に書いたもの。当初はスティーブン・スピルバーグが監督するはずだったのが、諸事情から降板。結局、今になってソーキンが自らメガホンをとって完成させたとのこと。

それにしても豪華なキャストである。被告役のサシャ・バロン・コーエンエディ・レッドメインジョン・キャロル・リンチなどに加え、若手検事役のジョセフ・ゴードン=レヴィット、弁護士役のマーク・ライランス、判事役のフランク・ランジェラ、クラーク前司法長官役のマイケル・キートンなどが、膨大なセリフ劇を迫真の演技で見せている。

エンターティメントとして面白いと言ったが、当然ながら本作で描かれているのは人権と言論の戦いである。油断をすれば権力は、いつでもその恐ろしい牙をむくのである。その点で1960年代のドラマではあるが、今のアメリカの人々の心にも響くドラマといえる。いや、アメリカだけではない。世界中どこでも通用するドラマなのである。

いやぁ~、見逃さないでよかったぜ。


『シカゴ7裁判』予告編 - Netflix

◆「シカゴ7裁判」(THE TRIAL OF THE CHICAGO 7)
(2020年 アメリカ)(上映時間2時間9分)
監督・脚本:アーロン・ソーキン
出演:サシャ・バロン・コーエンエディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マイケル・キートンマーク・ライランス、アレックス・シャープ、ジェレミー・ストロング、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、ジョン・キャロル・リンチフランク・ランジェラ
*池袋HUMAXシネマズほかにて公開中
ホームページ https://chicago7-movie.com/