映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「私がやりました」

「私がやりました」
2023年11月8日(水)TOHOシネマズ シャンテにて。午後7時40分から鑑賞(スクリーン1/D-12)

~殺人事件を利用して成り上がる女たち。社会問題を取り込みつつ気楽に笑えるコメディー

「8人の女たち」「スイミング・プール」など次々に多彩な映画を送り出すフランソワ・オゾン監督の新作は、1930年代のパリを舞台にしたクライムミステリーだ。

同じ部屋に住む若手女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)と駆け出しの弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール)。どちらも仕事がなくお金に困っていた。今日も今日とて大家が家賃の催促に訪れるが、ポーリーヌは支払うことができない。

やがて外出していたマドレーヌが戻る。有名映画プロデューサーの自宅に行き、役をもらえることになったものの、プロデューサーに迫られて逃げ出してきたという。

まもなくマドレーヌの恋人のタイヤメーカーの御曹司が訪れるが、彼はお金のために政略結婚に応じ、マドレーヌは愛人にするという。それを聞き絶望するマドレーヌ。

そんな中、2人の自宅を刑事が訪れる。映画プロデューサーが自宅で銃殺される事件が起きたのだ。それはマドレーヌが訪れていた、あのプロデューサーだった。

マドレーヌは容疑者として取り調べを受ける。最初は犯行を否認するがポーリーヌと作戦を立てる。それは、犯行を利用して成り上がる策だった。マドレーヌは一転して犯行を認め、裁判では「プロデューサーに襲われて自分の身を守るために撃った!」と供述する。そして、ポーリーヌの巧みな弁舌もあり無罪の評決を勝ち取る。

それを機にマドレーヌは悲劇のヒロインとしてスターの座を手に入れる。ポーリーヌも話題の人となり、弁護士の仕事が相次ぐようになる。

ここまでがドラマの前半。売れない女優とダメダメ弁護士が、有名映画プロデューサー殺人事件を利用して、売れっ子の座を勝ち取る。いわばピンチをチャンスに変えたわけである。

この映画は徹底して1930年代の雰囲気を追求している。セットやファッション、音楽、そして映画の作り自体も当時を意識している。劇中で登場する映画なども当時の作品だ。しかも、セリフ回しは当時のスクリューボールコメディーのよう。その会話の妙に、クスクス笑いながら引き込まれてしまった。

若手女優役のナディア・テレスキウィッツと駆け出し弁護士役のレベッカ・マルデールの演技も見事だ。いかにも当時の女優(ちょっとオマヌケ)の雰囲気をまとったテレスキウィッツ、隠れた悪賢さをちらつかせるマルデール。2人が判事などを相手に大仰にやり取りする様は、とにかく面白おかしい。特に裁判での応酬は見せ場たっぷりだ。

そして後半は、いよいよあの人が登場する。そう。大女優のイザベル・ユペールだ。彼女が扮するのは落ちぶれた無声映画のスター女優オデット。オデットはプロデューサー殺しの真犯人は自分だと告白する。そして、マドレーヌとポーリーヌがスターになったのは自分の犯行のせいなのだから、分け前をよこせと要求する。

これがまあ、さすがに絶妙の演技なのだ。周りをコケにしながらひたすら己の主張を通そうと突き進む。それでも嫌な女にならずチャーミングに見せる。遊び心あふれるその演技に感服。本当にこの人、シリアスからコメディーまで何をやらせてもうまいなぁ。マドレーヌもそうだけれど、女優が女優を演じる面白さもある。

終盤は、すったもんだの挙句、3人が立てた作戦が遂行される。そのターゲットはマドレーヌの恋人の父親。これまた、傑作な作戦で笑ってしまう。

ラストは、人気女優となったマドレーヌと、首尾よくカムバックを果たしたオデットが舞台で共演する。これがプロデューサー殺人事件を想起させる内容で、これもまた傑作な内容。最後まで笑いっぱなしだった。

さらに、エンドロール前に新聞の見出しで、主要登場人物のその後を知らせる気の利いた演出。ほとんどの人間が、ろくな人生を歩んでいないのを見て、ここでもまた笑ってしまったのだ。

と、笑ってばかりいたものの、実はこの映画には真摯なテーマ性もある。裁判でポーリーヌは当時の女性の置かれた酷い立場を切々と訴える。それに抗するには、まともな方法ではダメだから、彼女たちは手を組んで巧妙な作戦で男性社会と闘ったのだ。しかも、芸能界における性加害という現代にも通じる社会問題も扱っている。

そういうテーマ性をマジな映画の中で描くのではなく、古風なコメディー映画の中で描くおしゃれ心が素晴らしい。オゾン監督の本領発揮というところだろう。オゾン監督らしい同性愛的なさりげない描写もある。

社会問題を取り入れつつ、気楽に笑えるコメディー。まあ、イザベル・ユペールの怪演だけでも見て損はないです。

◆「私がやりました」(MON CRIME)
(2023年 フランス)(上映時間1時間43分)
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペールファブリス・ルキーニダニー・ブーンアンドレ・デュソリエエドゥアール・スルピス、レジス・ラスパレス、オリヴィエ・ブロシュ、フェリックス・ルフェーヴル、ミシェル・フォー、ダニエル・プレヴォ、エヴリーヌ・バイル、ミリアム・ボワイエ、フランク・ドゥ・ラペルソンヌ
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/my-crime/

 


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