映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「なまず」

なまず
2022年7月30日(土)新宿武蔵野館にて。午後12時50分より鑑賞(スクリーン1/A-10)

~奇想天外!予測不能!ポップでシュールな韓国の恋愛劇

製作から時間が経って公開される外国映画も多い。そのため、売れっ子俳優のブレイク前の姿を目撃することも珍しくない。

イ・ジュヨンといえばTVドラマ「梨泰院クラス」でブレイクし、映画「ベイビー・ブローカー」「野球少女」などでも活躍している。いまや押しも押されもしない人気俳優だ。

そのイ・ジュヨンがブレイクする前に主演を務めていたのが、「なまず」という映画だ。製作は2018年。そして、これがまあ何とも不思議な映画なのである。

ソウル郊外の病院で、1枚の恥ずかしいレントゲン写真が流出する。男女が抱き合っているところを盗撮した写真だ。看護師のユニョン(イ・ジュヨン)は、その写真が自分と同棲中の恋人ソンウォン(ク・ギョファン)を写したものだと誤解する。イ副院長(ムン・ソリ)は写真の主をユニョンと決めつけ、彼女に自宅待機を命じる。だが、ユニョンはそれに従わず翌朝いつも通りに出勤する。すると、病院にはイ副院長以外誰も来ていなかった。体調不良だという欠勤理由を疑ったイ副院長は、ユニョンとともにスタッフの家を訪ねる。

この映画、全編が人を食ったブラックな笑いに満ちあふれている。映像もケレンたっぷりだ。レントゲン室のあれこれを映し出したオープニングから、ポップでシュールなタッチが全開で実にノリがいい。おかげですっかり引き込まれてしまった。

その序盤では、病院のスタッフの欠勤をめぐって、イ副院長が「体調不良なんてウソ。後ろめたいことがあるからだ」と疑念を持つ。それに対してユニョンは「本当に体調不良なんじゃないの?」とスタッフの言い分を信じる。疑念と信用はこの映画の大きなテーマになる。

ドラマの主軸はユニョンとソンウォンの恋愛劇だ。そこにも疑念と信用が反映される。看護師のユニョンと働かないダメ男ソンウォン。ラブラブだった2人が、ふとしたことからお互いに疑念を持つようになり、疑念と信用の間で2人は揺れ動く。

とはいえ、事はそれで収まらない。若い2人の恋愛劇以外にも、様々な人々が登場して様々なドラマを繰り広げる。ときどきスクリーンに映し出されるキーワードに沿って謎が謎を呼び、ドラマは予測不能で奇想天外な方向に走り出す。

邦題の「なまず」とは何なのか。実はこの病院の水槽ではなまずが飼われており、そのなまずが人々のゴタゴタ劇を目撃している。なまずはそれを独白で語る。

しかも、そのなまずが水槽でジャンプしたことから、ある病室の患者たちは「地震が来る!」と感じて逃げ出す。だが、結局地震は来なかった。その代わりに、「シンクホール」なる穴が韓国各地に出現する怪現象が発生したのだった。

無職だったソンウォンはこれにより、シンクホールを埋め戻すという職を得る。仲間とともに作業に精を出すが、その中で大切な指輪を紛失してしまう。ソンウォンは同僚を疑い始める。一方、ユニョンはソンウォンが嘘をついているのではないかと考える。そんな中、ソンウォンの元カノが意外な事実を明かす。

中盤から後半にかけても、ポップでシュールなタッチは不変。本筋とは何の関係もないドラマもテンコ盛りだ。例えば、イ副院長はなぜか自ら脚本を手がけて、病院のCM製作に乗り出す。そこでは、かつてアフリカでゴリラを解放したエピソードが綴られる。ゴリラもドラマの重要なキーワードなのだ。

というわけで、「何じゃ、こりゃ」と思うような展開の連続なのだが、面白いのだからしょうがない。まあ、ソンウォンの指輪探しの件がやや間延びするなど、後半はやや失速気味なところもあるのだが。

ラストはまたしてもシンクホール!巨大穴を使い、ユニョンとソンウォンの未来について観客に結論を預けて、突き放したようにドラマが終わる。

イ・オクソプ監督は、韓国インディーズ映画界のニューウェーブとして注目を浴びているとのこと。長編監督作品はこれが初。今後どんな方向に進むのか興味津々だ。

そして主演のイ・ジュヨンだが、これがまた何とも魅力的。コメディエンヌとしての才能もなかなかで、存在感も抜群。この頃からキラリと光るものがあり、ブレイクするのも当然だと納得。

また、本作では脚本と製作も兼任するク・ギョファンは、いかにもダメ男っぷりがハマっていて、こちらも適役。

それ以外にも、ムン・ソリがふざけた役を大真面目に演じていたり、チョン・ウヒがなまずの声を担当したり、その他の脇役にも韓国映画でよく見る顔が登場するなど、何気に豪華キャストが顔をそろえている。

他にはあまりないポップでシュールな恋愛群像劇で奇抜な発想が際立つ作品だ。これまでも韓国のインディーズ映画には魅力的な作品が多かったが、本作でもまた韓国インディーズ映画の奥深さを感じさせられたのだった。

◆「なまず」(MAGGIE)
(2018年 韓国)(上映時間1時間29分)
監督:イ・オクソプ
出演:イ・ジュヨン、ク・ギョファン、ムン・ソリ、ミョン・ゲナム、キム・コッピ、チョン・ウヒ
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://namazu-movie.com/


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