映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」

素敵なダイナマイトスキャンダル
シネマ・ロサ池袋にて。2018年3月24日(土)午前11時45分より鑑賞(シネマ・ロサ2/自由席)。

末井昭という伝説的エロ雑誌編集長がいることは知っていた。残念ながら時代的にはややずれているので、当時のことはよく知らないのだが、後年にパチンコ雑誌の編集長になって自ら女装してCMに出演していた姿はよく覚えている。

その末井昭の自伝的エッセイを基にした青春ドラマが「素敵なダイナマイトスキャンダル」(2018年 日本)である。監督・脚本は、「パビリオン山椒魚」「乱暴と待機」「南瓜とマヨネーズ」などの冨永昌敬。一応、フィクションということになっているが、実在の人物も登場するなどかなり実際に近いと思われるドラマだ。

全体に笑いどころが満載の作品だ。まず冒頭は、主人公・末井昭柄本佑)が警察から注意を受けるシーン。松重豊演じる警察官が、エロ写真について具体的にどこがわいせつか指摘を行い、それに末井が低姿勢で対応する。そのやり取りが実にユーモラスだ。

ところが、その後は場面が一転する。末井の少年時代の出来事。彼の母・富子(尾野真千子)は結核を病み、家出した挙句、隣家の息子とダイナマイトで心中してしまったのだ。散らばった2人の肉体を人々がかき集める壮絶な場面が描かれる。冒頭の軽妙さとの激しい落差! この事件が、末井の人生に大きな影響を与えたことを冨永監督は示唆する。

事件を機に田舎にいづらくなった末井は、高校卒業後に工場に憧れて大阪で就職する。だが、そこの軍隊式管理に嫌気がさして退社する。その後は川崎の工場に勤めていた父を頼って上京し、工場勤務の傍らデザイン学校で学び看板会社へ就職する。

やがて末井はキャバレーの看板描きなどの仕事を経て、エロ雑誌のイラストを描くようになり、そこからエロ雑誌の世界に足を踏み入れる。表紙デザイン、レイアウト、取材、撮影、漫画と、あらゆる仕事をしながら、編集長としてエロ雑誌を創刊。雑誌は軌道に乗るが、その頃から警察とのバトルが始まる。

この映画で感心させられるのは時代のとらえ方だ。高度経済成長期、学生運動の時代、バブル時代など末井の活動の背景になった時代が、巧みに描き込まれている。特に、若き日の彼が影響を受けた反権力の時代やサブカル全盛期の描き方が印象的だ。当時の人気ラジオ番組をそのまま登場させるなど、若者たちの間に浸透していたカルチャーがあちこちに効果的に使われる。

末井はそうした世相に影響されて、前衛アートなどに入れ込み、ひたすらとんがって生きようとする。彼が全身に赤ペンキを浴びてストリーキングに及ぶシーンなど、まさに当時の時代性を象徴した行動だろう。末井が創刊したエロ雑誌では、単にエロだけでなく有名な物書きによる文章をはじめ、多様なネタを取り上げていた。これまたサブカル時代ならではの現象に違いない。

結局のところ、末井は時代に巧みに乗って成功したのではないか。のちに彼はエロ雑誌からパチンコ雑誌へと乗り換えて、そこでも雑誌を成功に導いているが、それもまた時代の変化を巧みに読み取ったがゆえのことだろう。そのあたりが自然に伝わってくるドラマになっている。

エロ雑誌編集部のディテールも面白い。テレホンセックスをでっち上げ、編集部にたくさんの女性を集めて読者の相手をさせるシーンは爆笑モノ。「絶対に脱がない」という女性を巧みに脱がせようとする丁々発止の攻防もユーモラスだ。ちなみに、そこで活躍するのがミュージシャン菊地成孔が扮した荒木さん。そう。写真家・荒木経惟である。

こうして成功を手にした末井の人生だが、そこにはやはり影の部分もある。妻の牧子(前田敦子)がいながら、家庭生活に充たされないものを感じ、あまりにもストレートな感情で別の女性に走る。おまけに、その女性はやがて精神を病んでしまう。

かなりの金を稼ぎながら、それを怪しい投資につぎ込んでしまうあたりの行動も、何やら危うい。それらは彼の貪欲さゆえの行動なのか、それとも幼少時のトラウマのなせる業なのか。

母のダイナマイト心中の話は、劇中でたびたび登場する。末井自身がそれを売り物にしているようなところもある。だが、終盤になって、その事件がやはり彼の人生に大きな影響をもたらしたことが、改めて強く打ち出される。そして同時に、様々な葛藤の果てに彼なりの一つの納得に至ったことも示される。やはり冨永監督は、良くも悪くも、あの事件こそが彼の人生の原点であると考えているのだろう。

とはいえ、あまりにも破天荒でぶっ飛んだ人生なので、そちらの面白さに気をとられてしまうのも事実。末井の心の内面に深く迫るところまでは行っていない気もする。そこがやや物足りないところだろうか。

まあ、難しいことは抜きにして、あまりにも破天荒すぎる男の人生を、その時代背景とともに楽しむほうがよいだろう。末井役の柄本佑のなりきりぶり、牧子役の前田敦子の独特の魅力も見ものである。

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◆「素敵なダイナマイトスキャンダル
(2018年 日本)(上映時間2時間18分)
監督・脚本:冨永昌敬
出演:柄本佑前田敦子三浦透子峯田和伸松重豊村上淳尾野真千子、中島歩、落合モトキ、木嶋のりこ、瑞乃サリー、政岡泰志、菊地成孔島本慶若葉竜也嶋田久作宇野祥平
テアトル新宿ほかにて全国公開中
ホームページ http://dynamitemovie.jp/