映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「水は海に向かって流れる」

「水は海に向かって流れる」
2023年6月11日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時20分より鑑賞(スクリーン2/F-9)

~やや不完全燃焼の感はあるものの影のある広瀬すずが魅力的

ハリー・ポッターの館(正式名称は「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京」というらしい)がオープン間近のとしまえん跡地。そこからほど近いユナイテッド・シネマとしまえんも、それを記念してハリポタの特集上映をやるらしい。

そんなことには関係なく、この日、そのユナイテッド・シネマとしまえんで観たのは田島列島のマンガの実写映画化「水は海に向かって流れる」。監督は、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」「そして、バトンは渡された」「老後の資金がありません!」「ロストケア」などの前田哲。

高校に通うのに便利だからと、親元を離れ叔父の家に居候することになった直達(大西利空)。ところが、駅に迎えにきたのは見知らぬ女性、榊さん(広瀬すず)だった。会社員で1人暮らしのはずだった叔父(高良健吾)は、いつの間にか漫画家になり、シェアハウスで暮らしていたのだった。

シェアハウスには叔父と榊さんに加え、女装の占い師、海外を放浪する大学教授といった個性的な男女4人が暮らしていた。彼らと共同生活を送ることになった直達は、いつも不機嫌で、恋愛はしないと宣言する榊さんに淡い恋心を抱くようになる。だが、彼と榊さんの間には思わぬ過去の因縁があった……。

というわけで、いつも不機嫌でめったに笑わず、「私、恋愛しないんで」と宣言する榊さんの謎の過去を探るドラマかと思いきや、その真実は早いうちに明かされてしまうのだった。

何があったかというと、うーん、これネタバレになるのか? まあいいや、知りたくない人は下記の2行は飛ばしてください。

要するに、直達の父親と榊さんの母親が10年前にW不倫していたというのだ。で、その後、直達の父親は家に戻ったものの、榊さんの母親は帰ってこなかったのである。

この過去が当時高校生だった榊さんのトラウマになり、今も彼女の心を支配しているのだ。彼女が恋愛しないというのには、そういう事情があったわけだ。

そうとなれば、彼女の心が癒されて再生される姿を描くのがドラマの常道。確かに、そういう側面も描かれる。ユニークなシェアハウスの住人たちと触れ合ううちに、榊さんの心は多少なりともほぐれてくる。

その一方で、直達と榊さんのラブロマンスの側面もある。榊さんのトラウマに責任を感じて、その半分でも自分が背負いたいという直達。彼女の過去に深入りすればするほど、彼女の魅力にはまっていく。年上の女性に淡い恋心を抱くというのは、よくある話だしね。

その他にも、シェアハウスの住人たちが交流する群像劇、彼らと触れ合ううちに直達自身が成長していくドラマ、直達と両親、榊さんと母親の葛藤のドラマ、ついでに直達に恋心を寄せる同級生(當真あみ)のドラマなどなど、色々なドラマがぎっしり詰め込まれている。

そのため全体のテンポが悪く、それぞれのドラマの描き方が中途半端な感じがしてしまう。特に後半は冗長な感じが否めなかった。

とはいえ、逆に言えば、そういう色々な要素を楽しめるドラマともいえる。基本は原作に忠実なようだから、特に原作のファンは楽しめるのではないか。過去のフィルモグラフィーを見てもわかるように、前田監督は多彩な作品を撮っている。まさに職人芸。それがいかんなく発揮されている映画といえるだろう。

ユーモアが全体を彩り、随所に笑える場面があるのもこの映画の魅力。また、飯テロ映画の側面もあり、食事が重要な要素になっている。榊さんの作る牛丼やポテサラ、カレーが実に美味しそうだ。私があまり好きでないゆで卵さえ、美味しそうに見えてしまうのだった。しかし、あんなに食ったらどうにかなっちまうぜ(笑)。

そして、何よりもこの映画で秀逸なのは、登場人物の心理をわかりやすく描くのではなく、ありのままに描こうとしているところだ。榊さんの心理はもちろん、直達の父や母、榊さんの母の心情も複雑で、単純には割り切れない。それをそのまま描き出す。

特に終盤、榊さんは居場所のわかった母に会いに行く(ラブロマンスもあるから直達もついていく)。そこでの両者の心理描写は圧巻。行きつ戻りつする2人の心が、手に取るように伝わってくる。ここは、この映画で最大の見せ場だろう。

その後のエンディング。最後の榊さんの表情を曖昧にして、観客に判断を委ねる心憎い演出が用意されている。どうやらこのエンディングは原作とは違うらしい。マンガ的にはともかく、映画的には実に好感の持てる改変だった。

キャスティングが素晴らしいのもこの映画の魅力。影のある役を演じた広瀬すずは文句なしの好演。ついこの間まで高校生役が似合っていたのに、すっかり大人の女性役が板についてきた。

その他にも、直達役の大西利空(初々しすぎる!)に加え、高良健吾(気づかなかった!)、勝村政信北村有起哉、坂井真紀ら実力者が脇を固めている。

◆「水は海に向かって流れる」
(2022年 日本)(上映時間2時間3分)
監督:前田哲
出演:広瀬すず、大西利空、高良健吾、戸塚純貴、當真あみ、勝村政信北村有起哉、坂井真紀、生瀬勝久
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://happinet-phantom.com/mizuumi-movie/

 


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