「胸騒ぎ」
2024年5月15日(水)池袋HUMAXシネマズにて。午後4時より鑑賞(シネマ3/D-10)
~あんまりよく知らない人の家に泊まるのはやめましょう。北欧発の衝撃のホラー
子供の頃は怖がりで、お化け屋敷から10秒で飛び出したほどの私だが、なぜかホラー映画はそんなに怖いと思ったことがない。面白いホラー映画は、怖いというより、脚本や演出が巧みだなぁ~、と感心してしまうのだろう。
「胸騒ぎ」もそんな映画だ。「ミッドサマー」(2019年)、「LAMB/ラム」(21年)などに続く北欧発のホラーである。
デンマーク人夫婦ビャアン(モルテン・ブリアン)とルイーセ(スィセル・シーム・コク)が娘のアウネスと一緒にイタリア旅行に出かけるところからドラマが始まる。旅先で彼らはオランダ人夫婦パトリック(フェジャ・ファン・フェット)とカリン(カリーナ・スムルダース)と意気投合する。旅から帰ってしばらくして、ビャアン夫妻はパトリック夫妻から彼らの自宅に招待する手紙を受け取る。そこでビャアン夫妻は人里離れた彼らの家を訪問するのだが……。
この映画、ホラー映画ではあるが、いきなりデンマーク人夫妻がとんでもない事態に巻き込まれたりはしない。途中までは心理スリラー的な展開で進んでいく。
パトリックとカリンのオランダ人夫婦は、どことなく怪しい。息子は言語障害で言葉がうまくしゃべれないという。招待を受けたビャアン夫妻はどうするか迷ったが、パトリックは医師だというし、夫妻とも良い人そうだったことから招待に応じる。
両方の夫婦は再会を喜ぶが、まもなくビャアン夫妻にとって不安なことが起きる。まず、夫妻はベジタリアン(といっても魚は食べる)なのに、オランダ人夫婦はいきなりイノシシ肉の料理を出して、それをルイーセに食べるように勧める。
また、ビャアン夫妻の宿泊場所こそ、まともなベッドがある部屋だったが、夫妻の娘のアウネスは床に寝るように指示される。
ビャアン夫妻は、こうしたおもてなしに対して違和感や嫌悪感を感じる。だが、これもそれぞれの家庭の習慣やお国柄の違いによると思えないこともない。だから、ビャアン夫妻は我慢する。
ところが、その後も夫妻を不快にさせる出来事が起きる。レストランに行く際に、アウネスも連れて行こうとした夫妻に対して、パトリックとカリンは胡散臭いベビーシッターを雇って、子供は置いて行けという。
さらに、レストランに行ってみたら、そこは居酒屋のような店でビャアン夫妻の前で、パトリックとカレンはベタベタとくっつき、勘定をビャアンに押し付ける。
あの時は良い人だと思ったのになんで? 何だかとんでもない夫婦かも……とビャアン夫妻は「胸騒ぎ」を覚えるものの、これもコミュニケーションの行き違いかな、と考え直して我慢する。
だが、そうしたことが積み重なった後に、ビャアン夫妻を激怒させる出来事が起きて、一度彼らは黙ってこの家を脱出する。ところが、やんごとない事情が発生して家に戻ったところを彼らに見つかってしまう。彼らは「そんなつもりはなかった。これからちゃんとおもてなしする」と反省を示す。
だが、その後もどんどんビャアン夫妻を不快にさせる出来事が起きる。これはもはや習慣やお国柄の違い、コミュニケーションの誤解どころの騒ぎではないことがわかる。しかし、それに気づいた時には、ビャアン夫妻はもう後戻りできないところにきてしまったのだ。
というわけで、途中からはビャアン夫妻に感情移入して、その恐怖をリアルに体感してしまった。そのものズバリの怖さではない分、余計に怖い。
そして、その先にはさらに恐ろしい出来事が待っている。恐怖感がずんずん募り、身動きできないほどだった。
ラストはあまりにもおぞましすぎる結末。こりゃ~、悪夢ですな。宗教的な要素が込められた音楽や映像で彩られているものの、気の弱い人は正視できないだろう。
かくして悪魔のようなオランダ人夫婦による完全犯罪が成立。次の犠牲者は誰だ?
いきなりホラー的な世界に突入せず、心理スリラーでじらして怖さを増幅させる仕掛けが絶品。絶えず不穏な音楽が流れて怪しさを漂わせ、こちらも不穏極まりないカメラワークでドラマを構築した手腕もなかなかのもの。監督・脚本は俳優でもあるクリスチャン・タフドルップ。
しかし、まあ、終盤がヘヴィーすぎて、どっしりと疲れたのだ。良くも悪くも衝撃的なホラー映画である。
善良なデンマーク人夫婦を演じたモルテン・ブリアン、スィセル・シーム・コクもいいけれど、悪魔のオランダ人夫婦を演じたフェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダースの怪演が見事だった。
◆「胸騒ぎ」(SPEAK NO EVIL)
(2022年 デンマーク・オランダ)(上映時間1時間37分)
監督・脚本:クリスチャン・タフドルップ
出演:モルテン・ブリアン、スィセル・シーム・コク、フェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダース、リーヴァ・フォルスベウ、マリウス・ダムスレフ、イシェーム・ヤクビ
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://sundae-films.com/muna-sawagi/
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