映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「すれ違いのダイアリーズ」

「すれ違いのダイアリーズ」
@シネスイッチ銀座にて。5月14日(土)午後1時40分より鑑賞。

もう何十年も外国に行ったことがない。当然パスポートも失効している。たまに知人から「ねぇ~、××へ行こうよ~」と誘われるが(色っぽいお姉ちゃんではなくオッサンやオバハンからです)、冗談ではない。先立つものはどーすんだ???

そうすると先方は必ず言う。「国内旅行と変わんないよ」。ばっかぁもーん! こちとら、その国内旅行すらもう何年も行ってねぇんだ。てやんでぇ。

そんなオレだが、実は大昔にはけっこう外国に行っていたことがある。あれはたしかバブル景気の頃だった。当時はオレもバブルの恩恵で大金を手にしていた……というようなことはまったくないのだが、若気の至りというか、周囲にそそのかされたというか、今よりはほんの少しだけ余裕があったこともあって、ヨーロッパ周遊だの、香港三泊四日だのに出かけていたのだ。

なかでも特に気に入ったのが香港だ。ただし、今となってはなぜ気に入ったのかはよくわからない。確かに夜景はとびっきり美しかったし、食べ物も美味しかったのだが、それが理由だったのかどうかも不明である。まあ、「何となく」というのが正直なところかもしれない。

そして、当時オレが香港を気に入っていたように、タイを気に入っている知人がいる。「タイはいいぞぉ~」とよく言うのだが、「それじゃ、どこがいいのさ?」と聞いても具体的なことは何も返ってこない。きっと、そいつも「何となく」気に入っているのだろう。それでオレを籠絡しようと思っても、そうはいかんぜよ。

だが、タイの映画には完全に籠絡されてしまった。その映画のタイトルは『すれ違いのダイアリーズ』。前から「脚本がいい!」という噂を聞いていたので、脚本家(ただし最下層)のオレとしてもぜひとも観たかったのだが、観たら完全にKOされてしまったのだ。

主人公は元レスリング選手で、仕事もないソーンという青年。ようやく山奥の水上学校の教師の職を得たものの失敗ばかり。そんな中、ソーンは前任の女性教師エーンの日記を発見。そこにはソーンと同じような悩みが綴られている……。

というわけで、日記を媒介にして、新任教師ソーンの現在進行形のドラマと、前任のエーンの過去のドラマが並行して描かれる構成。しかし、それが明確に分かれているのではなく、混在している不思議な世界。例えば、校舎の1階で過去のエーンが生徒を相手にしていると、その2階では現在のソーンが生徒を相手にしていたりする。そうやってエーンの過去とソーンの現在が混在し、時空を超えて共鳴していく展開が素晴らしくて、まったく目が離せなくなってしまった。

展開するドラマは、2人の教師としての成長物語と恋愛問題。それをバランスよく配して、ユーモアをたくさん盛り込んで、瑞々しく見せていく。子供たちのとびっきりのかわいらしさも魅力だ。

そして後半は、それまでと逆に復帰したエーンがソーンの日記を読むという構成。2人はそれぞれお互いに関心を持つものの、邦題通りに「すれ違い」が続く。その「すれ違わせ」方が抜群にうまい! 星形のタトゥーや柱のキズといった、細かなアイテムも絶妙な形で使われている。

おまけに、結末がまたまた心憎いのだ。そこまでの様々な要素を見事な形で決着させるラスト。そこはかとない余韻を残しつつ、誰の心も温かくしそうな終わり方。いやぁ~、噂以上に巧みな脚本だし、演出もいいよなぁ~。ノスタルジックで、キラキラしていて、そして心が温まる。何なんですか? この映画。

観終わって、またすぐにもう一度観たくなってしまった。アカデミー賞のタイ代表になって、本国で大ヒットしたというのも納得です。おそらく、今年観た映画の中でも上位にランクされそうだ。日本では珍しいタイ映画ということで、興味を持てずにいるそこのアナタ。だまされたと思って、いっぺん観に行ってみなさい。責任は取りませんけど。

今日の教訓。主演の男女も素晴らしく良い。完全に惚れたぜ! あ、いや女性のほうにね。

●今日の映画代1,500円(有楽町・交通会館にて前売り券を直前に購入)