映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「芳華-Youth-」

「芳華-Youth-」
YEBISU GARDEN CINEMAにて。2019年4月13日(土)午後1時35分より鑑賞(スクリーン1/G-7)。

~切なさとノスタルジーをかき立てる1970年代の中国の若者たちの青春群像

性格がひねくれているもので、「本国で大ヒット!」的なPRコピーの映画に対しては、「本当にそんなに面白いのかぁ~~???」と、つい斜に構えてしまうオレなのだった。

「4,000万人が涙した――。」と、チラシに大きく書かれた中国映画「芳華-Youth-」(芳華 YOUTH)(2017年 中国)も、疑い深い態度丸出しで鑑賞したのだが、いやぁ~、これは確かにヒットするわ。観客の感情を揺さぶる要素が満載だもの。

原作は「シュウシュウの季節」「妻への家路」などで知られるゲリン・ヤンの同名小説。それを「女帝 [エンペラー]」「唐山大地震」「戦場のレクイエム」などのベテラン監督フォン・シャオガンが映画化した。

1970年代の激動の中国を舞台に、軍の「文芸工作団(文工団)」に所属する若者たちを描いた青春群像劇だ。文工団とは、歌や踊りで兵士たちを慰労したり鼓舞する歌劇団のこと。団員は歌や踊り、演奏などの訓練を日々行っている。

1976年、その文工団に17歳のシャオピン(ミャオ・ミャオ)がダンスの才能を認められて入団する。だが、農村出身で家庭にも恵まれない彼女は、ある出来事がきっかけでいじめられるようになる。周囲となじめず孤独な彼女にとって唯一の支えは、模範兵のリウ・フォン(ホアン・シュエン)だった……。

とくれば、これはもうシャオピンの初恋物語に突入するわけだ。とはいえ、それが素直にかなうことはない。リウ・フォンには別に好きな団員がいて、彼女に告白をする。だが、そのことがもとでリウ・フォンは文工団を追われて、軍の前線へと送られる。さらに、シャオピンも文工団に絶望し、そこを去ることになる。

そんな2人に加え、様々な団員たちの青春模様が描かれる。それはまばゆいばかりのキラキラ輝く青春だ。もちろんそこには悩みや苦しみもある。恋愛、友情、対立、挫折、失意……。青春の光と影がビビッドにスクリーンに刻み付けられているのである。

見せる工夫もたくさんある。冒頭では、文工団の団員たちが踊る中国風でありながらバレエ的な要素も持つダンスをじっくりと描く。鮮やかな色調やケレン味たっぷりの映像も全編に散りばめられている。テレサ・テンの楽曲を効果的に使うなど音楽も巧みに配されている。それらがドラマをより魅力的に際立たせる。

実のところこの映画には、唐突な展開や省略もたくさんある。何しろドラマの起点は1976年だが、そこから何十年にも渡る出来事が描かれる。大河ドラマといってもいいほどの時間尺のドラマなのだ。それを2時間強の映画に詰め込むわけだから、仕方ないところだろう。だが、それでも巧みな演出によって、観ているうちに次第に心が動かされてくるのである。

ドラマの背景として中国の激動の時代も織り込まれている。文化大革命毛沢東の死去、毛沢東の妻・江青ら四人組の失脚、そして中越戦争。登場人物たちは、それらの荒波に翻弄されていく。そのことが切なさとノスタルジーを余計にかき立てていく。

途中からドラマの舞台は文工団から中越戦争の最中へと移る。そのパートは戦争映画そのものだ。ハリウッドの戦争映画も顔負けのリアルで恐ろしい戦場や野戦病院でのシーンが続く。

そして、そこでの出来事も若者たちを翻弄する。なかでも最も運命を狂わされたのがシャオピンとリウ・フォンだ。畳みかけるように描かれる2人の運命は、韓国ドラマも真っ青の波乱万丈さで、感情を揺さぶられる観客も多そうだ。特に文工団の終わりの日に、病身のシャオピンが踊るダンスが涙を誘う。

終盤は、若者たちのその後を描く。彼らも年をとり、もはやあの若き日の輝きは二度と戻らない。それでも、そこには変わらないものが確実にある。そして……。

この後日談の件もよく考えられている。基本的にはありがちな構図なのだが、その見せ方が巧みだ。そこにリウ・フォンは登場するものの、シャオピンはなかなか出てこない。いったい彼女はどうなったのか。悲惨な運命のまま消えてしまうのか。それではいくら何でもむごすぎるではないか。

そう思っていたところで、最後の最後についに彼女が登場する。そしてその秘めた思いがリウ・フォンの人生と交錯して、温かで穏やかな余韻を残すのだ。格別の味わいを持つ終幕である。

若者たちを演じた役者たちの演技も素晴らしい。特にシャオピンを演じたミャオ・ミャオの演技は特筆に値する。プロフィールを見ると、実年齢はけっこう上のようだが、17歳の役がまったく違和感なし。初々しさと健気さにあふれている。そんな彼女が思いを寄せるリウ・フォンを演じたホアン・シュエンの、これ以上ないほどの「良い人キャラ」も印象的な演技だった。

キラキラした青春の輝きと挫折、歳月の重さが、観客の切なさとノスタルジーをかき立ててくれる映画だ。これぞまさに青春映画! わかっていても、グッときてしまったオレなのであった。

 

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◆「芳華-Youth-」(芳華 YOUTH)
(2017年 中国)(上映時間2時間15分)
監督:フォン・シャオガン
出演:ホアン・シュエン、ミャオ・ミャオ、チョン・チューシー、ヤン・ツァイユー、リー・シャオファン、ワン・ティエンチェン、ヤン・スー、チャオ・リーシン
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中。順次全国公開予定。
ホームページ http://houka-youth.com/