映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「バービー」

「バービー」
2023年8月21日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時45分より鑑賞(スクリーン1/C-7)

~グレタ・ガーウィッグ監督がヒネッた笑いで男性優位社会を痛烈に批判

いやぁ~、暑い。お盆過ぎてこの暑さは何だ? 土曜は横浜の伊藤蘭コンサートに行ったのだが、日曜は午前中に両親のお墓参りをしたら、その後何もやる気がしなくなって映画館に行きそびれてしまった。

とはいえ、今日は観に行くぞ! 話題の「バービー」を。

グレタ・ガーウィグという俳優の存在は、彼女の主演作であり、ノア・バームバックが監督した「フランシス・ハ」(2012年)で初めて知った。素晴らしい青春コメディだった。ちなみに、ノアはグレタのパートナーらしい。

その後、グレタは映画監督も務めるようになり、「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」などの作品を送り出したことは、皆さんご存じだろう。

そのグレタ・ガーウィグが、あの世界的ファッションドール「バービー」をモチーフに描いた映画が「バービー」だ。脚本はグレタとノア・バームバック。ノアは製作総指揮も務めている。

冒頭では、バービー人形の出現がいかに画期的だったかが語られる。そこで登場するのが、なんと「2001年宇宙の旅」のパロディ。「ツァラトゥストラはかく語りき」の流れる中、あの場面が再現されるのだ。もうここから私は爆笑でしたヨ。

こんなふうに全編で皮肉の利いた笑いが炸裂するこのドラマ(映画ネタも会話の中にたびたび登場)。前半の舞台はピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」だ。そこは、何もかもが完璧な世界。女性の大統領や判事、ノーベル物理学賞受賞者など女性が大活躍する社会だった。そんな中、バービー(マーゴット・ロビー)はボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)とともにハッピーな毎日を送っていた。

だが、ある日突然、ヒールを脱いでも爪先立ちをキープしているはずのカカトが、ペタンと床についてしまう。さらに死を考えるなど、おかしな兆候が現れる。バービーは人間の世界に飛び込み、なぜか一緒についてきたケンとともに、真相を探るのだが……。

というわけで、前半はバービーランドの世界を現出させる。ピンクで埋め尽くされたセットやコスチューム。主人公をはじめ様々なバリエーションのバービーやケンたち。ケンの親友のアランや廃盤になった人形まで見事に再現している。

そこで完璧で楽しい日々を送っていたバービーが、自身の異変の原因を探るべく人間の現実社会に入り込むのが中盤の展開。だが、そこはバービーランドとは全く違う世界。ド派手な衣装のバービーとケンは人々から好奇の目を向けられ、思わぬトラブルに見舞われる。

バービーは自分の持ち主と思しき少女に出会い、「自分は理想の女性」と胸を張る。ところが彼女からは「ファシスト!」と手ひどい反撃を返されてしまう。大ショックで自信喪失するバービー。

そして、何よりも人間社会はバービーランドとは真逆の男性優位社会だったのだ。バービーはその洗礼にさらされる。バービー人形の製造元であるマテル社まで、口では男女平等を唱えながら、CEO以下お歴々はみんな男性なのだ。

その一方で、ケンは男性優位社会の快適さを堪能。これこそ理想の社会と上機嫌になる。

面白いのはこの後の展開だ。バービーが人間社会で右往左往しつつ、自分を見つけて行く展開を予想したのだが、そうではなかった。

バービーは彼女の持ち主のグロリア(アメリカ・フェレーラ)と彼女の娘とともに、バービーランドに戻るのだ。だが、そこはかつてのバービーランドとは大違い。すっかり男性優位社会に染まったケンが、他のバービーたちを洗脳して男にかしずかせ、男性中心の「ケンダム」を築いていた。

バービーはグロリアの助けを借りて、女性の主権を取り戻すための戦いに乗り出す。

映画のタッチは変幻自在。カーアクションはあるわ、ミュージカル調はあるわ、何でもありでエンタメ性抜群。ケラケラ笑いながら、お楽しみの数々に酔いしれることができる。

だが、それだけではない。本作は男性優位社会を痛烈に批判するなどメッセージ性も強烈だ。フェミニズムジェンダールッキズムなど今の現実の問題を、笑いの波状攻撃を通して浮き彫りにしている。

思えば、グレタ・ガーウィグはこれまでも作品中にこうした問題をさりげなく織り込んできた。今回はそれを隠すことなく前面に押し出している。しかも、エンタメの枠の中で、押しつけがましくなく見せている。

終盤で、グロリアが自身が経験した理不尽な現実を訴える場面がある。その強烈なセリフは、グレタ監督自身の体験を代弁したものかもしれない。

最後にバービーは単に女性の復権を果たすだけでなく、自身の自立も迫られる。ケンもまた同様である。彼女がどんな選択をしたのか。驚きのラストが待ち受けている。

そのラストにバービー人形の生みの親のルース・ハンドラーを絡ませ、彼女のスキャンダルをネタにするあたり、最後の最後まで観客を楽しませる工夫は怠りない。バービー人形について私の知らないネタなども色々ありそうで、そのあたりを知るとさらに楽しいかもしれない。

マーゴット・ロビーライアン・ゴズリングはさすがの演技。前半の人形そのもののような演技から、徐々に人間らしさを漂わせた演技へと変化していくところが見もの。

ひたすら笑えるエンタメ映画ではあるものの、今の社会を批判する強烈なメッセージを込めた映画。グレタ・ガーウィッグの思いがこもった一作だ。

◆「バービー」(BARBIE)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間54分)
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビーライアン・ゴズリングアメリカ・フェレーラ、ケイト・マッキノンマイケル・セラ、アリアナ・グリーンブラット、イッサ・レイ、リー・パールマンウィル・フェレル、アナ・クルーズ・ケイン、エマ・マッキー、ハリ・ネフ、アレクサンドラ・シップ、キングズリー・ベン=アディル、シム・リウ、ンクーティ・ガトワ、スコット・エバンス、ジェイミー・デメトリウ、コナー・スウィンデルズ、シャロンルーニー、ニコラ・コーグラン、リトゥ・アリヤ、デュア・リパ、ヘレン・ミレンジョン・シナ、エメラルド・フェネル
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

 


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