映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「高野豆腐店の春」

「高野豆腐店の春」
2023年8月22日(火)シネ・リーブル池袋にて。午後3時5分より鑑賞(シアター2/F-5)

藤竜也麻生久美子、中村久美。キャストで魅せる人情喜劇にホッコリ

取材が延期になってしまった。しょうがないので、空いた時間に池袋のユニクロに行ってジーンズを購入。裾上げができるまで約1時間ある。さて何するか?

というわけで、時間がちょうどよかったので「高野豆腐店の春」を観に行ったのである。

広島県尾道を舞台にした人情喜劇だ。尾道に店を構える高野豆腐店(こうやどうふてん、ではない)では、父の高野辰雄(藤竜也)と娘の春(麻生久美子)が、毎朝二人三脚で豆腐作りに励んでいた。そんなある日、もともと患っている心臓の具合が良くないことを医師に告げられた辰雄は、仲間たちに協力してもらい春の見合い相手を探すのだが……。

冒頭は父と娘が早朝に豆腐作りに励むシーン。こだわりの大豆を使い、ていねいに手をかけて豆腐を作る。父の辰雄は職人気質。愚直に豆腐に向き合い手を抜かない。一方の春は明るい性格だが、こちらも頑固。何とかして自店の豆腐の販路を拡大しようともくろむ。

とまあ、こうしたキャラ設定からしてどこかで聞いたような話だが、とりたてて驚くようなところは何もないドラマだ。予想通りの予定調和が続く。

それでもけっこう笑える。特に、辰雄と周囲の人々とのやりとりが面白い。辰雄が自身の心臓に不安を抱え、それをきっかけにバツイチの娘の見合い相手を探す件は爆笑もの。辰雄は娘の見合いなのに、まずは自らが面接をしようとする。しかも、相手にちょっとでも気に入らないことがあると、強烈なダメ出しが待っているのだ。

その中の1人、イタリアンのシェフが気に入り、すでに春とも面識があるというので、辰雄は珍しく乗り気になる。しばらくして、どうやら2人の仲は進展している模様(実は辰雄がそう思っているだけなのだが)。そのうちに「お父さん、話がある」と言われて、すっかりその男との結婚の話かと思ったら、あらあらあら、事態は予想外の方向へ。

というように、笑いのネタには事欠かない。辰雄と春、愉快な近隣の人々が次々に笑いのネタを振りまいていく。けっして皮肉がきいていたり、とんがったりする笑いではない。オーソドックスで誰でも笑えるネタなのだ。

辰雄が春と見合い相手を引き合わせるために、一芝居打とうと計画し、高校の演劇部の生徒に特訓してもらうシーンなど、わかっていても笑ってしまう。

しかし、ただ楽しいばかりではない。辰雄が病院で知り合った患者仲間のふみえ(中村久美)と心を通わせていくシーンは、心をポカポカと温めてくれるが、終盤で彼女が手術に臨むあたりでは死の影もほんの少しちらつく。

ふみえは、どうやらずっと独身で家族もいないらしい。このあたりに現代社会の世相も見て取れる。

彼女と辰雄が原爆の話をするシーンもある。辰雄の親はそれが原因で早逝したことが、さりげなく語られる。ふみえも、確実に原爆の影響を受けている。

さらに、終盤には辰雄が、春の出生の秘密をふみえに明かす。

つまり、この映画には主要な人物たちの光だけではなく、影の部分もさりげなく織り込まれているのだ。そのバランスがとてもいい。

終盤、辰雄と春は対立し、春は家を飛び出してしまう。はたして、高野豆腐店はどうなるのか。

ラストは父と娘の感動の場面で締めくくる。その前には、ふみえの手術にあたって父の背中を娘が押すシーンもある。

まあ、これらもすべて予想がつく予定調和の展開なんですけどね。いまどきこれほどストレートな話も珍しいぐらい。

だけど、それを藤竜也麻生久美子が演じると、とびっきり魅力的なドラマに仕上がるのだ。何しろ今年82歳の藤。数々の日本映画を彩ってきた彼が、いまだに主役を務めているのが素晴らしい。まさに貫禄の演技だ。

対する麻生久美子も、若い頃から様々な役をこなしてきた。他にはない資質を備えた俳優で、多くの映画に出演してきた。こちらも一歩も引けを取らない演技だ。ちなみに藤とは実に26年ぶりの共演とのこと。

そして、見逃せないのが中村久美。若い頃から見ているが、年をとってもその美しさは変わらない。明るさの中に、わずかな寂しさや苦悩をにじませる演技が、この映画をさらに魅力的なものにしている。

というわけで、個人的にこの3人の俳優をずっと見てきたので、そういう思い入れも含めて感慨深い映画だった。安心して楽しく笑って感動できるドラマ。おかげで裾上げを待つ時間に心がホッコリと温かくなった。こういう映画もたまにはいいものだ。

今回の舞台となった尾道は、これまでにも数々の映画の舞台となってきた。その町の風景もこの映画の大きな魅力である。観ていて移住したくなったぐらいだ。

◆「高野豆腐店の春」
(2023年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:三原光尋
出演:藤竜也麻生久美子、中村久美、徳井優山田雅人、日向丈、竹内都子、菅原大吉、桂やまと、黒河内りく、小林且弥赤間麻里子、宮坂ひろし
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://takanotofuten-movie.jp/

 


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