映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」

「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年11月17日(土)午後2時20分より鑑賞(スクリーン9/E-11)。

~破格のスリルとリアルさの中、アクの強すぎる2人の役者が躍動する

ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンとくれば、どちらもコワもてのアクの強い俳優(知らん人は、ぜひ検索して2人の写真を見てくださいませ)。その2人が揃えば、桁外れにアクの強い作品になるのは請け合いだ。それが2015年の「ボーダーライン」である。アメリカとメキシコの国境をはさんで繰り広げられる壮絶な麻薬戦争の実態を描き、アカデミー賞で3部門にノミネートされた。

ただし、その時の主人公はエミリー・ブラント演じるFBI女性捜査官ケイト・メイサー。メキシコの麻薬組織壊滅を目的とする特殊チームにスカウトされた彼女が、正義のために行動するものの、善悪の狭間で葛藤するという物語だった。ジョシュ・ブローリン演じるCIA特別捜査官マット・グレイヴァーと、ベニチオ・デル・トロ演じるコンサルタント(要するに暗殺者)の謎のコロンビア人、アレハンドロは、彼女と行動をともにして違法捜査を繰り広げる役どころだった。

その「ボーダーライン」に続編が登場した。「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」(SICARIO: DAY OF THE SOLDADO)(2018年 アメリカ)である。今回はケイト・メイサーは登場しない。主人公は、CIA特別捜査官マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)と、暗殺者のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)だ。こりゃあ、どう考えても前作以上にアクの強い映画になるわけですよ。

ドラマの発端はアメリカ国内で発生した自爆テロ。その犯人の不法入国にメキシコの麻薬カルテルが関わっている疑いが浮上する。なぜそれがわかったかというと、ソマリアで捕まえた海賊の男の証言からだ。その証言を拷問まがいの手法で引き出したのが、誰あろうマット・グレイヴァーである。ここでのジョシュ・ブローリンの恐さときたら背筋ゾクゾクもの。あんなのに見つめられたら、やってないことまで白状しそう。

というわけで、アメリカ政府はマットに麻薬カルテル壊滅の極秘ミッションを命じる。マットは旧知の暗殺者アレハンドロに協力を依頼する。2人は麻薬カルテル同士の抗争を誘発するために、敵対するカルテルの仕業と見せかけて麻薬王カルロスの娘イサベル(イザベラ・モナー)を誘拐する。

いわば毒を以て毒を制す。いや、そんな生易しいものではない。敵をぶちのめすためなら、違法な事でも何でもやる。それがマットとアレハンドロだ。前作では、それを目の当たりにした女性捜査官ケイトが苦悩し葛藤したわけだ。マットとアレハンドロがやっていることは完全な犯罪だが、そこにはピカレスク的な魅力がある。

とはいえ、彼らの目的は抗争の誘発であり娘の誘拐は手段でしかない。首尾よく誘拐に成功した暁には、今度はアレハンドロは麻薬取締局の一員となって、誘拐犯のアジトを急襲してイサベルを救い出す。て、誘拐したのはお前らだろうが~~!! この自作自演の狸芝居ぶりも、堂に入っていて恐れ入る。

それにしても、相変わらず前作同様にヒリヒリするような緊張感とリアルさに包まれた映画である。まるで自分が現場に放り込まれたかのようだ。監督は前作のドゥニ・ヴィルヌーヴからイタリア人のステファノ・ソッリマに変わったが、そうした特色はまったく変わっていない。おそらくこれは、脚本のテイラー・シェリダンの力によるものだろう。彼が監督・脚本を担当した「ウインド・リバー」も、同様に破格のリアルさスリリングさを持つ作品だった。

前作同様に不気味な音楽もそれを煽り立てる。ちなみに、前作で音楽を担当したヨハン・ヨハンソンは2月に他界したため、弟子のアイスランド出身のヒドゥル・グドナドッティルが担当。エンドロールでは、「ヨハン・ヨハンソンに捧ぐ」というクレジットもある。

前半のハイライトは砂塵地帯での攻防戦だ。イサベルを帰すために車を走らせるマットやアレハンドロたち。空からの監視体制もバッチリで慎重に車を進める(ちなみに本作では空からの監視映像が何度も効果的に使われる)。しかし、まもなく舗装道路が尽きて、砂煙がもうもうと舞う中での走行となる。そこで一気に事態は変わる。いつ敵が襲ってくるかわからない緊張感に包まれて、予測不可能な世界が現出する。そして、ついに……。

激しい銃撃戦の中、イサベラは逃走してしまう。アレハンドロはマットと別れて、1人で彼女を探すことにする。まもなくイサベラを発見するが、そこからは国境越えを目指した2人の風変わりな逃避行が始まる。

問答無用に人を殺す殺し屋が麻薬王の娘を助ける? 何やら不自然に思うかもしれないが、アレハンドロが情け無用の殺し屋になったのには事情がある。彼はもともと検事として麻薬組織を追及していた。それがもとで組織の恨みを買い、ボスの手下によって家族を皆殺しにされたのだ(そのあたりの事情は前作で詳しく描かれています)。

イサベラとの逃避行の途中で、アレハンドロは聾者の男と出会い、手話で会話をするシーンがある。実は彼女の殺された娘も聾者だったというのだ。麻薬王に対する憎しみを持ち続ける一方で、殺された娘の親でもあるアレハンドロは、麻薬王の娘イサベラに複雑な感情を持っている。その果てに彼女を捨て置けないと考えたのだろう。前作での女性捜査官の葛藤といい、本作でのアレハンドロの葛藤といい、なかなかに観応えある心理ドラマではないか。

そんなアレハンドロとイサベラとのさりげない心の触れ合いも、本作のスパイスになっている。イサベラは早いうちに、自分を誘拐したのがアレハンドロたちであることを知ってしまう。だから、一度は逃げ出したわけだが、それでも行動をともにするしかなくなる。そのあたりの屈折した心理も面白い。何しろ彼女が最初に登場したのは学校での殴り合いの場面。自分の悪口を言った生徒をボコボコにしようとしたのだ。その強い少女が、様々な表情を見せるのだから。

そして、そこにもう一つ複雑な要素が加わる。メキシコ警察を相手にした砂煙の中での戦いが原因で、アメリカ政府はマットに作戦中止を命じる。同時に、証拠隠滅のためにアレハンドロとイサベルを消すように命じたのだ。さあ、どうするマット?

ということで、終盤もすさまじいスリルが襲いかかる。アレハンドロとイサベル、マット、そして麻薬組織が絡み合って、国境地帯での壮絶なバトルが展開する。そこでは、カルテルにスカウトされた少年も重要な役どころを果たす。当然ながら、その結末は伏せておくが、ここもまた現場に自分がいるかのようだリアルさだ。

そして観終わると、ホンモノのワルに思えたマットとアレハンドロが、実は血も涙もある人間だということがよくわかるのだ。このあたりも、今回の新機軸かもしれない。

しかし、まあ、ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンの貫禄の演技ときたら。そこに立ってるだけ絵になるのだから恐れ入る。それだけでも観る価値のある映画だろう。それにしても濃いなぁ~。この2人。

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◆「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」(SICARIO: DAY OF THE SOLDADO)
(2018年 アメリカ)(上映時間2時間2分)
監督:ステファノ・ソッリマ
出演:ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンイザベラ・モナージェフリー・ドノヴァン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、マシュー・モディーン、イライジャ・ロドリゲス、デヴィッド・カスタニェーダ、キャサリン・キーナー
新宿ピカデリーほかにて全国公開中
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