「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」
2024年10月11日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン8/H-19)(IMAX)
~ジョーカーの内面の精神世界を描く。予想を覆す斬新な続編
「バットマン」に悪役として登場するジョーカーの誕生秘話を描いた2019年の「ジョーカー」。ホアキン・フェニックスの壮絶な演技もあって、単なるエンタメ映画の枠を超えた奥行きある映画になり、第76回ベネチア国際映画祭で金獅子賞、第92回アカデミー賞で主演男優賞を受賞するなど高い評価を得た。
それから5年。満を持して続編の登場だ。題して「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」。監督は前作同様にトッド・フィリップス。共同脚本のスコット・シルバー、撮影のローレンス・シャー、音楽のヒドゥル・グドナドッティルらも続投している。ちなみに、トッド・フィリップス監督は「ジョーカー」以前は「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」などコメディ畑で活躍していたというのが面白い。
前作で5人を殺害して悪のヒーローとなり、拘留されているジョーカーことアーサー(ホアキン・フェニックス)。ある日、看守の意向で音楽療法のプログラムを受けることになった彼は、そこで謎めいた女性リー(レディー・ガガ)と出会う。一方、彼を巡る裁判が始まり……。
多くのファン(特にアメコミファン)は、アーサーが早期に脱出して自由の身となり、再び悪のヒーローとして縦横無尽に暴れまくる姿を期待したようだ。
だが、そんなことにはならない。本作はアーサーの内面の精神世界を掘り下げる。
冒頭はいきなりルーニー・テューンズ風のアニメだ。その後、実写に移ってもド派手なシーンは出てこない。舞台になるのはアーサーが拘留されている州立病院(刑務所以下のひどい場所)と法廷だけ。
さすがに、これでは地味すぎると思ったのか、はたまたレディー・ガガをキャスティングしたからか、なんとミュージカル劇を大胆に導入している。
前半は、二重人格の症状を抱えているらしいアーサーが薬でそれを抑えて、もう一人のジョーカーという人格を封印し、持病の笑いの発作(突然笑いが止まらなくなる)も見せない。いつも無表情で暗い顔をしているのが印象的だ。塀の外ではヒーローに祭り上げられているが、ここでは看守たちに乱暴に扱われている。
そんなある日、アーサーは別の病棟にいるリーという女性を知る。音楽療法のプログラムで一緒に歌を歌い、親しくなる。アーサーは彼女に恋をするともに表情が豊かになり、生き生きとし始める。しかし、同時にそれまで抑え込んでいた狂気ものぞかせ始める。
前作同様にホアキン・フェニックスの演技が凄まじい。がりがりに痩せこけて目だけがギラギラ光っている。内に秘めた狂気の見せ方も絶妙だ。役になりきっているなどという生易しいものではない。まさしく渾身の演技だ。
それに対するレディー・ガガ演じるリーもくせ者だ。実家に放火して病院に送られたという彼女は、アーサー(というよりジョーカー)に心酔し、彼と心を通わせる。しかし、その実、彼女はいくつも嘘をついている。こちらもガガが巧みに演じている。
映画の中盤、収容者たちが映画を観ている最中に、リーは放火をし、そのどさくさに紛れてアーサーを連れて逃げ出す。しかし、あわやのところで捕まる。
後半は法廷劇。弁護士はアーサーが精神を患っていたことを証明して、無罪を勝ち取ろうとする。そこでは、前作の殺人事件の関係者(ザジー・ビーツ、リー・ギルら)が証言に立つ。リーはそれを傍聴する。なかなか緊迫した法廷劇である。
とはいえ、やはりこの映画で特筆すべきはミュージカルシーンだ。全編にわたってフェニックスとガガの歌が響き渡る。ガガはもちろん見事な歌声を聞かせるし、フェニックスも渋い歌声を聞かせる。2人のデュエットは絶妙だ。そして、選曲も素晴らしい。ビージーズの「ラブ・サムバディ」なんてよくまあ選んだもの。すべての曲が場面場面にぴったり合っている。サントラが欲しいなぁ~。
そして、このミュージカルシーン。現実の場面でも使われているが、大半は空想や妄想の場面で使われる。例えば、アーサーがリーとミュージカルスターとしてステージに立つシーンだ。そんなふうにドラマは現実と架空の世界を行き来する。いや、その境界線はあいまいだ。観ているうちに、どれが現実でどれが架空かわからなくなってくる。考えようによっては全部がアーサー、もしくはリーの妄想に見えないこともない。
裁判でアーサーは弁護士を解任して、化粧をしてジョーカーとして自らを弁護する。その果てに起きるのは信じられない出来事だ。さらに、その先にはアッと驚く衝撃の結末も待っている。
この結末もアメコミファンには不評らしい。まあ、素直に解釈すれば、これでもう続編はないわけだからね。しかし、悪のヒーローの内面を描いた作品の結末としては、なかなかのものだろう。スクリーンに哀愁が漂うラストだった。
いずれにしても、アーサー=ジョーカーが大暴れする映画ではない。これはアーサーの物語であると同時に、リーが悪に染まっていくドラマといえるかもしれない。そういえば、タイトルの「フォリ・ア・ドゥ(Folie à deux)」は、フランス語で妄想や幻覚を共有する精神障害を指すらしい。ということは、アーサーの妄想をリーも確実に共有したのだろう。終盤はアーサーの脆さが際立つのに比べて、リーはひたすらたくましく凛々しい。
賛否両論あるらしい本作。前作が良すぎた上に、大方の人が期待したのと方向が違うドラマだったのがその原因だろう。しかし、アメコミファンでも何でもない私は、単純にフェニックスとガガが歌い踊るのを観ているだけで、入場料分は十分に元を取った感じだった。それぐらい2人の演技が素晴らしかった。これはこれで良くできた映画だと思う。
◆「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」(JOKER: FOLIE A DEUX)
(2024年 アメリカ)(上映時間2時間18分)
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ、リー・ギル、ハリー・ローティー、ビル・スミトロヴィッチ、スティーヴ・クーガン、ジェイコブ・ロフランド、ケン・レオン、シャロン・ワシントン
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