「おくびょう鳥が歌うほうへ」
2026年1月14日(水)新宿ピカデリーにて。午後2時35分より鑑賞(スクリーン4/B-6)
~アルコール依存症からの脱却を目指す女性。シアーシャ・ローナンの演技だけでも観る価値あり

「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」などの演技で知られるシアーシャ・ローナン。彼女が渾身の演技を見せているのが「おくびょう鳥が歌うほうへ」だ。アルコール依存症を抱え、数々のフラッシュバックに苦しみながら、自分を見つめ直していく主人公を力強く演じている。
彼女が演じるのは、ロンドンの大学院で生物学を学んでいた29歳のロナ。故郷のスコットランド・オークニー諸島に10年ぶりに帰ってくる。アルコール依存症のため恋人との関係も破綻した彼女は断酒を決意し、依存症の治療施設に入所して90日間のリハビリプログラムを受ける。そして野鳥保護団体で働きながら孤独な時間を過ごす……。
このドラマは、アルコール依存症の克服を目指すロナの現在進行形のドラマと、その過程で過去のフラッシュバックに苦しむ彼女の姿が交互に描かれる。ただし、このフラッシュバックは時系列に沿ったものではない。時制がバラバラにされて描かれる。
例えば、冒頭近くではロンドンのパブで泥酔し、大暴れして夜の街に放り出されたロナが映る。だが、次の場面、彼女は目の周りに大きなあざを作り、カウンセラーと向き合っている。いったい何があったのか、それは後にならなければわからない。最初は混乱するかもしれないが、それはロナの心の内面の軌跡を追ったもの。だから、次第に彼女の心の内がリアルに感じられてくる。
ロナは、故郷に帰って羊を飼う父を手伝う。実はこの父親は双極性障害で、ふだんは穏やかだが、ひとたび発作が起きると手が付けられない荒くれものになってしまう。そのため、母は父と離れて暮らしていた。これもロナにとって心の重荷になっている。幼少時の父親の破壊行為も描かれる。幼いロナと母は、ただそれを見ているしかなかった。
依存症の施設でリハビリプログラムを受けるロナ。その後はオークニー諸島のパパイ島で、野鳥保護団体職員として希少種「ウズラクイナ」の存在を確認する作業を続ける。海岸沿いの家でたった一人で孤独に暮らす。
その合間にも過去の出来事が彼女の頭をよぎる。優しい恋人との温かな時間。アルコールで羽目を外した姿。恋人との別れ。さらに、暴力事件に巻き込まれ恐ろしい目に遭ってしまったこと。
そうしたフラッシュバックを経て、ロナは次第に自分や家族と向き合うようになる。孤独な生活だからこそ、それが可能になったのだろう。もちろん断酒したとはいえ、酒に手を出しそうになることもある。だが、それを周囲の住民たちの優しさが救う。島の伝統行事もまた彼女の心に光を灯す。
スクリーンには、海に囲まれたオークニー諸島の美しく雄大な自然も映し出される。特に風が吹きすさぶ荒々しい海の風景が、ロナの孤独な心を浮き立たせるようで、詩情豊かに胸に迫ってくる。
劇的な変化が訪れるわけではない。しかし、確実にロナの心は変わっていく。それを象徴する場面が終盤に訪れる。まるで、彼女の心の解放を示しているような場面だ。
監督は、「システム・クラッシャー」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞したドイツ出身のノラ・フィングシャイト。
とにもかくにも、シアーシャ・ローナンの演技だけでも観る価値のある映画だ。
◆「おくびょう鳥が歌うほうへ」(THE OUTRUN)
(2024年 イギリス・ドイツ)(上映時間1時日間58分)
監督:ノラ・フィングシャイト
出演:シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ、ナビル・エルーアハビ、イズカ・ホイル、ローレン・ライル、サスキア・リーヴス、スティーヴン・ディレイン
*新宿ピカデリーほかにて公開中
公式ホームページ https://www.outrun2026.com/
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